アルツハイマー病の薬物療法

Drug treatments of Alzheimer's disease

はじめに

このリーフレットでは、アルツハイマー病の治療に用いられる薬について説明します。薬がどのように効くか、なぜ処方されるのか、どんな副作用があるのか、他に治療法はないか、といったことに触れます。記憶障害の原因は数多くあり、アルツハイマー病はその中のひとつにすぎません。アルツハイマー病以外で記憶障害を引き起こす病気については「記憶の障害、アルツハイマー病、認知症」のリーフレットに詳しく書かれています。

 

コリンエステラーゼ阻害薬 

コリンエステラーゼ阻害薬とは?

英国でアルツハイマー病の治療に用いられる中心的な薬物です。現在、以下の3つの薬が認可されています:

 

薬物名                   商品名

ドネペジル            アリセプト

ガランタミン         レミニール

リバスチグミン      イクセロン

 

この3種類の薬物に大きな違いはありません。どれも、物忘れや不安といったアルツハイマー病の症状を緩和する薬です。根本的な治療法ではありませんが、アルツハイマー病の進行を遅らせる場合があります。

 

この薬にはどんな効果がありますか?

物忘れが改善することがあります。また、ぼんやりした感じや意欲の低下に効くことがあります。症状がよくなった、物忘れの進行が遅くなった、と実感するまでには数ヶ月かかるかもしれません。気分が明るくなったと感じる人もいます。買い物に出かけるなど、それまでできなかったことがまたできるようになる人もいます。

 

どんな副作用がありますか?

よくある副作用には、吐き気、食欲低下、疲労感、下痢、筋肉のつり、睡眠障害があります。薬の量をゆっくりと増やし、食後に内服するようにすると、こうした副作用を軽くしたり避けられる場合があります。副作用は2~3週でなくなっていくのが普通です。また、内服をやめれば副作用もなくなります。副作用についてより詳しく知るには、医師に尋ねるか薬の説明書を読んでください。

 

どのように効きますか?

アセチルコリンは、記憶に関わる脳細胞同士の間で情報を受け渡す働きをする化学物質です。アルツハイマー病では、この脳細胞が死んでいくので、アセチルコリンの量が非常に少なくなり、物忘れになるのです。コリンエステラーゼ阻害薬はアセチルコリンが分解されるのを抑え、脳の中のアセチルコリンを増やします。これによりアルツハイマー病の症状が軽くなるのです。

 

どれくらいの効果がありますか?

この薬物を内服している人の約50~60%の人は症状がやや改善したり、それ以上悪くならずに安定した時期が6ヶ月以上続くようになります。残念ながら、すべての人に効く薬ではありません。最初の数ヶ月で症状の改善や安定がみられなければ、薬の服用をやめるべきです。

 

内服法は?

普通は少ない量から始めて徐々に増やしていきます。副作用は数週間でなくなっていくことが多いので、治療初期に副作用が出たからといってすぐに治療をやめないでください。薬が効くためには毎日内服することが大切です。

 

どれくらいの期間、服薬を続けるべきでしょうか?

薬の効果があるかどうか判断するためには、試行期間としてまず3~4ヶ月の間処方されるのが普通です。いつまで服薬を続けるべきか、はっきりとした見解はありません。治療していても症状が悪化する場合、あなたと主治医はその治療を続ける必要はないと判断することになるかもしれません。

 

薬を処方できるのは?

最初の試行期間は、かかりつけ医ではなく専門医が処方します。通常、病院で専門医の診察を受けることになります。記憶障害の原因となる他の病気ではないことを確認するために、血液検査や脳スキャンが必要になる場合もあります。薬が効いていると判断されれば、専門医が引き続き処方する地域もありますし、試行期間のあとはかかりつけ医が処方を引き継ぐ地域もあります。

 

メマンチン

Ebixa(訳注:日本での商品名はメマリー)とも呼ばれる薬です。グルタミン酸という脳内の化学物質に働きかけると考えられています。アルツハイマー病では、壊れた脳細胞からグルタミン酸が大量に漏れ出て、学習や記憶が障害されます。メマンチンを内服している人の約半分で、認知症後期の進行がいくらか遅くなったことを示す研究があります。メマンチンの副作用は軽いものが多く、主に吐き気、落ち着きのなさ、胃痛、頭痛などがあります。中等度の認知症で、副作用のためにコリンエステラーゼ阻害薬を服用できない場合にこの薬が使われます。より進行した認知症の人にも効果がある場合もあります。

 

イチョウ葉(ギンコウ)

イチョウの木から抽出された自然界にある物質で、記憶力をよくすると昔から考えられてきました。

 

しかし、イチョウ葉を平均6年間飲んでいる3000人以上の人でその効果を調査した最近の研究では、残念ながらイチョウ葉では認知症の発症を抑えられないことや、心臓疾患を持つごく一部の人では認知症を悪化させてしまうことが示されました。

 

ビタミン E

ビタミンEは天然物質で、大豆油やヒマワリの種、トウモロコシ、綿実、全粒粉の食品、魚肝油、豆類に含まれます。ビタミンEは体内でさまざまな働きをします。ビタミンE欠乏症はとても稀です。

 

ビタミンEを内服するとアルツハイマー病の進行が遅くなる可能性があることを示した研究もあります。しかし、その効果を確かめるにはさらなる研究が必要です。ビタミンEは血液が固まるのを妨げる可能性があるので、血栓症(訳注:血液の塊が血管に詰まる病気)のある人や血液を薄める薬を内服している人は注意が必要ですが、アスピリンと併用することはできます。

 

2004年に、合計13万6千人以上の患者を調査した研究がまとめられ、一日400単位以上のビタミンEは有害である可能性が示されました。そのため、一日200単位以上は摂るべきではないという専門家もいます。

 

天然ビタミンEが豊富な食事を摂っているとアルツハイマー病発症のリスクが減るという研究結果もあります。

 

新薬

Rember (レンバー) という薬は、アルツハイマー病の人の脳内にできる神経原線維変化の原因となるタウ蛋白を減らす可能性があります。病気の進行を遅らせることが期待され、大規模な研究が行われています。

 

アルツハイマー病の人の脳内ではアミロイドという蛋白ができ、これが老人斑の原因となります。研究者はこのアミロイドを取り除く免疫療法に挑んできました。最新の研究では、この治療法で老人斑が減ることが確認されました。しかし残念ながら、この治療で記憶は回復しなかったようです。

 

Dimebon (ジメボン) という薬は花粉症の治療に使われていましたが、アルツハイマー病に効くかもしれないということが研究で示されました。薬がどのように効くのかは分かりませんが、神経細胞を保護する可能性があります。

 

Etanercept (エタネルセプト) は炎症や細胞死の原因となるTNFαという化学物質を抑えます。この薬は関節炎にも使用されます。カリフォルニアの研究者はこの薬を脊髄に注入し、アルツハイマー病の人の一部で改善がみられたといいます。しかしこの研究を批判する声も多く、本当にそのような効果があるのか、さらなる研究が必要です。

 

治験に参加すると、さらに新しい治療を試せる場合があります。かかりつけ医や専門医、アルツハイマー病協会のような全国的な組織に相談し、アドバイスを受けましょう。

 

参考文献

  1. 記憶の障害、アルツハイマー病、認知症。王立精神科医学会によるリーフレット。Memory problems and dementia. A leaflet by the Royal College of Psychiatrists.
  2. Donepezil, Galantamine, Rivastigmine (review) and Memantine for the Treatment of Alzheimer's Disease, National Institute for Health and Clinical Excellence (2009).
  3. Access to drugs: Alzheimer's Society (2011).
  4. Ginkgo Biloba - JAMA 2008;300:2253-62.
  5. Vitamin E for Alzheimer's disease, Cochrane Review 2008
  6. Professor Wischik, Presentation on rember[A1]  TM at the Alzheimer's Association International Conference on Alzheimer's Disease (ICAD 2008) in Chicago, Illinois
  7. Holmes et al (2008) Long-term effects of Aβ42 immunisation in Alzheimer's disease: follow-up of a randomised, placebo-controlled phase I trial, Lancet, 372, 216-223.
  8. Doody et al (2008) Effect of dimebon on cognition, activities of daily living, behaviour, and global function in patients with mild-to-moderate Alzheimer's disease: a randomised, double-blind, placebo controlled study, Lancet, 372, 207-215.
  9. Tobinick, E (2007) Perispinal Etanercept for the Treatment of Alzheimer's disease, Current Alzheimer Research, 4, 5, 550-552(3).

 

より詳しく知りたい方へ

Translated by Dr Genichi Sugihara, Yumi Wheeler and Dr Nozomi Akanuma. April 2012

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