男性とうつ:キー・ファクト

うつとは何ですか

生きていれば、気分が落ち込むことは誰にでもあります。しかし、こうした気分の落ち込みが長引きひどくなると、その状態から抜け出せず、自分の力では元どおりになれなくなることがあります。これが医師が診断するところの「うつ病」です。

 

男性のうつと女性のうつは違いますか?

「男性うつ」という独立した病気が医学的に存在するわけではありません。しかし男性は女性に比べて負けず嫌いで、権力や社会的成功にこだわる傾向があります。また、男性は自分が脆く助けを必要としていることを認めたがらず、自分でなんとかしなくてはいけないと考えるものです。そのため、悩みがあっても友人や交際相手、医師になかなか相談しようとしません。男性が必要な治療を受けない理由はここにあるのかもしれません。うつの症状の中には、女性よりも男性に多く見られるものがあります。イライラする、突然怒りがこみあげる、だんだん歯止めがきかなくなる、無謀なことをする、攻撃的になる、などが男性によく見られるうつの症状です。また、男性のほうが女性に比べ自殺により死に至る傾向があります。

 

男性はうつになった時どんな行動をとりますか?

男性は女性に比べて、他人に相談するよりもお酒や薬に頼る傾向があります。たいていの場合、これは悪い結果を招きます(長い目で見れば明らかにそうです)。仕事はうまくいかなくなり、飲酒により無責任になり迷惑で危険な行動をとるようになります。男性は、人間関係や家庭生活よりも仕事に重きを置きがちなので、これにより配偶者(パートナー)との衝突が起こる場合があります。こうしたことすべてが、うつ病になる可能性をさらに高めます。

 

どのような要因が男性のうつと関係がありますか?

男女ともに言えることですが、日常生活におけるあらゆるストレスが、うつ病発症のきっかけとなり得ます。男性の場合には、特に次に挙げるような生活環境や出来事がうつの発症と関係しています:

 

  • 配偶者(パートナー)との関係:既婚男性の場合、結婚生活(あるいは長く一緒にいるパートナーとの関係)の問題が、うつに関連する問題の中で一番多いことが、これまでの研究で明らかになっています。二人の意見が合わないとき、男性は女性ほどうまく切り抜けることができません。口論をすると身体的にも苦しい思いをするので、男性は意見の不一致や難しい議論を避けようとします。相手は話し合いたいのに、避けようとする男性もいます。話し合いを拒まれて無視されたと感じた相手はさらに話し合おうとするのですが、男性にはうるさく小言を言われているようにしか感じられません。そして男性は余計に引きこもるようになり、それがまた相手を刺激し、といった具合です。こうしたことは、二人の関係を破壊しかねません。

  • 性生活: 男性はうつになると身体に自信がなくなり、以前より性的魅力がなくなったと感じます。性行為をまったくしなくなる人も多くいます。それにもかかわらず、男性はうつになってもうつになる前と性交の回数は変わらないものの、いつも通りの性的満足を得られないということが最近の複数の研究によって示されています。なかには性的衝動や性交の回数が増えたという人さえいます。これは、なんとか憂うつな気分を晴らそうとする手段なのかもしれません。また、少数の男性にしか見られませんが、抗うつ薬の中には性欲を減退させるものがあり、これも問題になる場合があります。しかし幸いなことに、うつが軽快するにつれて性欲や性交がうまくいくこと、性的満足感は改善していきます。

  • インポテンツ: うつにより勃起しない、あるいは勃起した状態を維持できなくなることがあります。これも、たいていは治療法があります。

  • 失業と退職:理由がどうであれ、職場を去ることにはストレスが伴います。最近の研究では、失業した男性7人のうち1人までが、退職後6ヶ月以内にうつ病にかかることが示されています。うつになると、次の仕事につくのがさらに難しくなります。

  • 同性愛者とうつ:全体としてみれば、男性同性愛者がそうでない男性に比べうつ病になりやすいということはありません。しかし、同性愛のティーンエイジャーや若者には「カミングアウト(訳注:同性愛者であることを公にすること)」のストレスもあるので、うつになる可能性は高まるようです。

  • 自殺:自殺で死に到る男性の数は女性の約3倍とされています。自殺既遂は離別や死別、離婚を経験した男性に最も多く見られ、大量飲酒者でも多く見られます。過去数年にわたり男性の自殺死亡率は増加し、特に40歳から49歳の年齢層で増えています(訳注:英国におけるデータ)。原因は今のところ分かっていません。

 

助けを得る

自分でできること

  • 心に大きなつまずきを感じたときは誰かに相談してみましょう。
  • ちょっとした散歩でもいいので運動をしましょう。体調維持に良いですし、よく眠れるようにもなります。
  • 野菜や果物をたくさんとり、バランスのいい食事をするように心がけましょう。
  • 酒や非合法薬物は、長期的にはうつ病を悪化させるので避けましょう。
  • ヨガ、マッサージ、アロマセラピーなどのリラックス法を利用するのもいいでしょう。
  • 楽しめることを毎週ひとつはしてみましょう。
  • 生活習慣を見直してみましょう。うつになる人の多くは完璧主義者で、自分を追い込みがちです。現実的な目標をたてて、仕事量を減らしたほうがいいかもしれません。休暇を取りましょう。数日間、毎日の繰り返しから解放されることはうつに効果的です。
  • うつについて書かれたものを読んでみましょう。うつに関する本やウェブサイトを見ればうつ病への対処法も載っていますし、友人や身内の人があなたに起きている状況を理解するのに役立ちます。

 

ものの見方を変える

うつ病を、脳内の化学的な変化によって起こるもの、あるいは過酷な世の中で生きていく上での避けようのない代価だと捉えてみるのもいいかもしれません。うつは弱さや臆病であることとはまったく関係ありません。うつは治療によってよくなります。回復のためには対話療法(訳注:心理療法など、対話を通じて行われる治療法)と薬物療法の両方が重要となってきます。

 

専門家による治療

まずは、かかりつけ医のところに行きましょう。どんな治療法がよいのか検討してくれますし、守秘義務に関して心配なことがあっても相談することができます。かかりつけ医の持つ医療情報が医師の診断書という形になったら、仕事でのチャンスを損なうのではないかと男性の多くが心配します。しかし英国では、雇用主が特定の病気の診断があることだけを理由に解雇したり雇用を拒んだりすることは、法により禁じられています。解雇できるのは、どんな病気であってもその病状が実際に仕事の妨げになっている場合だけです。仮に病状がある程度仕事の妨げとなっている場合でも、障害者差別禁止法(Disability Discrimination Act)に基づき、雇用主には、病気(うつ病を含みます)をもつ人を解雇するのではなく、その人が病気による困難を抱えながらも仕事を続けられるよう職場のサポート体制を整えることが求められています。

 

うつは身体疾患により引き起こされる場合もあるので、適切な健康診断を受けることが必要です。すでに他の病気の治療を受けている場合には、かかりつけ医に伝えましょう。かかりつけ医は心理療法を勧めてくれるかもしれません。あるいはサマリタンズ(訳注:主に自殺防止を目的として、誰にも話すことができない気持ちや問題を話せる場所を提供するボランティア団体。24時間電話相談ヘルプラインでは、秘密厳守、匿名での相談が可能)に相談することもできます。

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