アルコールと高齢者

Alcohol and Older People

 

 

このリーフレットは次のような方のためのものです:

  • ご自分の飲酒について気がかりな年配の方。
  • 周囲にいる高齢者(訳注:ここでは「高齢者」とは、65歳以上で仕事から引退し、現役の第一線を退いた人たちを指しています)の飲酒について心配している介護者や友人、医療関係者。
  • 高齢者の飲酒の問題についてもっと知りたいと思っているすべての方。
  • サポートを得るための方法。

 

高齢者にとっての飲酒は、何が違うのでしょうか?

年をとるにつれて私たちの体は変化していきます。外見的には体つきやしわ、体重増加が目につくでしょう。若い時に比べると、肌の張りや柔軟性もおそらく低下しています。一方で、体の内側では次のような変化が起こっています:
  • 筋肉量の低下
  • 脂肪量の増加
  • アルコール分解速度の低下
つまり、私たちの体は年をとるにつれて飲酒による影響をより受けやすくなっていくのです。また、体の反応やバランス感覚は衰えていきます。なので、たとえ以前と同じ量のアルコールを摂取していても、年をとるにつれて、若い頃よりもアルコールの影響を受けやすくなっているのです。

 

どれくらいの量の飲酒なら安全なのでしょうか?

飲酒量が増えれば、その分だけアルコールは健康に悪影響を与えます。しかし、飲酒しても、大半の人にとって悪影響にはならないような「適量」があります。大まかには次の量が適量とされています:
  • 女性の場合、1週間に14ユニット
  • 男性の場合、1週間に21ユニット
しかし前述のように、年齢による体の変化がありますから、高齢者にとっての安全な飲酒量はこれよりも少な目と考えられます。
 
最近では、多くのアルコール飲料の瓶に、何ユニットのアルコールが含まれているか表示されています。参考に例を挙げておきます:
  • 1パイントの軽めのビール(アルコール度数4%)やウイスキーのダブルには、どちらも2ユニットのアルコールが含まれています。
  • 750mlのワイン一本には8~10ユニットのアルコールが含まれています。したがって、グラス一杯では、グラスの大きさによって、 1 ¼ ~ 3¼ユニットになります。
週単位での上限を勘違いしてしまうことがあります。たとえば、1週間の上限のたった4分の1の量でも、数時間で一気に飲んでしまえば、健康への悪影響は大きくなります。

 

飲み過ぎている人はどれ位いるのでしょうか?

高齢者は概して、若者よりもアルコール摂取量が少ない傾向があります。とはいえ、5人に1人の高齢男性並びに10人に1人の高齢女性は、危険と考えるに相当する量のアルコールを摂取しています。こういった人たちの割合は、この20年の間に、男性で40%、女性で100%増加しています。

 

「適度な」飲酒にも危険はあるのでしょうか?

上限を守って飲酒をしているというだけでは安全とはいえません。高齢者の飲酒に関する調査研究はとても少ないため、これらの上限が誰にでも当てはまると考えるべきではないでしょう。他にも以下のようなアルコールに特有の問題があります:
  • 健康に問題があれば、アルコールの影響をさらに受けやすくなります。
  • 体のバランス感覚は年齢とともに低下します。少量のアルコールでも、足元が不安定になったり転びやすくなったりします。
飲酒によって次のようなことも起こりえます:
  • 痛み止めや睡眠薬など、効果が促進される薬があります。
  • 効果が弱まる薬もあります。たとえば、血液を薄めるための薬(ワーファリン)を飲んでいる場合、飲酒によって効き目が弱まり、出血や、血流の中で血栓や血の塊ができるリスクが高まります。
あなたの健康状態と服用中の薬との組み合わせを考えて、飲酒しても大丈夫か、主治医に確認するのがよいでしょう。

 

アルコールの飲み過ぎは、どのような危険がありますか?

アルコールは体のほぼ全域に悪影響を与えます:
  • 胃の粘膜 → 潰瘍や出血
  • 肝臓 → 肝硬変や肝不全
  • 心筋(心臓) → 心不全によって肺の中に水が溜まっていきます。これによって息切れが起こります。
  • がん → 口、胃、肝臓にがんができる可能性があります。
  • 栄養不良 → アルコールは、エネルギーとなるカロリーは高いですが、たんぱく質や脂肪、ビタミンなどの体を健康に保つ栄養素をまったく含んでいません。
  • バランス感覚 → 転倒や事故に遭う可能性が高くなります。(適度の飲酒でも同様です。)
  • 記憶喪失や痙攣発作
  • 脳卒中
  • 睡眠の質の低下 → 日中の疲労感につながります。

過度な飲酒をしているすべての人にこのような健康上の問題が起こるわけではありません。しかし、飲酒量が増えれば、その分だけこのような問題は起こりやすくなります。

 

飲酒はむしろ心臓によいのではないのでしょうか?

飲酒量が1日に1ユニット程度であれば、心臓発作がいくらか起こりにくくなります。ただ、これは40代から50代の男性の研究結果なので、すべての人には当てはまりません。むしろ、体重維持や運動の頻度、そして高血圧や高コレステロール、糖尿病などに対して適切な治療を受けているかによって、心臓発作の発症に大きな違いがあるでしょう。

 

 

アルコールは、こころの健康にはどのような影響を与えるのでしょうか?

飲み過ぎは以下のような問題を引き起こすでしょう:
  • 不安:アルコールが体から抜けていくにつれて不安に襲われてくるためで、軽い離脱禁断症状のようなものです。ですから、気持ちよくなろうともう一杯飲むようになりますが、アルコールが抜けていくたびにまた同じ不安を抱くようになります。
  • 抑うつ:食欲がなくなり、よく眠れなくなり、疲れやすくなります。これまで楽しんでいたことに興味がなくなったり、本を読んだりテレビを観ても理解するのに時間がかかるようになったりします。将来に対して前向きに考えられず、あるいは生きる価値などないとさえ感じるようになります。
  • 幻聴:これはまれにみられる症状ですが、長期間に渡ってかなりの量の飲酒を続けていれば起こりうるでしょう。木のざわめきのようなあいまいな雑音から始まって、徐々にはっきりとした声が聞こえるようになっていきます。不快で気持ちの悪いものであり、注意力が散漫になります。
  • 混乱:もし飲酒ばかりで食事をしていなければ、重要なビタミンであるチアミンの不足によって混乱したり足元がおぼつかなくなったりします。早急に治療を受けなければ、短期記憶(訳注:最近の出来事を思い出す能力)の能力が半永久的に損なわれてしまう場合があります。これをコルサコフ症候群といいます。
  • 認知症:新しい情報を覚える能力が失われます。アルコールの影響ではなく、「加齢」によるとされることもあります。

 

高齢者の飲酒問題はどのように進んでいきますか?

飲酒問題を抱えている高齢者の約三分の一は、晩年になってから発症しています。身内との死別や身体的な病気、出歩くのが大変になること、社会の中での孤独によって、退屈したり気持ちがふさいだりします。身体の病気は痛みを伴うものかもしれません。こうした辛さに耐えるためにアルコールに頼りたくなるでしょう。すると、飲酒は日課となり、止めることが難しくなります。若者と比べると、家族に対する責任や毎日仕事に行かなくてはならないプレッシャーは小さいですから、飲酒を控えるプレッシャーも小さいでしょう。
 
医療関係者でも、高齢者の過剰飲酒の問題を見落とす可能性があります。それは、以下のような理由によります:
  • 高齢者は、おそらく恥ずかしさのために、自分の飲酒についてあまり話さない傾向があります。
  • 専門家は、アルコールの影響を心身の問題と見誤ります。
  • 専門家は、高齢者が飲酒の問題を抱えうることを忘れがちです。そのため、その点にあまり注意を払わないのです。
  • 高齢者に飲酒について尋ねる時間を割けない。

 

どのような治療を受けることができますか?

高齢者の飲酒問題は、若者に比べて治療しやすいことがしばしばあります。
 
治療には次のようなものがあります:
  • 解毒、あるいは「デトックス」:アルコールの離脱症状を和らげる薬を服用し、徐々に薬を減らしながら、数日後ないし数週間後には投与を止めます。高齢者は通常、入院してこの治療方法を受けるのが最も望ましいです。
  • 自助グループ:多くの人にとって、深刻な飲酒問題を乗り越えるためには、AA(アルコホリック・アノニマス)のような自助グループが有益であるようです。しかし、中には合わない方もいます。このようなグループは概して、完全に飲酒を断つための手助けをしていますが、多くの年配の方は、飲酒量を減らしたいだけと考えるかもしれません。また、出歩くのが難しい方は、会合に参加しにくいでしょう。
  • 心理療法あるいは「対話を通しての治療法」:この治療は「一対一」、あるいは互いに体験談を共有し合えるグループで行われます。治療者(セラピスト)は、あなたの抱えている問題の善し悪しを決めつけずに話をするのに長けています。これにより、完全な断酒や、飲酒を上手くコントロールするためのサポートが得られるでしょう。幾分時間がかかったり、挫折や症状がぶり返すかもしれません。しかし、これは当たり前のことであり、一度の挫折で失敗というわけではありません。
  • 興味のある活動を見つけて取り組んでみることも必要です。そうすることで、アルコールについ手が伸びてしまう日常習慣を断ち切ることができます。友人やご家族が手助けしてくれるでしょう。
  • アカンプロセイト(Acamprosate)やナルトレキソン(naltrexone)は、断酒をした際に処方される薬です。これらは主に若い人に処方されます。高齢者への安全性や効果が明らかではないためです。
  • 飲酒のきっかけとなったそもそもの問題への対処も大事です。これらは、不安や落ち込み、あるいは単純に、人とあまり会わないということが原因だったりします。

 

まずは何から始めたらよいでしょうか?

もしあなたがアルコールの問題を抱えていると思ったら、まずはかかりつけ医に相談しましょう。必要に応じて、検査やカウンセラーを教えてくれるでしょう。また地元のNHSのアルコール専門チームを紹介してくれるでしょう。
 
また、飲酒問題に関する無料アドバイスを行っている団体も多くあります。


 

参考文献

The Royal College of Psychiatrists (2011) Our Invisible Addicts: College Report CR 165. London: The Royal College of Psychiatrists.

Rao, T. (2011) Older people and dual diagnosis - out of sight, but not out mind. Advances in Dual Diagnosis, 4(1), 4:6.


 

支援団体一覧

Addaction
禁酒を最終目標とする人たちとその家族をサポートします。メールアドレスはこちら: info@addaction.org.uk

Age UK
誰もが充実した老後を過ごせるために、情報共有やアドバイスの提供、キャンペーンや商品販売、トレーニングや調査研究を行っています。ナショナルインフォメーションラインはフリーコールで0800 169 6565です。
 
アルコホリックス・アノニマス(Alcoholics Anonymous)
ナショナルヘルプライン: 0845 769 7555
 
Alcohol Concern
飲酒問題を取り扱う全国的な機関です。効果的なアルコール政策がとられるように働きかけたり、飲酒問題で生活に支障をきたしている方へのサービス改善に取り組んでいます。メールアドレスはこちら: contact@alcoholconcern.org.uk   
 
Drink Aware
アルコールが生活やライフスタイルに与える影響をよく考えた上での選択ができるように、消費者への情報提供をしています。
 
Foundation 66
Foundation 66は、個人や地域コミュニティ、政策立案者と主に活動し、アルコールや麻薬問題による影響を減らすための活動に取り組んでいます。メールアドレスはこちら: info@foundation66.org.uk
 
Institute of Alcohol Studies
社会における飲酒問題に対する意識向上のために、幅広い目的を持つ独立系組織です。
 
Turning Point
複合的なニーズを持っている方々に対してサービスを提供する社会福祉団体です。麻薬やアルコールの誤った摂取によって悪影響を受けている方やこころの問題を抱えている方、学習障害者の方なども対象としています。メールアドレスはこちら: info@turning-point.co.uk

Translated by Hiroyo Koyama, Akiko Tatsuta and Dr Nozomi Akanuma. June 2013.

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