アルツハイマー病とその他の認知症精神科医、介護者と共に向き合う
Alzheimer's disease and other dementias working in partnership with psychiatrists and carers
免責事項
はじめに
このリーフレットは、次のような方々に向けて作成されたものです:
- アルツハイマー病やその他の認知症をもつ親族、配偶者(パートナー)または友人のために無報酬で介護や支援を続けている介護者。
- この病気をもつ人の介護や治療に携わる精神科医や精神保健チームのスタッフ。
このリーフレットでは、アルツハイマー病あるいはその他の認知症と初めて診断された際に、本人と周りの人たちがより良い意思疎通を図り、協力関係を築けるような方法を提案しています。
介護にあたる方のための情報
アルツハイマー病とその他の認知症について
認知症とは脳の機能低下を伴う脳の病気を指す用語です。通常、進行性であり最終的には深刻な状態に至ります。認知症には100を超える種類があり、中でも多いのがアルツハイマー病、脳血管性認知症、そしてレヴィー小体型認知症です。認知症は正常な加齢現象の一部ではありませんが、高齢者により多く見受けられます。80歳を超えた人のうち、およそ20%が認知症を患っています。
初期の行動変化
介護をしていると、以下のような徴候に気がつくでしょう:
- 日々の生活に影響を及ぼすほどの物忘れ
- 毎日の日課に支障をきたす
- ごく当たり前の物の名前を思い出せない
- 慣れ親しんだ場所でさえも迷いやすくなる
- 気分や振舞い、性格に変化が現れる
- 趣味への関心がなくなる
- 身だしなみや身なりに注意を払わなくなる
- 記憶力が落ちることへの不安
認知症の診断
認知症であるかどうかを確かめる唯一絶対の検査方法はありません。医療者は、本人や身近な家族、友人との対話を通じて本人の経過を理解し、症状を生じうるさまざまな原因を考慮した上で、診断をします。
介護者として、以下のように感じるかもしれません:
- 自分がよく知っていた人を失ってしまうのではないかという不安
- 問題があるということを受け入れることに対する恐れ
- 本人を介護したり安全に気を配ったりすることによる疲労
- それまでと違う本人の態度に対する苛立ち
- 愚痴をこぼしたり助けを求めたりすることで、本人を裏切っているのではないかと恥ずかしく感じる
- 将来や、収入が減るかもしれないことに関する不安
- 慢性疾患のある人を介護するための長期的な金銭的責任に対する不安
介護者へのアドバイス
医師や精神保健チームのスタッフとの協力関係
医師や精神保健チームのスタッフ、認知症をもつ本人、そして介護者の間での円滑な意思の疎通は大切ですが、時間と努力を要するものです。本人のケアにあたるスタッフや医師たちとの間に良好な長期的関係を築くことは、認知症のような慢性疾患の場合にはとりわけ重要になります。認知症が進行するにつれ、本人とその介護者のニーズも変化します。日頃からきちんと準備して医師と向き合うことが、最善のケアにつながります。
かかりつけ医は、専門医へ紹介する前の初期検査をおこないます。その後、以下のような専門家への紹介が考えられます:
- 神経内科医
- 老年病専門医
- 一般成人を専門とする精神科医
- 老年期を専門とする精神科医
- 精神保健チームの看護師や他の職種のスタッフ
医師へ尋ねるべき質問
- 診断は何を意味しているのでしょうか?
- 私に分かるように説明してもらえますか?
- 治療方法はありますか?
- 状況をよくするために自分たちでできることは他にありますか?
- 近い将来、そして時間の経過につれて予想されることは?
- どのくらいの頻度で診察を受ければよいですか?
- この病気について、何か資料はありますか?もしなければ、どこへ行けば手に入りますか?
- 生活をしやすく、安全にするために家の中で改良できることはありますか?
- 役に立つ組織や地域のサービスはありますか?
- 指導や助言を求める際、私にとっての主な窓口になってくれるのはどのスタッフですか?
帰る前に、次回の予約をお忘れなく。
次回の再診察までに準備できることを以下にまとめました:
- 前回の診察以降の本人の行動変化や飲んでいる薬を、気になることや質問と共にノートにつけておきましょう。
- 最後の診察以降に収集した情報すべてに目を通し、最も気になる点3つを書き留めておきます。そうすると、大切なことを聞き忘れることがなくなります。気にかかる疑問には、以下のような点が含まれるかもしれません:
- 症状の変化
- 薬の副作用
- 本人の全般的な健康状態
- 介護者自身の健康状態
- 必要と思われる支援
診察の際に心がけることは:
- 分からないことがあれば、質問しましょう。発言することを躊躇しないでください。
- メモを取りましょう。診察の終わりにメモを見直し、理解した内容を医師に確認してください。こうすることで医師は、間違いや、漏れている内容があれば、正すことができます。
医師と対話する際のその他のアドバイス
医師は患者との間に守秘義務があるため、患者である本人の診断について介護者と話すことをためらう場合があります。本人の症状が重く状況が理解できない場合、医師は話し合いや意思決定に介護者の関与を求めることが一般的です。
医師が介護者であるあなたの同席に難色を示す場合、できることがいくつかあります。
- あなたが介護している本人に診察に同席してもよいかたずねます。本人の同意があれば、医師が拒否することは少ないでしょう。
- 他の介護者たちに何か良い案がないかたずねてみましょう。
- 看護師など、精神保健チームのスタッフに相談してみましょう。
- アルツハイマー病協会ヘルプライン(0845 3000 336)または過去に助言を受けたことのある組織に連絡してみましょう。
ご自身のケアも忘れずに。
- 心配なことがあれば、友人や家族に相談してください。
- ご自分の感情を抑え込まないでください。泣くのは悪いことではありません。
- 友人と連絡を取り合ってください。時折訪ねて来てもらうとよいでしょう。
- 眠れない、疲れ果てる、不安、精神的な落ち込みなどの症状があれば、ご自身のかかりつけ医の診察を受けてください。
- 自分の時間を持ち、簡単な運動をするよう心がけましょう。
医療・ケアに従事する専門職の人たちへ
認知症を患う人たちやその介護者たちと関わる医療・介護の専門職の人たちがよいケアを提供するために、下記の情報が役に立つよう願っています。
評価をおこなう際、以下のことをしていますか?
- 認知症をもつ本人と介護者を個別に、そして一緒に面接するよう心がける。
- 初めて診察する際は本人宅でおこなうよう心がける。
以下のことに十分な時間を確保していますか?
- 聴き、質問し、さらに聴く。
- これまでの生活史を聞き取る。
- 質問や話し合いの時間を設ける。
- 診断に至った経緯を説明する。
- 予後について話す。
病気の経過観察に際して、以下のことをしていますか?
- 可能な治療方法について話し合う。
- 薬で起こりうる副作用について説明する。
- 介護者の心身の健康状態について質問する時間をとる。
- 認知症をもつ本人そして介護者双方が必要とする介護ニーズを満たす方法について話し合う。
次のことを覚えておきましょう:
- 誰でも時には休息が必要である。
- 他の家族とも話す用意があることをはっきり伝える。
- 診察したすべての人をアルツハイマー病協会または介護者支援組織へ紹介する。
- いつでも相談に乗れることをはっきり伝える。
- 質問がある場合に連絡できる電話番号を教える。
- 家族がいつでも連絡の取れる特定のスタッフを決めておく。
- かかりつけ医へ手紙を書く際には、介護者へも写しを送付する。
- かかりつけ医へは書面で連絡するだけでなく電話で話すことも心がける。
さらに情報が必要な場合
Carers Trustは、2012年4月にThe Princess Royal Trust for CarersとCrossroads Care との合併により新たに設立された慈善団体です。病気や虚弱であったり、身体の障害、こころの健康や依存症の問題のために介護を必要とする家族や友人のために、無報酬で介護を行っている人たちのためのサポートやサービス、介護者が日々直円する問題に対する社会の認識を向上させるべく、活動しています。関連する機関と力を合わせ、英国のすべての介護者が、情報やアドバイス、実践面での支援を受けられることを目指しています。
Devon House, 58 St Katherine’s Way, London E1W 1JX
電話番号: 020 7423 3500; ヘルプライン: 0845 300 0336;
Eメール: enquiries@alzheimers.org.uk
Alzheimer’s Societyは認知症をもつ人とその家族を支援するための組織で、以下の活動をおこなっています:
- 電話ヘルプラインや支援グループなど、実務的、精神的な支援
- 情報提供
- 介護者や医療従事者のための研修
- レスパイト・ケア(訳注:家族や介護者、または本人が数時間または数日間息抜きできるよう、介護者を手配したり短期の休暇を設ける制度)などのサービス
6 Camden High Street, London NW1 0JH
電話番号: 0207 874 7200; Eメール: info@dementiauk.org
Dementia UKは、地域や住居型施設で暮らす認知症をもつ人と介護者を支援する団体で、1対1の支援やアドバイス、カウンセリングを提供しています。
Alzheimer’s Disease International (www.alz.co.uk) から、2003年世界アルツハイマー・デイのリーフレット改作の許可をいただき、同協会のご協力のもと、Nori Graham医師とHarry Cayton氏がこのリーフレットを執筆されました。ここに心より感謝を申し上げます。
このリーフレットはPartners in Careキャンペーンの一環としてRoyal College of PsychiatristsおよびThe Princess Royal Trust for Carersが共同で作成したものです。
Partners in Care campaignの目的のひとつ、そして知らせたいことは、こころの健康問題や学習障害を抱える人の介護に関わるすべての人々が共に問題に取り組むことができたなら、介護者、患者そして医療・ケアに従事する専門家たちとの間に信頼できる協力関係が生まれ、全員がその恩恵を受ける、ということです。
Translated by Nobuko Hirano, Yumi Wheeler and Dr Nozomi Akanuma. June 2012.