不安障害、パニック障害、恐怖症

Anxiety, Panic and Phobias

 

はじめに

不安とは、怖い思いをしたり困難な状況に陥ったときに誰もが持つ感情です。不安を感じたとしても、その状況に慣れてしまえば不安に思わなくなります。また、状況が変わったり、不安を感じる場面から離れれば、不安はなくなります。

しかし、不安がずっと続いたり、特別な理由もないのに不意に不安になる場合、日常生活に大きな支障が生じます。

このリーフレットでは、不安一般についてと、次の3タイプの不安障害について説明しています。

  • 全般性不安障害
  • パニック障害
  • 恐怖症

このリーフレットは不安障害を抱えている人のために書かれたものですが、不安障害のことをより理解したいと考えている友人やご家族の方もお読みください。

 

不安とは

不安とは恐怖に似た感情です。経済的な困難など、自分では解決できない生活上の問題によって引き起こされる感情は「心配」といいます。崖から下をのぞく、怒った犬に出くわすといった、差し迫った脅威に対する急激な反応は「恐怖」といいます。

これらの感情は不快なものですが、こうした感情が起こるのには意義があります。心配、恐怖、不安は役に立つ感情なのです。

  • 心理的な意義 -心配、恐怖、不安があることによって用心深くなり、先のことを考え、困難に取り組もうとする意欲がわいてきます。
  • 身体的な意義 -危険に際し、すぐに激しく動いて、逃げたり戦ったりできるよう身体を準備します。これは「闘うか逃げるか反応」と呼ばれています。

このような感情が強すぎたり必要以上に長く続いたりする場合に、問題が生じます。落ち着きがなくなり、やりたいことができなくなるのです。多くの場合、日常生活に支障をきたすことになります。

 

不安障害の発症率

10人中一人が、一生のうちの一度は、不安障害や恐怖症になります。しかし、ほとんどの場合治療を必要としません。

 

「ストレス」と同じような感じですか?

生活の中で受けるプレッシャーにうまく対処できないとき、人はよく「ストレス」という言葉を使います。ストレスは、不安障害やうつ病、酒や薬物の乱用などの問題につながることがあります。

 

不安はよくないことですか?

実際に不安が役に立つ場合もあります。不安があることで用心深くなり、適切な行動を取ろうとします。しかし、役立つ場合もある、というだけの話です。不安が強烈すぎたり長引いたりすると、仕事がはかどらなくなったり、気分の落ち込みや体調が悪くなったりすることがあります。

 

不安障害と体の健康

不安障害はさまざまな病気と関連していると考えられています。しかし、どのように関連しているかはよくわかっていません。ほとんどの場合、不安障害のほうが先に現れるようです。たとえば、パニック障害のある高齢者は心臓疾患にかかりやすいとされています。

 

不安障害の症状

精神症状

身体症状

  • 常に心配でたまらない

  • 脈が速くなったり不規則になる(動悸)

  • 疲れがとれない

  • 冷や汗が出る

  • 集中力がなくなる

  • 顔色が悪くなる

  • いらいらする

  • 口が渇く

  • よく眠れない

  • 筋肉の緊張や痛みがある

  • 気分が落ち込む

  • 体が震える

 

  • しびれやうずくような痛みがある

 

  • 呼吸が速くなる

 

  • めまいがする

 

  • 気が遠くなる

 

  • 胃がもたれる

 

  • トイレが近くなる

 

  • 吐き気や胃けいれんが起こる

 

  • 下痢になる

 

 こうした不安障害の症状は、深刻な身体的疾患の症状とよく間違われます。「自分は悪い病気にかかっているのでは」と心配になると、不安障害はさらに悪くなります。不安障害やパニック障害にはうつ状態を伴うことがよくあります。落ち込み始めると食欲がなくなり、将来を悲観して絶望的になります。

 

  • 全般性不安障害(Generalised anxiety disorder, GAD)

ある特定の状況においてだけでなく、常に不安感があります。こうした強い不安がずっと続いていると、パニック発作や恐怖症(以下参照)を併発する場合があります。

 

  • パニック発作

突然、強烈な不安に襲われます。多くの場合、自分で「不安になりそうだ」と感じる状況で発作は起こります。不安症状が突然現れ、10分ほどのうちにピークに達します。また、次のような症状がみられることがあります:

  • 死んでしまうのではないかという恐怖
  • 気が狂ったり自制心を失うのではないかという恐怖
  • 息が切れるような感覚
  • 息が詰まるような感覚

パニック発作はあまりに突然で激しいため、このまま死んでしまうのではと考えてしまいがちです。実際、胸痛で救急外来に来る人の約4分の1はパニック発作によるものです。

症状は全般性不安障害(上記参照)とほとんど同じですが、パニック発作の症状はもっと激しくて、出たり消えたりします。このため、全般性不安障害とは異なる治療が必要です。

 

  • 恐怖症

実際には危険でも何でもなく、ほとんどの人が問題にしないような状況や物に対して恐怖を感じます。不安の元になっている状況や物に近づけば近づくほど不安が増すので、それを避けようとします。不安の元となる物や状況から離れれば不安はなくなります。

よく見られる恐怖症には次のようなものがあります。

  • 広場恐怖 -容易に逃げ出すことができないような公の場所(人ごみ、行列、バスや電車の中、橋の上など)に対して恐怖を感じます。家に引きこもりがちになります。
  • 社会恐怖 -他の人と一緒にいることに対して恐怖を感じます。人が自分のことを品定めしているのではないか、人前で恥ずかしい思いをするのではないかと不安になります。外食や人との会話が苦痛になり、特に初対面の人と会ったりパーティに参加したりすることが困難になります。
  • 特定の恐怖症 -クモ、針、高所、飛行機に乗ることなどに対して恐怖を感じます。

不安を感じる状況を避けることによって、ますます恐怖症が悪化してくるという問題があります。自分を脅かすものを避けるための段取りに、多くの時間を費やすようになります。自分でも実際には危険でもなんでもないとわかっていて、怖がることをばかばかしいと感じることすらありますが、それでもコントロールできないのです。恐怖症は痛ましい出来事や衝撃的な出来事をきっかけに発症することもあります(犬に襲われて犬恐怖症になる、など)。

 

不安障害の原因

  • 遺伝

生まれつき不安を感じやすい人がいます。こうした傾向は遺伝によるものだとする研究もあります。しかし、もともと不安を感じにくい人でも相当のプレッシャーを受ければ不安を感じます。

 

  • 誤解から生まれる症状

軽度の不安からくる身体的症状を、深刻な病気によるものだと思い込む人がいます。このことでさらに不安になり、症状が悪化し、もっと不安になり……と悪循環になります。

 

  •  心的外傷

不安の原因が明らかな場合には、その原因がなくなれば不安も解消します。しかし、不安の原因があまりに強烈な場合、その出来事が過ぎ去った後もずっと不安が続くことがあります。

このような症状は、多くの場合、自動車事故、列車事故、火事など、生命が危機にさらされるような出来事に巻き込まれた人に見られます。たとえ身体的な被害を受けていないとしても、事故後何ヶ月、何年と、神経が高ぶったり不安を感じたりすることがあります。

幼少期に受けた育児放棄や虐待、成人後の長年にわたる虐待や拷問などが原因となることもあります。これらは(心的)外傷後ストレス障害と呼ばれています。

 

  • 薬物

不安障害は、覚せい剤、LSD、エクスタシーなどの非合法薬物の使用によっても引き起こされることがあります。コーヒーに含まれているカフェインでさえも、不快な不安障害を引き起こす恐れがあります!

 

  • こころの健康問題

こころの健康問題が不安障害を引き起こすこともあります。うつ病の人の約半数が、ある時点でパニック発作を起こします。

 

  •  身体疾患

甲状腺障害などの身体疾患が不安障害を引き起こすこともあります。

 

  • 以上のことを踏まえても..

なぜ不安障害が起こるのか、はっきりわからないこともあります。不安障害の原因には、性格や経験、ライフスタイルの大きな変化など、さまざまな要因が絡み合っているからです。

 

自分でできること

  • 現実的な問題を片付ける - 人間だったら不安を感じるのは当たり前のことです。たいていの不安には理由があります。生活の中から心配事をすべて取り去ることはできません。現実的な問題を抱えているなら、現実的な支援を受けるのが一番です。たとえば、Relate (訳注:英国のカウンセリングサービス団体) では、配偶者などパートナーとの関係に関するカウンセリングを受けられますし、市民相談窓口 (Citizens Advice Bureaux, CAB) では金銭トラブルを解決するための相談を受けつけています。
  • 悩みについて話す - 不安障害が、配偶者(パートナー)との破局、子どもの病気、失業などといった最近体験したつらい出来事からきているのであれば、その不安を誰かに話すことで気持ちが楽になります。誰に悩みの相談をすべきでしょうか?信頼し尊敬できる聞き上手な友人、家族に相談してみましょう。その人自身も同じような悩みを抱えていたことがあるかもしれませんし、同じような人を知っているかもしれません。相談すると、他の人たちがどう不安障害と向き合っているのか知ることができるかもしれません。
  • 自助グループ -自助グループに参加すれば、同じような悩みを抱えている人たちと交流することができます。あなたの悩みを理解してくれますし、問題にどのように対処したらよいか助言してくれるかもしれません。このようなグループには不安障害や恐怖症に対象を絞っているもののほか、女性のグループ、子どもを失った親のグループ、虐待体験者のグループなど、同じような経験をした人たちで作られているグループもあります。
  • リラックス法を学ぶ-「リラックス」なんて誰にだってできる、と思っていませんか?確かにそうかもしれませんが、不安がどうしても治まらないときに特別なリラックス法を知っておくと、不安や緊張を多少なりともコントロールすることができ、とても役に立ちます。こうしたリラックス法は、グループや専門家から学ぶことができます。本やDVDを用いて自分で習得することもできます (下記参照)。症状があるときだけでなく、定期的に行うのがよいでしょう。
  • 運動をする -定期的に運動することで、不安の程度を抑えることができるとしている報告があります。
  • 読書療法 -セルフ・ヘルプ用の本を使った療法です。多くの人に効果がみられることが明らかになっています。現在市販されている本のほとんどは、認知行動療法 (CBT) という方法を採用しています。

 

家族や友人へ

不安障害や恐怖症を抱えている人のなかには、家族や親しい友人にさえ悩みを打ち明けようとしない人もいます。それでもたいていの場合「何かがおかしい」ということは明らかにわかります。顔色が悪く緊張していて、玄関の呼び鈴や車のクラクションといった日常の音にもドキッとします。また、イライラしやすくなり、そのせいで身近にいる人と口論となります。その人がなぜ特定の事柄を恐れるのか身近な人が理解していないと、こうした口論はさらに起こりやすくなります。友人や家族は、不安障害から来る苦しみを理解することはできるのですが、その苦しみを実感するのは難しいかもしれません。不安の原因が理不尽なものだったりするとなおさらです。

 

治療を受ける

不安がなかなか治まらないのであれば専門家のアドバイスを受けてみましょう。「頭がおかしい」と思われるのが心配で、アドバイスを受けたくないと思う人もいるかもしれません。しかし実際のところ、不安障害や恐怖症を抱えている人に深刻な精神疾患は多くありません。ただ苦しんでいるより、できるだけ早くアドバイスを受けたほうがずっと良いのです。

  • 認知行動療法(Cognitive Behavioural Therapy, CBT)

「考え方の癖」が不安障害を悪化させ、不安障害の原因となることすらあるということを、対話を通じて理解していきます。「考え方の癖」とは、このようなものがあります:

  • 悪いことが絶対起きると早合点してしまう。
  • 最悪の事態が起きるに違いないと自動的に考えてしまう。

こうした考え方はひどく不安をかり立てますが、いずれも現実離れしています。悪いこともたまには起きるし、ときには最悪なことだって起きます。しかし、必ず起きるとか、いつも起きるとかいうものではありません。

認知行動療法を行うことで、このような極端な思考のあり方を変えることができます。気分はよくなり行動のしかたも変わります。

無用な心配を「単なる思考」だとする「マインドフルネス」という方法にも効果があります。心配事でひどく苦しむかわりに、それを受け入れ「ほうっておく」方法を身に付けることができます。

 

  • 恐怖症を克服する

段階的曝露(ばくろ)法とは、恐怖の原因となるものに段階的に直面していく方法です。恐怖を感じる状況に留まると、不安は次第に減っていき、やがては無くなる、ということを利用した行動療法です。

例)ケイトは鳥恐怖症でした。彼女は直面しなければならない状況を、一番簡単なものから一番難しいものまでを順に書き出しました。言うなれば「不安の階段」です。

  1. 寝室の壁にコマドリの写真を貼る。
  2. 鳥に関するドキュメンタリー番組を観る。
  3. ペットショップへ行き、鳥かごに入っているオウムの隣に立つ。
  4. 公園へ行き、カモがいる池のそばを通る。
  5. 公園へ行き、ベンチに座ってカモにえさをやる。

彼女は、「不安の階段」の各段の課題を、不安がなくなるまで何度も何度も十分に時間をかけながら練習しました。不安を感じずにすむようになったら、次の段階へと進みました。

この治療法はグループでも個人でも行えます。通常、週一回、数週間もしくは数ヶ月間かけて行います。心理療法士の中には、医師の資格を持つ人とそうでない人がいます。

 

  • コンピュータを用いた認知行動療法

現在、認知行動療法用のコンピュータプログラムが数多く出ています。これらを用いて認知行動療法に自分で取り組むことができます。英国国立医療技術評価機構 (NICE; National Institute of Clinical Excellence)の指針では「FearFighter」というパニック障害や恐怖症がある人のためのプログラムを推奨しています。このプログラムは、かかりつけ医の判断のもとインターネットを通じて使用することができます。

この方法で十分な効果が見られない場合は、かかりつけ医、精神科医、心理療法士、ソーシャル・ワーカー、看護師、カウンセラーなど各方面の専門家に相談しましょう。

 

  • 薬物療法

不安障害や恐怖症の治療には、薬物療法を取り入れる場合もあります。

最も一般的な精神安定剤は、ジアゼパムのようなベンゾジアゼピン系薬剤です。ほとんどの睡眠導入剤もこれにあたります。これらの薬は不安を抑えるのにとても効果的ですが、規定量を4週間服用しただけでも依存が生じることがある、ということがわかっています。服用を止めると、不快な離脱症状が現われることがあり、それがしばらく続きます。これらの薬は、全般性不安障害の治療では応急的な措置として用い、2週間以内の短期の使用にとどめなくてはなりません。不安障害の治療薬として長期に使用してはいけません。パニック障害の治療には絶対に使用してはいけません。

抗うつ剤は、通常うつ病に処方されますが、不安障害の症状を緩和するのにも効果があります。効果が出るまでに2~4週間かかるので、適正な効果を得るためには定期的に服用しなければなりません。通常は、比較的新しい抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) を最初に使用します(訳注:SSRIについては、抗うつ薬のリーフレットをご覧ください)。もし効果がなければ、古くから使われている三環系抗うつ薬、もしくは、ベンラファキシンと呼ばれる比較的新規の抗うつ薬を試します。

β(ベータ)遮断薬は通常、高血圧の治療に使われる薬です。この薬を少量内服することで、不安から生じる体の震えをコントロールできる場合があります。人と会う直前に服用してもよいですし、公の場で話すときや人前で何かをしなければならないときに、事前に服用することもできます。

 

どの治療法が一番効きますか?

効果が長く続く順に、次のような治療法があります。

  • 対話(心理)療法(認知行動療法)
  • 薬物療法(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
  • セルフ・ヘルプ(認知行動療法の理論に基づいた読書療法)

 

子どもの不安障害と恐怖症

なにかに対して強い恐怖心を持つということは、ほとんどの子どもが経験することで、正常な成長の過程です。たとえば、乳幼児は世話をしてくれる人にとてもよくなつきます。もし何らかの理由でその人から引き離されると、とても不安になったり動揺したりします。

多くの子どもは暗がりや架空の怪物を怖がりますが、このような恐怖はふつう成長していくにつれて治まります。このことが子どもの生活に悪影響を及ぼしたり、成長に支障をきたしたりすることは通常ありません。ほとんどの子どもは、初めての登校日のような大きな行事で不安になりますが、その後は怖がることはなくなり、新しい環境でうまくやっていくことができるようになります。

十代の子どもも、不安になることがよくあります。自分の外見や人からどう思われているかを心配し、自分以外の人とどううまくやっていくか、特に異性との付き合いについて思い悩みがちです。こうした悩みがあっても、たいていは誰かに相談すれば心が軽くなります。しかし、悩みがあまりに大きい場合、学校での素行が悪くなる、態度が変わる、体の具合が悪くなるといったことがみられるようになります。

もし児童や十代の子どもに不安や恐怖がみられ、生活が乱れてしまうようであれば、かかりつけ医に相談し診察を受けましょう。

 

支援団体

Anxiety UK www.anxietyuk.org.uk/

広場恐怖症の人たちによって30年前に設立された慈善団体。不安障害を抱える人を支援します。

 

イギリス行動認知療法学会(BABCP: British Association for Behavioural and Cognitive Psychotherapies )

www.babcp.com

英国公認のセラピストが登録しています。

 

No Panic www.nopanic.org.uk/

パニック発作、恐怖症、強迫性障害、全般性不安障害、精神安定剤の離脱症状に悩む人をサポートする慈善団体。

 

参考資料

Overcoming worry: A self-help guide using cognitive behavioural techniques. Kevin Meares and Mark Freeston (2008). London: Constable & Robinson.

Overcoming anxiety: a five Areas Approach. Chris Williams (2003). London: Hodder Arnold

Stories and analogies in Cognitive Behaviour Therapy. Paul Blenkiron (2010). WileyBlackwell

Anxiety: Your questions answered. Trevor Turner (2003). Churchill Livingstone

2007年度、セルフ・ヘルプ本に関する調査 http://pb.rcpsych.org/cgi/content/full/31/6/238-a

 

認知行動療法に関する無料オンラインサイト

Living Life to the Full (http://www.llttf.com//) : 症状で悩んでいる人および介護者のための、無料オンラインの生活技能コースです。どうしてそのように感じるのかを理解できるよう、また、思考、行動、睡眠、人間関係を改善できるようにアドバイスします。

FearFighter (http://www.fearfighter.com//) : (イングランドおよびウェールズで、かかりつけ医の処方がある場合のみ、無料でアクセスできます。)

Translated by Mika Yamada-Reynolds, Mio Sugihara and Dr Nozomi Akanuma. January 2013

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