子どもや青年の双極性障害(躁うつ病):親、介護者、児童・青少年と過ごすすべての人たちへ

 

Bipolar affective disorder (manic depression): information for parents, carers and anyone who works with young people


 

このリーフレットについて

このリーフレットは、親や教師、青少年向けに書かれた「こころの健康と成長」のひとつです。ここでは、双極性障害の症状や心身に及ぼす影響、どのようなサポートが受けられるかなど、実用的なアドバイスが書かれています。

クリスティーナ(16歳)の場合

私は幸せで自信にあふれていました。11科目のGCSE試験の勉強をし、社交的で多くの友達に恵まれていました。毎日、すべてがうまくいっているようでした。

しかしながらある日突然、楽しくて幸せで、エネルギーにあふれた気持ちから、引きこもりになり、何も食べず、誰とも話さず、親とでさえも口をきかなくなりました。はっきりとした幻覚がみえ、疑い深くなり、自傷行為まで考えました。

両親はとても心配し、青少年専用の精神科病棟に入院することになりました。

今思うと、私は深刻なうつ状態に陥る前の躁状態だったのです。ひとたび双極性障害(躁うつ病)と診断されると、自分の病気を理解し、受け入れることができました。気分の浮き沈みを抑えるため、対話療法と合わせて薬物治療を受けました。

家族や友達のサポートもあり、今は学校に戻っています。そして将来、医学部に進みたいと思っています。

「The Young Mind:青年や親のためのこころの健康に関する重要なガイド」からの抜粋

 

レイチェル(15歳)の場合

レイチェルは15歳で、過去にうつ病に苦しんだことがあります。2ヶ月前、彼女はとても早口で話すようになり、エネルギーにあふれているように見えました。すべてのことにハイになり、周りの友人を笑わせてばかりいました。

レイチェルは3日間、ほとんど眠らず、食事もせず、友達に自分は台湾の王女様だと言ったりするなど、意味不明なことを口にするようになりました。また普段からは考えられないような、下品な言葉を使ったり、とても軽率な態度をするようになりました。彼女は、「気分は最高よ。空を飛んでいるの。10段の階段の11段目にいる気分ね」と話していたそうです。

レイチェルの両親は非常に心配し、彼女が眠らなくなってから4日目の夜、近くの救急外来へ連れて行きました。彼女は精神科医の診察を受け、即、入院することになりました。双極性障害と診断され、レイチェルの精神状態を普段の状態に戻すための治療が始まりました。現在彼女は、うつとハイな気分の両方とも再発しないようにするための治療を受けています。

レイチェルは、地域の精神科の看護師のサポートを受けつつ、自分の気分を理解し、将来同じようなことが起こりにくくなるように努めています

双極性障害とは?

双極性障害とは、普段とはかけ離れてハイになる時(「躁状態」または「軽躁状態」として知られています)と、ひどく落ち込む時(「うつ状態」)との間で、極端な感情の変化が起こる病気です。時には、躁うつ病、双極性感情障害または双極性気分障害と呼ばれます。
 
気分の変動は、本人にとって普通だと思える範囲を超えていて、まるで別人かのように振る舞います。

どれくらいよくある病気ですか?

子どもの双極性障害は極めて稀です。かなりの数の研究で、10代かまたは20代前半で兆候が表れることもあると報告されています。成人100人のうち、1人の確立で発病します。

10代でこの病気の症状に気づくのは難しいかもしれません。この年代では、極端な行動を取りやすいからです。

双極性障害の症状は?

双極性障害では、次のような状態があります:

  • 躁状態または軽躁状態の期間(これは「エピソード」とも呼ばれます)
  • うつ状態の期間
  • 両者が混合した状態の期間

下記は、それぞれのエピソードにみられる症状の一覧です。若い人は、一度でも躁病または軽躁病のエピソードがあれば、双極性障害と診断されるでしょう。

「ハイ」あるいは躁病のエピソードの症状

  • 強い幸福感を感じたり、気分がハイになり、とても興奮している
  • イライラする。
  • おしゃべりが止まらないー多弁になる。
  • 頭の中で考えが激しく駆け巡る。
  • 行動的になり、落ち着きがなくなる。
  • 集中できない。
  • 考えがまとまらず、計画が二転三転する。
  • 自信過剰で、自分自身や能力を過大評価する。
  • 眠りたいとは感じなくなる
  • 身のまわりのことを気にしないようになる。
  • 非常に社交的、または慣れ慣れしくなる。
  • 性的な衝動が増す。
  • 浪費など無計画で極端な行動に走る。

躁状態が比較的穏やかな場合(期間が短く、症状は深刻なものではありません)、軽躁状態といいます。このような時は、実際に本人は多くの物事をこなし、次々に新たなアイデアに溢れているので、軽躁状態は本人にとってポジティブで価値のあるものです。しかし、軽躁状態でも治療を受けずにいると躁状態が深刻になったり、うつ状態につながるリスクもあります。

極端なケースでは、いわゆる精神病にまで発展することもあります。この状態では、例えば、自分には超人的な能力があるとか、誰かに監視されたり、後をつけられているといったような、強固で奇妙な思い込みにとらわれたりします。

うつ病エピソードの症状

  • 長く憂うつな気分が続いている。
  • 気力ややる気がうせる。
  • これまで楽しんできたものに興味がなくなる。
  • 食欲が減退する。
  • 睡眠障害が起きる。
  • 自殺や自傷行為を考える。

症状が軽ければ、気分が落ち込んでいるだけと感じるかもしれません。ただうつ病エピソードでも、極端な場合には、精神病状態につながることがあります。

混合エピソードの症状

躁状態とうつ状態の症状が同時に起こります。

双極性障害がもたらす影響は?

考えや感情、行動が極端になるので、以下のように生活のあらゆる局面に影響を及ぼします:

  • 友人や家族との関係に問題が起きる。
  • 学校や職場で、集中力がなくなる。
  • 自らすすんで健康や命を危険にさらす行動をとる。
  • 自分に対する自信や気持ちをコントロールする感覚を失う。

治療を受けないままの状態が長引けば、それだけ若者本人や家族にとってダメージが大きくなってしまうでしょう。

どのようなサポートを受けられますか?

サポートを受ける最初の一歩は、何かしらの問題があることに気づくことです。早目に医師のアドバイスを求めることはとても重要です。双極性障害と診断され、すぐに治療を始めれば大きなダメージは防げるものです。

どのように治療が行われるのですか?

まずかかりつけ医へ相談すれば、必要に応じて、地域の「児童青年精神保健サービス(child and adolescent mental health service, CAMHS)」を紹介してもらえます。

あなたの気分が憂うつなのかハイ状態なのか、その気分がどの程度深刻なのかによって、当面の治療法が決まります。

あなたの症状が深刻な場合は、薬物治療や、あるいは、症状を軽減しあなたを守るために、時には入院が必要なことがあります。

長期的な治療としては、健康かつバランスがよく、充実した生活を目指して、まずは病気をよく理解し、症状をコントロールし、再発しないように気をつけていきます。

それぞれの治療法は以下の通りにまとめられます。

治療法

薬物治療

薬物治療は、深刻なエピソードの時に特に重要です。病気の初期の時点では、薬物療法は症状の軽減に有効です。

薬物治療はエピソード(躁状態またはうつ状態)によって異なります。また、症状は個人差があるため、その人に最適な薬物治療が奨励されます。

有効な薬には主に3種類あります:

  1. 抗精神病薬:リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾール
  2. 気分安定剤:リチウム
  3. 抗うつ薬:フルオキセチン

深刻な症状の時だけ薬を服用すればいいわけではありません。もしもあなたの子どもが深刻なエピソードを過去に1回でも経験したならば、再発リスクを軽減させるためにも、継続的な薬の服用が大切になってきます。

薬物療法は、何ヶ月あるいは何年も続ける必要があるかもしれません。しかし、回復して調子のいい状態がある期間続いたら、医師の経過観察のもと、服薬を中止できる人もいます。

薬の服用を始める前、あるいは継続中に、必要に応じて身体診察や血液検査などの各種検査があります。薬を処方された場合、定期的にかかりつけ医や精神科医の診察を受けることが大切です。

薬は副作用の可能性があり、なかには深刻なものもあります。精神科医は、副作用とその対処法についてアドバイスしてくれます。薬を服用する際は、病気による生活上の不都合と副作用のリスクの両方を天秤にかけてみる必要があるでしょう。
 
若い人たちは、定期的な医師の診察を受けないならば、薬を服用するべきではありません。診察により、薬物の適量を確認し、副作用をチェックする必要があるからです。

対話療法(心理療法とも呼ばれます)

若い人たちやその家族は、薬物治療と合わせて実生活でのサポートも受けることが重要です。

病気への理解(疾患教育)
双極性障害をもつ青少年とその家族は、様々な周囲のサポートを頼りに、病気やその対処法、再発のリスクを回避するための手段を理解していけるのです。

本人や家族は、エピソードの「引き金」や、エピソードの初期における警告のようななんらかの兆候に気づくかもしれません。これらに注意し、エピソードが悪化する前に適切なサポートを得られれば、再発のリスクを減らすことができます。

家族療法
家庭にストレスがあると、症状が悪化したり、病気のエピソードの引き金になることもあります。家族に焦点を当てた対話療法を通じて、家族全員がそれぞれのストレスを和らげ、問題解決や良好なコミュニケーションをとれるようになるよう、サポートを受けます。そのことで、双極性障害の青少年も回復していき、調子のいい状態を維持できるようです。

認知行動療法(Cognitive-behavioural therapy, CBT)
これはもうひとつの対話療法で、若い人たちが、時には家族も一緒に、自分の感情と考えがどのように結びついていて、それらがどのように行動に表れるかを考えていきます。

入院治療

重度な症状の場合、集中的なケアのために入院治療が必要なこともあります。

回復(リカバリー)

若い人たちは、病気に苦しむのは自分ひとりではないと理解し、希望を持ち続けることが重要です。

多くの若者は、気分の浮き沈みが何度かあっただけで、その後次第になくなっていくでしょう。問題が生涯にわたる場合もありますが、若い人たちは病気を抱えながら生きることを学ぶでしょう。

調子が悪い時は勉強が困難になるなど、双極性障害のエピソードが学業に支障をきたすことがあります。復学や復職の計画を立て始めることも、回復への重要なステップです。

さらに情報を得るには

Bipolar UK – 双極性障害の診断を受けた人々とその家族をサポートしています。

Rethink mental illness – 全国規模のチャリティー団体で、深刻な精神疾患に苦しむ人々の生活の質向上のためにサポートします。

SANE – 全国規模のチャリティー団体で、精神疾患をもつ人たちの生活の質を改善すべく活動しています。

YoungMinds – 子どものこころの健康の問題についての情報を提供しています。親のためのヘルプライン: 0800 802 5544.

もっと知りたい方のために

National Institute for Health and Clinical Excellence (2006). The management of bipolar disorder in adults, children and adolescents, in primary and secondary care. (患者版)http://www.nice.org.uk/

参照文献

  • Leibenluft E & Dickstein DP (2008). Bipolar disorder in Children and Adolescents. In: Rutter M et al. (eds) (2008) Rutter’s Child and Adolescent Psychiatry (5th edn). Oxford: Blackwell. pp894-905.
  • Merikangas KR, Akiskal HS, Angst J, Greenberg PE, Hirschfeld RMA, Petukhova M & Kessler RC (2007). Lifetime and 12-month prevalence of bipolar spectrum disorder in the national comorbidity survey replication. Arch Gen Psychiatry; 64:543-552.
  • Fristad MA (2006). Psychoeducational treatment for school-aged children with bipolar disorder. Development and Psychopathology: 18:1289–1306.
  • Miklowitz DJ, Axelson DA, Birmaher B, George EL,Taylor DO, Schneck CD, Beresford CA, Dickinson LM, Craighead WE, Brent DA (2008). Family-focused treatment for adolescents with bipolar disorder: results of a 2-year randomized trial. Archives of General Psychiatry; 65(9):1053–1061.
  • Carr A (2009). Bipolar disorder in young people: description, assessment and evidence-based treatment. Developmental Neurorehabilitation; 12(6): 427–441.
  • Fristad MA, Verducci JS, Walters K, Young ME (2009). Impact of multifamily psychoeducational psychotherapy in treating children aged 8 to 12 years with mood disorders. Archives of General Psychiatry; 66(9):1013-1021.

Translated by Mariya Sasaki, Akiko Tatsuta and Dr Nozomi Akanuma. November 2013.

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