知的障害をもつ子ども:親・介護に携わる人・児童・青少年と共に過ごすすべての方々へ
The child with general learning disability: information for parents, carers and anyone who works with young people.
免責事項
このリーフレットについて
これは「こころの健康と成長」と題する、親、教育関係者、青少年のみなさまのために作られたリーフレットです。知的障害とは何か、そして考えられる原因について説明し、利用できる支援についてもわかりやすく紹介しています。
(訳注:英国においては、知的能力や学習能力に問題がある状態を指す用語には”Learning disability”と”Learning difficulty”とがあります。日本で現在用いられている用語と比較した場合、前者が「知的障害」、後者が「学習障害」とほぼ同じ状態を指しています。そのため、このリーフレットでは”Learning
disability”の訳語として「知的障害」を使います。)
15歳のベスの場合
ベスは、軽度の知的障害を持つ15歳の少女です。ベスの心の健康に心配があると小児科医が判断して、専門家に紹介してきました。彼女は胃薬2錠とダイエット薬2錠をわざと飲み込んだり、家でも学校でもだんだんと乱暴で落ち着きがなくなってきました。夜はほとんど眠らず、チンプンカンプンなことを早口で話し、走ってどこかに行ったり、とんでもないところで服を脱いだりしました。
これまでにも似たようなことがいろいろな時期に見られましたが、これほどひどいことはありませんでした。ベスの家族の中には、統合失調症と双極感情障害にかかったことのある人がいます。
ベスは双極性感情障害と診断されました。これは以前は「躁うつ病」として知られていました。ベスは気分安定剤という薬を飲み始め、薬による治療で症状がよくなりました。1年後にベスは動揺してよく泣くようになり、うつ状態になったため抗うつ薬による治療が必要でしたが、今では回復して以前のベスに戻っています。ベスはこのような気分の浮き沈みが起きやすいのです。治療を受けていないとなおさらそうなります。これから長いこと経過の観察が必要です。
知的障害のある人も、そうでない人と同様に精神疾患になります。知的障害者担当の専門家だけでは精神疾患の症状の判断が難しいため、精神疾患の専門家に診てもらい、彼らの行動が精神疾患によるものかどうかきちんと判断してもらいましょう。
知的障害とは?
知的障害は精神薄弱また精神発達遅滞として知られてきました。「全般的な領域における発達遅滞」と呼ばれることもあります。同じ年齢の子どもと比較した場合、知的障害をもつ子どもは学習すること、理解すること、行動することがより困難なものとなります。知的障害の子どもは他の多くの子どもや青少年と同様、児童期を通し学び発達しますが、そのペースはよりゆるやかです。
障害の程度は人によりさまざまです。中には一向に話すことができず、成長しても食事・着替え・排泄など身の回りのいっさいの世話に手助けが必要となる子どももいます。一方、障害が軽度の場合、成長し自立していきます。
知的障害は学習障害とは異なります。学習障害をもつ子は1つか2つの特定の学習分野に困難を抱えているものの、他の分野の発達には問題がありません。例えば、文字の読み書きや何を言われたかを理解することは苦手であっても、生活上の他の分野に必要な学習能力にはまったく問題がありません。
知的障害の特徴
知的障害の原因は?
知的障害のある子どもたちの多くは、原因が分からないままです。中には遺伝要因、感染症、母親の胎内での感染、出生時・出生後の脳損傷・脳障害が考えられます。ダウン症、脆弱X染色体症候群、脳性麻痺などもこれらにあたります。
知的障害の特徴と家族への影響
知的障害をもつ子どもたちや青少年は、自分の周りで何が起こっているのかわかっています。しかし、理解力とコミュニケーション能力が乏しいため、自らを表現することができないのです。言語障害があると、自分の気持ちや何をしてほしいかをまわりの人に伝えることがさらに難しくなります。そのためできないことに苛立ちを感じ、自分の限界に怒りさえ覚えます。他の子どもたちと自分を比べ、悲しんだり怒ったり自分をだめだと思いがちです。
自分の子どもに知的障害があることがわかると、親は悩み苦しみます。親や家族は子どもがなぜそうなのか、理解に苦しむでしょう。知的障害の子どもとどのように意志の疎通を図り、しつけをしていくか困難に感じ、まわりの人に理解してもらうこと自体大変でしょう。
兄弟・姉妹はいろいろな形で影響を受けます。周囲の関心がいつも知的障害をもつきょうだいに向けられることに嫉妬したり、きょうだいの障害を恥ずかしく思ったりするでしょう。学校でからかわれたりするかもしれません。知的障害をもつきょうだいや苦労している親を見て、自分のせいだと思うこともよくあります。
知的障害と心の健康
知的障害は精神疾患ではありません。しかし知的障害をもつ子どもたちは、不安障害や、自閉症スペクトラム障害(広汎性発達障害)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)といった他の発達障害を併発することが、他の子どもたちよりも多くみられます。
どのような支援がありますか?
学習と発達の問題に気づく
子どもの学習・発達が遅いことをできるだけ早期発見することが重要です。問題がはっきりしてはじめて、障害を抱えている子どもとその家族は彼らにふさわしい支援を受けることができます。義務教育が始まる前に発達の遅れを見つけることは、保健師の大事な役割です。
児童発達支援チーム
子どもが成長するにつれ、専門家たちが子どものニーズに合わせ支援に関わります。「児童発達支援チーム(Child Development Team)」は、地域の小児科医、看護師、心理療法士、言語療法士のような専門家が連携を図り対応します。児童精神科医や児童・青少年を専門とする地域精神保健サービス(Child and Adolescent Mental Health Services: CAMHS)のスタッフがチームに加わることもあります。知的障害をもつ子どもに対する特別支援(地域知的障害チーム)を提供している地域もあります。必要であれば、かかりつけ医(GP)がこういった専門サービスに子どもと家族を紹介します。
学校教育
勉強し人と交流する環境である学校は、知的障害をもつ子どもにとって特に難題が多いところです。自治体の教育課は、子どもひとりひとりの教育上のニーズに合わせ、特別支援を手配します。ただしほとんどの児童が、他の子どもたちと同じく一般教育を受けることを前提としています。たとえば、他の人たちと問題なく一緒に過ごせる子どもたちは、通常の学校に通学しながら、特別な学習方法で勉強します。一方、障害がより重度の児童は特別支援学校に通うこともあります。
子どもによっては、教育心理士が特別支援教育認定書(Statement of Special Educational Needs)を作成することがあります。これは、その子どもに必要な特別支援がまとめられた文書で、子ども本人や保護者の見解や希望も組み入れられます。
あらゆる教育関係機関では「親とのパートナーシップ計画」と称し、教育対策の一環として保護者に適切な助言をおこなっています。
他にも多くの地域でさまざまなサービスが提供されています。「レスパイト・ケア」(訳注:家族や介護者、または子ども本人が数時間または数日間息抜きできるよう、介護者を手配したり短期の休暇を設ける制度)や「ホリデー・プレイ計画」(訳注:学校の休暇中に公的機関あるいは個人が運営するサマースクールのようなもの)に参加することにより、子どもは、学校や家庭以外のところで学び社会に参加する機会が得られます。保護者支援グループでは同じ悩みを持つ親同士の交流を促します。自治体では、保護者が利用できるこういった支援や福祉助成についてアドバイスをしています。
障害があるからといって、子どもが充実した楽しい生活が送れないというわけではありません。専門サービスを通じてのさまざまな支援は、知的障害をもつ子どもたちが他の子どもたちと同じように楽しく豊かな生活を送るためのものです。
さらに知りたい方のために
British Institute of Learning Disabilities – 知的障害のある人とその家族のために役立つ情報があります。
Contact a Family –
特別なニーズや障害のある子どもをもつ親のための情報やアドバイスがあります。
Disability and inclusion – Barnardo's は障害のある子どもに対しそうでない子どもと共に対応するという信条で、就学前から16歳までの子どもを対象に活動しています。
Every disabled child matters – 障害のある子どもひとりひとりの権利と公正さのためのキャンペーンを行っています。
MENCAP – 知的障害・学習障害の人のための、英国を代表する慈善団体です。
UK Government website for citizens – 特別教育ニーズや、その認定過程についての役に立つ情報があります。
The Children’s Trust –
英国の慈善団体で、複数の障害をもつ子どものために活動しています。
参考図書
Books Beyond Words – 知的障害を持つ人のための絵本シリーズで、コミュニケーションを楽にしたり、話し合いができるように書かれています。
Mental Health Needs of Children and Young People with Learning Disabilities,
Pavilion Press, 2010.
First Impressions – この小冊子は、知的障害を持つ小さな子どもを持つ家族の心理面と実践面でのサポートについて書かれています。
Seeing the Psychologist for a Cognitive Assessment –
Cheshire and Wirral Partnership NHS foundation Trustによって書かれた小冊子です。
参考文献
- Dr Sarah Bernard & Professor Jeremy Turk, ‘Developing Mental Health Services for Children and Adolescents with Learning Disabilities’.
- Rutter, M. & Taylor, E. (eds) (2008)'Rutter’s Child and Adolescent Psychiatry' (5th edn). London: Blackwell Publishing.
- Gillberg, C. Harrington, R. & Steinhausen, H-C. (eds) (2006) ‘A Clinician’s handbook of child and adolescent psychiatry’ (1.st edn) University Press Cambridge.
- Information for people with learning disability and their carers
王立精神科医学会の知的障害部門とレスターシャー NHSトラストが協力して、知的障害とこころの健康の問題がある人に向けた、わかりやすく書かれた情報集を作成しています。これらのリーフレットはすべて、知的障害を持つ人とその介護者によって書かれ、実践されています。
Translated by Yuko Onishi, Yumi Wheeler and Dr Nozomi Akanuma. July 2013.
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