補完代替医療 2

Complementary and Alternative Medicines 2

身体的治療

このリーフレットは、こころの健康の問題のために補完代替医療を考えている方向けに書かれています。これには以下の内容を含んでいます:

  • 鍼治療、経皮的末梢神経電気刺激(TENS)、アロマセラピー、ホメオパシー、ヨガ、霊気(レイキ)、その他の身体的治療
  • 参考になるウェブサイト
  • セラピスト(療法士)を見つけるには

 

こころの健康の問題に適した補完代替療法(CAM)とは?

これまでに多くの補完代替療法(Complementary and alternative medicines; CAM)が用いられ、そのうちのいくつかは比較的、効果が見受けられました。あなたは安全性が高く、有効性が認められている治療法を選択すべきです。もしその治療が安全で、かつ他の治療の妨げにならないのであれば、回復に有益なものは何でも試してみてもよいでしょう。

CAMはどのような効果があるのでしょうか?

CAMに関する研究はごく僅かです。研究には膨大な費用がかかり、多くの研究は規模が小さ過ぎて十分な結果が導き出せません。CAMの研究の多くはうつや不安障害、睡眠障害の治療分野で行われています。

CAMについて誰に相談したらいいのですか?

CAMのスペシャリストを見つけるのは難しいことです。あなたのかかりつけ医、看護師、薬剤師に聞けば何らかのアドバイスをくれるかもしれませんし、より詳しい人を紹介してくれるかもしれません。興味のある治療法を専門的に扱う団体に所属していて、認定資格を持っているセラピストを選ぶのが最もよいでしょう。「セラピストを見つけるには」のページも参照してください。

CAMを安全に利用するには?

  • 他の治療法も選べるのだという広い心をもって利用する。
  • 疑問があれば、かかりつけ医、看護師、薬剤師に相談する。
  • これまでかかったことのある病気や治療中の病気、てんかんやアレルギーなどの既往、妊娠の予定、授乳中かどうかについて、セラピストに伝える。
  • 従来の治療法について、疑問に感じていることを話し合う。
  • セラピストの持っている資格や治療経験を確認する。
  • 治療の副作用を確認しておく。
  • いつもと異なる自覚症状がでた場合は、医師の診察を受ける。
  • 治療を受ける際にはきちんとそれだけの時間を作る。
  •  

鍼治療

鍼治療は細い糸のような鍼(針)を皮膚の上から刺して刺激を与える治療で、以下の2種類があります:

  • 古典的な中国由来の鍼治療はエネルギーの道筋、いわゆる「経絡」に沿って鍼を打ちます。鍼治療の理論では、エネルギーの乱れが病気の原因とされており、この乱れを回復させることを目的としています。
  • 西洋医学による鍼治療は、エネルギーの理論を用いず、鍼の実技のみを行います。ヨーロッパでは、鍼治療は主に痛みへの治療に使われており、こころの健康問題に対して試されるようになってまだ日が浅いです。

 

鍼治療の強度はどのようにして決められますか?

鍼治療の強度は、鍼を刺す場所、深さ、刺したままにしておく時間、鍼の数、治療セッションの回数によって異なります。刺した鍼に手による刺激を加えたり、電気刺激を加えることにより、強度が増します。鍼を通して弱い電流を流すことで刺激が強まります。灸頭鍼は、ヨモギの草を燃やすことで鍼を加熱して行う治療です。

こころの健康の問題のうち、鍼治療が有効なのはどのようなものでしょうか?

不安、うつ、ストレス過多、睡眠障害などが治療の対象となります。もし何回か治療を受けても改善が見られなかったり、症状がより悪化した場合は医師の診察を受けるとよいでしょう。 

鍼治療はどのような効果があるのでしょうか?

不安

鍼治療により不安は軽減すると考えられています。抜歯の痛みやアルコール依存からの離脱、がん治療などに対する鍼治療の効果について、様々な研究が行われています。鍼治療はこういった状況にある人の気持ちを落ち着かせることにより効果を現します。

うつ

実際には、鍼治療がうつに効果的かどうかはよく分かっていません。小規模な研究がいくつか行われていますが、今のところ結果はまちまちです。人によっては、抗うつ薬と併用しての用いることができます。電気鍼療法は最も有効な鍼治療かもしれません。運動すれば誰でも気持ちよくなるものですが、電気鍼治療は運動と同じ効果を筋肉に与えると考えられているからです。

ストレス

ストレスによって不安、動揺、気分の落ち込みがある時は鍼治療が有効かもしれません。

不眠

およそ10人に1人が鍼治療を受けた後にだるさを感じます。したがって、不眠症の人がぐっすりと眠れるように鍼治療を推奨する研究結果もあります。ただし、いったん治療をやめると不眠がぶり返すことがあるのが大きな欠点です。

依存症に鍼治療はどうでしょうか?

鍼治療は依存症の人の離脱症状の治療に使われることがありますが、鍼治療だけでニコチンやアルコール、薬物への依存を克服するほどの効果はないと考えられています。鍼治療で依存症の治療ができるかどうかは、まだ研究の余地があります。

鍼治療の副作用は?

もしあなたが痛みに弱かったり、線維筋痛症や、筋肉痛を合併する慢性疲労症候群を患っている場合、鍼治療はお勧めできません。痛みに耐えられない場合、鍼治療は単に不快や苦痛に過ぎないかもしれないからです。しかし、最近行われたある臨床試験で、鍼治療は線維筋痛症の痛みを和らげることが分かっています。

たいていの人には、鍼治療による副作用はほとんどありません。鍼を刺す部位によって、例えば胸部などは細心の注意を払う必要はあります。典型的な副作用としては、あざ、出血、痛みが挙げられます。失神する人もいるため、初回の治療は横になって行われます。また、強い疲労を感じた時は、治療後の車の運転は避けてください。このような極度の倦怠感に備えて、初回の治療には自分の運転する車では行かないほうがいいです。

鍼治療により感染症のリスクがありますが、鍼は1回ごとの使い捨てですので心配はありません。鍼治療によって急に不安になったり、強い心理的反応を起こすことがあるかもしれません。もし治療中にこのように感じたら、治療を中止して自分の気持ちをきちんと話すことが大切です。時として、鍼治療の回数や程度を減らすだけでも違ってきます。もしあなたが妊娠しているなら、セラピストに伝えてください。

深刻な副作用はありますか?

鍼治療は鍼を用いますので、臓器や神経、血管に鍼が達する可能性があります。もっと悪いことには、胸部もしくは背部に刺した鍼が心臓や肺に達することもありえます。熟練したセラピストならこのような心配はないでしょう。しかし、もしあなたが鍼治療を受けた後に胸部や背中の上部に息苦しさを感じた時は、すぐに医師に相談し、鍼治療を受けたことを伝えてください。

耳鍼

耳鍼、もしくはオーリキュロセラピー(auriculotherapy)と呼ばれる治療法では、耳の表面にとても細い鍼を刺します。耳の穴に鍼を刺すことは絶対にありません。耳は感染症にかかり易いので、耳の表面の皮膚を清潔にし、消毒してから治療は行われます。耳鍼はこれまで依存症や痛みの治療として使われてきました。時には2週間程度まで、鍼を耳に刺したままにすることもあります。耳鍼は感染しやすいので、心臓弁膜症のある人は決して行ってはいけません。またステロイド治療中の人や糖尿病の人も、感染リスクが高いので注意が必要です。

経皮的末梢神経電気刺激(TENS)

TENSとは、経皮的末梢神経電気刺激(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation)の意味です。皮膚表面に電極を置き低周波を流すもので、鍼は使用しません。主に痛みの治療として使用されます。

アロマセラピー

アロマセラピーは植物由来オイルに含まれる癒やしの成分を用いています。アロマセラピーに使うオイル(訳註:エッセンシャルオイル)は、「キャリアオイル」で希釈されて用いられます。オイルは、オイルバーナーで蒸発させて香をゆらしたり、入浴時に浴槽に落したり、スキンマッサージに使われます。エッセンシャルオイルのアロマの香りは嗅覚を刺激します。エッセンシャルオイルを用いたマッサージは、緊張を和らげながら血液循環を良くしていきます。マッサージによりオイル分子が血液中に流れ込み、身体の隅々からやがて神経系に至るとアロマセラピストは考えています。一般的にアロマセロピーは、リラクゼーション、睡眠の改善、痛みの軽減、うつの改善を目的に利用されます。

アロマセラピーはそれほど強く作用しないため、従来の治療法に加えて補完的に行ってみるのが最適です。アロマセラピーは安全ですが、妊婦やてんかんをもつ方、乳幼児には使用してはいけないオイルが何種類かあります。アレルギーを誘発したり、光線過敏性を増加するようなオイルもあります。

ホメオパシー

ホメオパシーは「類似したものは類似したものを治す」という原則に基づく治療法です。これには、有毒物質がなくなる極限まで希釈した物質(訳註:レメディと呼びます)を錠剤や液状の薬にして服用します。ホメオパシーで使用するレメディは鉱物や植物、動物の成分から作られますが、元の物質がほとんど、あるいはまったく存在しないほどまでに希釈されます。元の物質が希釈されて薄くなれば薄くなるほど、その物質が本来持っている効果は強くなると言われます。この点が、最も議論されるホメオパシーの論点の一つです。
ホメオパシーの効果については多くの疑問点があり、従来の治療法の代替とすることは望ましくありません。しかし、従来の治療法との併用は有効と考えている人もいます。ホメオパシーのレメディは極限にまで希釈されているため、安全なのは確かです。

ヨガ

ヨガは5000年以上の歴史がある技術です。「ヨガ」はサンスクリット語で「融合」を意味します。スピリチュアルな面と体のエクササイズを通して、こころと体を癒します。ヨガのポーズはその人にマッチするようにバランスが取れていなくてはなりません。ヨガには気持ちを落ち着かせ、リラックス効果があり、いらだった気分を和らげます。ヨガは不安やストレスに有効でしょう。また、うつやてんかんの治療として研究されていますが、結論は出ていません。

バイオフィードバック

バイオフィードバックは、私たちが意識はしてない、もしくは自動的に繰り返される身体機能を注意深くモニターすることによって、それらをコントロールしていく技法です。心拍数、呼吸数、血圧、発汗や筋緊張などの身体機能に意識を当てます。体に装着した機器を通してそれらの機能のフィードバックを得ながら、意識して自らが調整していくことができるのです。バイオフィードバックは興奮、不安やストレスの治療に使われますが、その有効性について明確に結論付けることは困難です。なお、バイオフィードバックは治療費がかさみ、かつ瞑想やリラックス法でも効果が同じであることが、批判の的となる点の一つです。

リラックス法

リラックス法(筋弛緩法)は、通常、動揺や興奮を押さえるために用いられます。 技法としては、漸進的筋弛緩法(PMR; progressive muscle relaxation)があり、いろいろな筋肉群を緊張させたり緩めたりします。PMRは筋肉の張りからくる苦痛に効果がある他に、不安と喘息を和らげます。リラックス法を初めから一通り行うと、およそ20分かかり、一定の効果を上げるには、毎日リラックス法を行う必要があります。自律訓練法という技法もあり、自己暗示をかけながら、呼吸や心拍数、筋肉の緊張をコントロールします。

瞑想

スピリチュアリティによる技法は、こころと体に関する様々な問題に有効です。信仰に基づいた活動で健康を取り戻すことができるでしょう。反して瞑想は、こころの健康に影響してきますし、時として悩みや不安で心が弱まっている方々には、精神的ダメージを与えてしまう可能性すらあります。精神疾患を患っている方は注意してこれらの技法を使用すべきです。

催眠

催眠によって、トランス状態、あるいは睡眠に似た状態に誘導されます。その状態のまま、問題に関する暗示が与えられ、その後、癒やされていきます。様々な問題に対して催眠を試せますが、経験豊富で、十分な訓練を受けた催眠療法士を選ぶことが重要です。また統合失調症に対しては、従来治療と催眠を併用できますが、精神疾患を患っている方は注意が必要となります。

霊気(レイキ)/手当て療法

「霊気(レイキ))とは、精神的な生命力とエネルギーによるものです。霊気セラピストは、クライアント(患者)に触れて、手からエネルギーを送り込んで癒していくと説明しています。優れた霊気セラピーでは、離れている所からでも癒しを導くとされます。ただし、霊気セラピーは賛否両論があります。霊気セラピストは、セラピーがうまくいかない場合、クライアントがエネルギーを妨害していると主張することがあります。結果として解せないですが、セラピーに効果がなかったことを治療を受けた人が自分のせいにしてしまいかねません。霊気の有効性を示す科学的根拠はほぼ皆無です。手当て療法は霊気セラピーに関連する概念ですが、離れたところからの治療は行いません。

リフレクソロジー

リフレクソロジーの原理では、足、手、耳にある特定部位と体の系統や臓器が対応しています。病気は、体のバランスの崩れにより、エネルギーがうまく流れていないことの表れと見なされます。特定部位をマッサージすることで、正常なエネルギーの流れとバランスが回復します。リフレクソロジーによって、リッラクスでき、体調が良くなったと実感し、不安や不眠、ストレスを和らげてくれるかもしれません。症状が重い場合には、リフレクソロジーはさほど効果が期待できないかもしれませんが、従来治療に合わせると有益な追加治療となることもあります。

セラピストを見つけるには

十分なトレーニングを受けたセラピストを見つけることは難しいかもしれません。かかりつけ医や精神保健の専門家に、有資格のセラピニスを紹介してもらえるか聞いてみるといいかもしれません。

鍼治療

英国医学鍼治療協会(British Medical Acupuncture Society)は、医師や医療従事者を対象に、 鍼治療の研修を行っています。

英国西洋医学鍼治療アカデミー(British Academy of Western Medical Acupuncture)も、医療従事者を対象にした研修を提供しています。また所属している理学療法士、整骨医(オステオパス:オステオパシーの治療者)は、それぞれ独自の鍼治療の訓練を受けています。

英国鍼治療会議(British Acupuncture Council)は、医師資格は有していない、伝統的な中国式鍼治療の 訓練を受けたセラピニストの団体です。

アロマセラピー

アロマセラピー評議会(Aromatherapy Council)は、アロマセラピストの全国的な登録を行っています。研修、専門技術、行動規範、健康に関する基準を満たしたアロマセラピストが登録されています。

ホメオパシー

英国ホメオパシー協会およびホメオパシー学部(British Homeopathic Association and Faculty of Homeopathy)にはウェブサイトがあります。ホメオパシー学部は英国内で、医師や他の医療従事者を対象にホメオパシーの研修を行っています。

王立ロンドンホメオパシー病院(Royal London Homeopathic Hospital)は、1949年の開院以来 NHS(国民保健サービス)の一部として運営されています。あらゆる分野の補完代替医療の診療を提供しています。

ホメオパス協会(Society of Homeopaths)は、医師資格を有していないセラピストの団体で、英国最大の組織で す。

催眠

英国催眠療法評議会(National Council for Hypnotherapy)は、英国内の700人を超える催眠療 法士を代表しています。

英国催眠療法研究所(The British Institute of Hypnotherapy)は、催眠療法士や心理療法士、および神経言語プログラミング実践者のための団体です。

一般催眠療法士登録(The General Hypnotherapy Register)は、一般催眠治療士評議会 (General Hypnotherapy Registering Council)のための治療者登録機関です。
3つの組織すべてが認定資格を提供しており、臨床実践規範や苦情対応制度を設定しています。

霊気

英国霊気連盟(UK Reiki Federation)に所属する霊気セラピストおよび指導者は、連盟の臨床実践倫理規定に同意し、霊気保険に加入しており、霊気連盟の証明書を有しています。

British Wheel of Yoga(BWY)は、英国におけるヨガのための全国統治機関として、スポーツ評議会に認定されています。ヨーロッパ国際ヨガ連盟における英国代表であり、専門的認定資格のための研修および認定プログラムを提供しています。 BWYはまた、他の組織による研修プログラムの認定も行っています。

 

参考になるウェブサイト

MedlinePlus:
米国国立衛生研究所(US National Institute of Health)が運営するウェブサイトです。ホームページには検索機能があり、キーワード検索により情報が得られます。「alternative medicine(代替医療)」 や「drug information(薬に関する情報)」といったキーワードを入力すると、関連サイトにつながります。メニューの一番上にあるボタンの中で適切なものを選択することで、探している情報が見つけられます。

World Health Organisation:
このウェブサイトは情報満載で非常に込み入っていますが、使いやすくできています。補完代替医療が世界中でどのように実践されているかが把握できるようになっています。ホームページから、オプションの「health topics」を選択してください。アルファベット順の索引につながりますので、その中から興味のある項目をクリックします。「acupuncture」や「traditional medicine」を入力してみてください。
 
全国補完代替医療センター(National Center for Complementary Alternative Medicine / National Institutes of Health):
米国のこのウェブサイトは、補完代替医療の幅広い包括的な情報を提供しています。このサイトを閲覧するのは簡単です。特に興味深いのは、臨床試験登録のページです。米国で集められた科学的根拠の概要がわかるようになっています。もちろんコクラン・データベース(Cochrane collaboration; www.cochrane.org)のような他の臨床試験データベースからの情報で補完する必要があります。「news and events」をクリックすると、安全に関する最新情報が見られます。

Quackwatch:
Quackwatchは「健康に関連した詐欺、作り話、一時的流行、間違った情報、および違法行為に立ち向かうことを目的としている非営利団体」です。他からは得られない、「いんちき療法」に関連した情報を提供することを主眼としています。かなり珍しい治療法を勧められた時、とりわけ、高い手数料の前払いを請求されたら、このウェブサイトはとても役立ちます。このウェブサイトがあまりにも挑発的で、補完代替医療に対して懐疑的過ぎると感じる方がいるかもしれません。このサイトの特徴を経験してみるには、「cheers and jeers」をクリックしてみてください。


Translated by Dr Hidenobu Takei, Akiko Tatsuta and Dr Nozomi Akanuma. August 2013

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