身体の病気に対処する
Coping with physical illness
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このリーフレットについて
私たちの多くは、時に大きな病気にかかります。病気とその治療のことで、私たちの考えや気持ちまでもが左右されてしまうものです。このリーフレットは、大きな病気を抱えている方々、その友人や家族のためのものです。以下の点について書かれています:
- 身体の病気は、どのように私たちの感情へ影響するか?
- 不安やうつでは、どのような気持ちになるのか?
- 身体の病気にかかると、どうして不安やうつになりやすいのか?
- どのようなことでより不安やうつになりやすくなるのか?
- いつサポートを求めるべきか?
- 不安やうつには、どのような治療があるのか?
- 自分でできることはなにか?
- 家族や友人は、どのように助けることができるのか?
- 情報やサポートを得られるところの一覧
深刻な身体の病気による感情への影響
深刻な身体の病気は、あなたの生活に様々に影響するでしょう:
- 周囲との人間関係
- 仕事
- 精神的な支えや信念
- 周囲の人との付き合い方
深刻な身体の病気があると、私たちは悲しくなったり、怖くなったり、心配になったり、怒ったりします。
これは次のような理由によるのかもしれません:
- 自分の身体や自身が置かれた状況について、全般的にコントロール不可能と感じる。自分にできることが何もないと考えることもある。
- 独りぼっちで、家族や友達から孤立しているように感じる。親しい人にさえ、自分の病気のことを話すのが難しいことがある。彼らに心配をかけたり、動揺させたくないと思う。
人によっては、身体の病気によってかなりひどく感情が乱れることがあります。たとえば、がんや心臓病があると、とても不安になり気持ちが滅入るでしょう。日常生活に必要なことに手がつかなくなることさえあります。
不安やうつ状態では、どのような気持ちになるのでしょう?
不安とうつ状態は、私たちの身体と心のどちらにも影響します。両方が同時に起こることもあります。
不安な時、次のように感じるでしょう:
- いつも心配である。大体は、病気とその治療について心配する。
- 最悪な事態を恐れてしまう。たとえば、病気が悪化することや、自分は死ぬのではないかと思ったりする。
- 心臓の鼓動(動悸)がとても気になる。
- 筋肉が緊張して痛みがある。
- リラックスできない。
- 汗が出る。
- 呼吸が速くなる (過呼吸)。
- めまいを感じる。
- 意識が遠のくように感じる。
- 食べ物の消化が悪く下痢をする。
うつ状態の時、次のように感じるでしょう:
- 不幸だという思いが消えず、ほぼどんな時でも不幸せと感じる。
- 生きることに興味がなくなる。
- 何にも楽しみを見いだせない。
- 簡単な決断でさえも難しいと感じる。
- 疲れきっている。
- 気持ちが休まらず落ち着かない。
- 食欲がなく体重が減る(中には反対に体重が増える人もいます)。
- なかなか眠れず、いつもよりも早く目が覚める。
- 性行為に興味がなくなる。
- 自分に自信がなく、価値のない不要な存在で、希望など見いだせないと思う。
- 人を避ける。
- イライラする。
- 自分自身や自分の置かれている状況、そしてこの世界に希望がないと感じる。もう決してよくならないとか、自分は価値がないなど感じることもあります。
- 自殺を考える。これはうつ状態の時にはよくあることです。自殺を考えていることを隠そうとせず、誰かに話すほうがよいでしょう。
これらの症状のいくつか、たとえば疲労感や不眠症、食欲低下は、身体の病気やその治療による症状と似ていることもあります。あなたがどう感じるのかを医師や看護師に話すことは、原因が身体の病気かまたはうつ病なのかを判断するのに役立つでしょう。
身体の病気にかかると、どうして不安やうつになりやすいのでしょうか?
どんな理由であっても、人はストレスを感じると気分が落ち込み、不安になります。病気にかかり治療を受けるのはストレスの多いもので、おそらくこれが病気によって不安やうつになる主な理由でしょう。
- ステロイドのような治療薬は、脳の働きに影響して、直接、不安やうつをひき起こします。
- 甲状腺の働きが低下している場合のように、身体の病気があると脳の働きが影響を受け、直接、不安やうつ病をひき起こします。
- 不安やうつ病はよく見られるものです。身体の病気になった時、偶然にも並行して不安になったりうつ病になることもあります。
どのようなことでより不安やうつになりやすくなるのでしょう?
身体の病気にかかった際、次のような場合、ひどく不安になったり、うつ病になりやすいです:
- 過去に不安またはうつ病になったことがある。
- 自分の身体の病気について、話せる家族や友人が周囲にいない。
- 女性である(男性よりも女性の方が不安やうつ病が多いと報告されています)。
- 他にも問題やストレスを抱えている。たとえば、解雇や離婚、または大事な人の死などです。
- ひどく痛む。
- 病気が命にかかわる。
- 病気のせいで自分で身の回りことができない。
次のような時、不安やうつ病に最もなりやすいです:
- 最初に病気のことを診断された時。
- 大手術を受けた後、もしくは治療による不快な副作用がある時。
- 回復してきたと思っていた途端に、病気がぶり返した時。たとえば、がんの再発や二度目の心筋梗塞が起きた時。
- 治療の効き目がなくなってきた時。
いつサポートを求めるべきでしょう?
不安やうつが次のような場合、サポートを求めるべきでしょう:
- これまでにないほど、ひどく恐れやや心配、悲しく感じる。
- 時間の経過と共に、回復しているようには思えない。
- 家族や友達、仕事や興味への気持ちに影響を及ぼしている。
- 自分は生きている価値がない、または、周囲の人にとっては自分などいないほうがいいと感じる。
次のような場合、自分がうつ病だとわからないかもしれません:
- どんな症状も、身体の病気から来ていると考えている。
- 自分のことを怠け者とか意志が弱いと責めている。
あなたの気持ちを周りの人々が和らげてあげるのが大事です。サポートを求めるのは、決して自分が弱いからではないことを心に留めておきましょう。忙しくすることで、不安やうつを耐え抜こうとする人もいますが、これが有効なのは一部の人だけで、さらにストレスや疲労を感じることもあります。時として不安やうつの症状は、悲しみや恐怖を感じなくとも、身体の痛みや頭痛、不眠などとして見られることもあります。
近い人や友人が心の支えになるかもしれず、こうした難しい時期は、彼らと話をするだけで満たされるかもしれません。それでもよくならないならば、担当の医師や看護師に話してみるとよいかもしれません。
こんな風に感じるだけで、サポートを求めてよいのでしょうか?
身体の病気にかかると、不安やうつについてサポートを求めるのは難しいことがあります。これは次のような理由によります:
- 自分が苦痛を感じているのは当然のことで、できることは何もないと考えている。
- 治療をしてくれる医師や看護師へは感謝しているように見せたい、あるいは不満などはないと見せたがっている。
- 身体疾患の治療を優先したいがために、本当はあれこれ上手くいかないとは言えなくなっている。
- 医師や看護師は身体の病気の治療に忙しく、不安やうつなどには無関心であると感じている。
- 医師や看護師は、どんな風に感じているかではなく、身体的な症状により関心があるように思える。
深刻な身体の病気にかかれば、不安やうつにもなるだろうと、こころの問題を軽視してはなりません。医師や看護師は、不安やうつを含めて、あなたの健康のすべてに注意を払っています。医療従事者は次のようにサポートしてくれます:
- あなたの置かれている状況への心配や懸念を理解してくれる。
- 病気とその治療について、あなたの理解が十分か確認してくれる。
- あなたが自分の気持ちを話せるようにサポートしてくれる。
- 不安やうつの治療が必要かどうかを決めてくれる。
不安やうつには、どのような治療があるのですか?
かかりつけ医、資格を持つカウンセラー、心理療法士、臨床心理士、精神科医など、様々な分野の専門家があなたを助けてくれるでしょう。治療法は、あなたの症状やその程度、置かれている状況により判断されます。会話を通じた治療(対話療法)、抗うつ薬、またはその両方を受けることもあるでしょう。
対話療法
たとえ友人に対してでも、胸の内を話すということは難しいものです。他方、専門家は、あなたの話を興味深く聞いてくれるので、気持ちを伝えやすいでしょう。彼らは、あなたがはっきりと物事をとらえたり、問題を整理するのをサポートしてくれます。対話療法はたいてい短く、多くても8セッションです。1対1での面談もあれば、グループ面談もあります。あなたに配偶者(パートナー)や世話をしてくれる方がいれば、彼らにも同席してもらうと効果的かもしれません。対話療法には様々なアプローチがありますが、共通することは以下の点です:
- 本人と専門家の間に信頼関係があること。
- 自分の考えや気持ち、問題について、あなたは自由に率直に話すことができること。
- 心配や暗い気持ち、直面している問題に対して効果があること。
効果があるのですか?
ただ話をするために誰かに会うのは、勇気がいるし、無意味に思えるかもしれません。しかし、一度話し始めると、深刻な身体の病気を抱えた人の多くにとって、効果が見られます。
どのように効果があるのでしょうか?
対話療法により、あなたがどんなことを考えているのかを把握することができます。気持ちや考え、現実問題に、上手く対応していく筋道を立てるのに役立つでしょう。あなたが信頼でき、先入観で決めつけない誰かと自由に話をすることは、とても効果的です。
どのくらいで効果が表れるのですか?
自分の心配について話すことで、すぐに心が軽くなる人もいますし、数週間かかる人もいます。
抗うつ薬
ひどく不安で気持ちが落ち込んでいたり、またはそんな症状が長引く時は、抗うつ薬が有効かもしれません。抗うつ薬を服用すると、不安が軽くなり、気分が優れてきて、再び楽しい生活を送り、物事をうまくこなせるようになります。抗うつ剤は精神安定薬ではありませんが、不安やいらだちを和らげるのに効果があります。また、痛みや睡眠障害にも有効です。
すぐに良くなったように感じますか?
おそらくそうはなりません。多くの薬と異なり、抗うつ薬はすぐには効果が表れません。気分が優れてくるには、おそらく2-3週間かかるでしょう。ただ、不眠や不安などの症状は、服用の数日後には和らいでくるでしょう。
どのような副作用がありますか?
他のすべての薬と同様、抗うつ薬にも副作用がありますが、たいてい軽度で、治療を続けていくうちになくなっていきます。抗うつ薬ごとに異なる副作用があるので、医師が説明してくれます。抗うつ薬は必要であれば、鎮痛剤や抗生剤、避妊薬と併用できます。けれども、多量の飲酒は避けるべきです。抗うつ薬の服用時にお酒を飲むと強い眠気が生じます。抗うつ薬と身体疾患に対する治療との相互作用については、医師がアドバイスしてくれます。
自分でできることは?
専門家からのサポートだけでなく、自分自身でできることがいろいろあります。
- 親しい人に恐れや不安について話してみましょう。話してみると、後悔するどころか、気持ちが楽になることに気づくかもしれません
- 担当医に病気について質問してみましょう。病気や治療について分からないことがあれば、尋ねましょう。病気についての知識があると、もっとうまく取り組んでいけるでしょう。
- バランスのとれた食事を心がけましょう。心配事や気持ちの落ち込みにより食欲が落ちると体重が減ります。そうるすと、体調も悪くなってしまうことがあります。
- 治療のために必要なことと、生活のために必要なこととのバランスを保ちましょう。「病気なので諦める」ことと「病気の有無に関わらず取り組んでいく」ことと、うまくバランスを取りましょう。
- 自分のことを大事にしましょう。リラックスしたり、楽しみを見つけ、また、可能ならば毎日規則的な運動を心がけましょう。
- 気持ちを和らげるために、お酒を飲み過ぎてはいけません。実はお酒は、不安やうつを悪化させることがあり、服用中の薬の作用を邪魔することがあります。
- よく眠れないからと気にし過ぎないようにしましょう。不安があり、気持ちが落ち込んでいれば、なかなか眠れないかもしれませんが、気分がよくなるにつれて、たいていはぐっすり眠れるようになります。
- 医師と相談しないで、服用中の薬の量を変えたり、服用を止めたり、他の薬を試したりしてはいけません。もし薬によって不快な副作用があるなら、医師や看護師に伝えましょう。黙っているのはよくありません。
家族や友人には何ができますか?
家族や友人は、あなたが身体の病気を患っていて、かつ不安やうつも抱えているのに気づきやすいものです。もし、親しい誰かの落ち込んでいる様子に気がついたら、穏やかに、サポートを求めるよう勧めましょう。不安やうつはよくあることであって、ほとんどの場合はサポートによってよくなることを説明してあげましょう。精神科医や心理士などの専門家に診てもらうのは、本人や家族にとって恥ずかしいことでも、弱さの表れでもありません。
- 不安やうつの人のそばにいてあげるとよいでしょう。口うるさく言ったり励ましたりする必要はありません。話をしたり、普段しているようなことをするのがいいでしょう。
- 不安やうつの人へは、いずれ必ずよくなると言って安心させてあげましょう。本人にとっては、よくなることなど信じがたいかもしれないのです。
- 本人がバランスのよい食事をとっているか確かめましょう。お酒を飲み過ぎないよう、サポートしましょう。
- 不安やうつの症状が悪くなっていき、生きていたくないと言い始めたり、自分を傷つけることをほのめかしたりした場合、これらの言葉を真剣に受けとめて、担当医に伝えるようにしましょう。
- 本人が、指示通りに治療を受け入れるようサポートしましょう。治療についてあなたが疑問に思うようならば、医師に相談しましょう。
身体の病気を患い、かつ、不安やうつに苦しむ人を介護するのは、とても大変なことです。もしあなたの手に負えないと感じるようなら、サポートを求めましょう。
参考文献
- Antidepressants for depression in physically ill people (2010) Rayner L, Price A, Evans A, Valsraj K, Higginson IJ and Hotopf M. Cochrane Database of Systematic Reviews.
- Depression in adults with a chronic physical illness, treatment and management (2009) National Institute for Health and Clinical Excellence (NICE).Managing depression in physical illness (2002) MacHale, S. Advances in Psychiatric Treatment 8: 297-304.
- Mood disorders in the general hospital setting (2009) Cleare JC, Psychiatry 8: 67-70.
- Psychological reaction to physical illness (2012). Guthrie E & Nayak A in Seminars in Liaison Psychiatry. Eds Guthrie E, Rao S and Temple M. Royal College of Psychiatrists.
さらなる情報を得るには
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