親の精神疾患が子どもに与える影響

Parental mental illness for children and young people

Below is a Japanese translation of our information resource on parental mental illness for children and young people. You can also view our other Japanese translations.

このリーフレットについて

親、教師、青少年向けに作成された「こころの健康と子どもの成長』というシリーズのひとつです。このリーフレットは、親が精神疾患を患っている場合、子どもがどのような問題に直面するかについて解説し、それらの問題への対処法について実践的なアドバイスを示しています。

11歳のスージーの場合

11歳のスージーは学校を休みがちです。登校しても元気がないことが多く、服装がだらしなかったり髪が汚れていたりすることもよくあります。周りに対して威圧的な態度をとるため、なかなか友達もできません。年下の子どもたちはスージーにいじめられているとか脅されていると訴え、学校側はスージーの態度は問題だと考えました。
 
スージーの母親はシングルマザーです。スージーの態度や欠席がちなことについて学校から二度にわたり保護者面談に呼ばれましたが、一度も出向くことはありませんでした。専任の教育監督官が家庭訪問したところ、母親が双極性障害を患っていることがわかりました。母親は、薬は処方されてはいるものの指示されたとおりに飲まないことも多いため、調子のいい日と悪い日があります。それがスージーの欠席が多い理由だったのです。学校で威圧的な態度を取る理由もわかりました。母親が薬をきちんと飲むよう、常にスージーが目を光らせ注意していなくてはならなかったからです。また母親の面倒を見るだけでなく、9歳の弟、ジェイクの親代わりもしようと頑張っていました。

家族全体を支援する計画
地域精神保健チーム(Community Mental Health Team; CMHT)はスージーの母親の治療計画を見直し、病状の管理と親としての役割の両面について評価を行いました。CMHTは母親がきちんと薬を飲んでいるかを把握できるよう、体制を整えることにしました。また母親は、病状を自己管理するためのサポートやアドバイスを受けるため、デイ・センターで開かれている任意参加のミーティングに週一回参加することに同意しました。子どもたちについてはコモン・アセスメント・フレームワーク(共通の評価枠組み)に沿って調査が行われ、支援が行われることになりました。

スージーの威圧的な態度を改善し出席状態をモニターするため、行動支援チームが学校と協力して支援計画を実施しています。また、欠席による学習の遅れを取り戻すための学習支援も行われています。在宅介護を担っている子どもたちをサポートしている地元の支援グループに教育監督官が連絡を取り、スージーがサポートを受けられるかどうかを打診しました。スージーに必要なのはビフレンディング(訳注:同じような年齢・立場にある人が友人のように寄り添い、活動をともにする支援)と、放課後の宿題クラブだということになりました。また双極性障害について、スージーに説明をすることにしました。弟のジェイクは土曜日に地域の教会で開かれる子どもクラブに入会し、双極性障害についての説明も受けました。

精神疾患とは?

精神疾患とはこころの病気で、その病気を持っている人は、考えたり感じたりすることの一部のコントロールがうまくできなくなります。ひじょうに軽いもの(何かをするのが普段よりもずっと大変だと感じる軽度のうつ病など)から、ひじょうに深刻なもの(例えば、統合失調症といった病気の影響が当人の生活の大部分を占めてしまい、自立した生活を送れなくなった場合)まで様々です。

4人に1人は一生の間のどこかで精神疾患にかかるといわれています。精神的に健康な状態にあれば、自分に自信を持つことができます。学校や仕事に行くことや、趣味や友人と過ごす時間を楽しむなど、日常生活を難なく過ごすことができます。

たとえうまくいかないことがあったとしても、簡単ではないかもしれませんが、なんとか自分で切り抜けることができるものです。

精神疾患にかかると、日常のことがとても困難に感じられ、気持ちが混乱したり落ち込んだりすることが多くなります。自分では普通だと思ってしている行動が、周囲からは奇異に見えることもあるかもしれません。

精神疾患のある親をもつ子どもたちはどれくらいいますか?

成長過程の一時期を、なんらかの精神疾患を持つ親と過ごす子どもたちが多くいます。たいていの場合、親の症状は軽度あるいは短期間のものなので、かかりつけ医による治療だけで治ります。

しかし一部の子どもたちは、総合失調症や双極性感情障害といった重度の精神疾患を持つ親と暮らしています。実際、精神疾患を抱える女性の68%、男性の57%が子どもを持つ親なのです。さらに、多くの子どもたちが、長期にわたるこころの健康の問題やアルコールや薬物に関わる問題、パーソナリティ障害を抱える親と暮らしています。

精神疾患を持つ親と暮らす子どもはなぜ問題を抱えるのでしょうか?

子どもはたいてい、次のような環境にあれば、人生のどんな問題にもうまく対応しています:

  • 問題が短期間で終わり、一度だけである。
  • 何が起こっているのか、わかる範囲でなぜなのか、子どもたちが理解できる。

親は、病気、とりわけ精神疾患が長引いたり再発したりするという事実を変えることはできません。

しかし中には、病気に関することから子どもを守ろうとして、病気であることを隠したり、尋ねたり口にしたりしてはいけない「何か」にしようとする親もいます。

たいていはちゃんとした理由があってのことでしょうが、これは間違いで、子どもが、自分の感じていることに向き合ってなんとかやっていくことをかえって難しくしてしまいます。

こういった状況にあると、子どもは次のようなことを心配します:

  • 親の病気は自分のせいである。そのせいで気分が落ち込むかもしれません。
  • 自分も同じ病気にかかるのではないか。病気によっては、家族が同様の疾患にかかる可能性が高いこともあります。ただし、子どもが、病気は自分のせいではなく、親や同世代の子どもたち、信頼できて助けてくれるまわりの大人たちと良い関係を築くことができれば、このリスクは減らせます。病気について理解することも、子どもが同じような病気にかかるリスクを抑えるのに役に立ちます。
子どもによっては、次のような境遇に置かれると、うまくやっていくのがより大変になるかもしれません:
  • 親が治療のために入退院を繰り返し、その度に離れて生活しなくてはならない。
  • 同居している親の症状が重く、自宅で治療している。
  • 精神疾患を持つ親との関係に不安を感じている。
  • きちんと面倒を見てもらえない。
  • 殴られたり、粗末に扱われたりしている(アルコール・薬物問題やパーソナリティ障害をもつ親に多く見られます)。
  • 具合の悪い親の介護やきょうだいの世話をしなくてはならない。
  • からかわれたりいじめられたりしている。
  • 自分の親に関する思いやりのない噂や発言を耳にする。

適切なサポートや説明をすべて受けていたとしても、子どもたちが自分の親の疾患や行動について悲しい思いをしたり、恐怖や不安を感じたり、恥ずかしいと思ったりすることがあります。

子どもにはどんな影響がありますか?

自分の殻に閉じこもったり、不安を募らせたり、学業に集中できなくなったりする子どももいます。親の病気についてまったく説明をしてもらっていない場合はとりわけ、親の病気や問題について他の人に相談しづらいと感じることがあります。そのために支援を受けられないこともあります。

子どもたちはしばしば、親の病気を恥ずかしく思ったり、自分も同じ病気になるのではないかと心配します。病気が「うつる」のではないかという恐怖で頭がいっぱいになることもあります。また、似たような病気の症状や、深刻な情動面での問題が現れる子どももいます。

身体面の健康に問題が生じることもありますし、学校生活や学業に苦労することもあります。特に、親が経済的に苦しい、住宅事情が悪い、生活が不安定といった場合です。

どこに助けを求めればよいですか?

これらの問題を防止し、子どもたちに大変な思いをさせないためにできることがあります:

  • 信用できる、安定した、思いやりのある親、あるいはその他の大人がそばにいる。
  • 親の病気に関する情報提供や説明を受けられる。
  • 同級生と同じように通学したり遊んだりするといった規則的な生活を送るよう、子励ましや支援を受ける。

あなたが精神疾患を持つ親である場合、あなた自身が適切な治療を受けることは大切です。子どもの世話やサポートといったニーズについて、特にあなたの具合の悪い時にどうするか、あなたの治療に関わっている医師やスタッフと話し合いましょう。精神疾患を持つ親の治療に当たっている精神保健の専門家たちは、子どもたちのニーズを把握し、支援を必要としているかを確認します。これは親が入院治療をしている場合に限ったことではありません。

親の病気や自分の感じている恐怖などについて、事情に詳しい専門家に話を聞いてもらえるということは、その子どもにとって非常に貴重な機会となります。

親や教師が病気の親を持つ子どもが感じるストレスに気付くことが重要です。また、子どもの問題行動は、助けを求めるサインかもしれないということを認識しなくてはなりません。

  • 子どもが介護を担っている家庭に対しては、かかりつけ医やソーシャル・ワーカーが支援や実践的な補助を行う。またその子どもの健康や成長の妨げになるような問題が起きている場合、他の専門家と協力してアドバイスをする。
  • 子どもは、親やきょうだいの介護・世話を担う青少年(「若年の介護者(young carers)」と呼ばれることがあります)のために活動している地域のグループに参加できる。

治療やカウンセリングが必要な子どももいます。多くの子どもにとっては、これは自分が「問題」であるか、あるいは自分も病気になるためだと思い、あまり嬉しいことではありません。若年介護者のグループは、こういった問題が生じるのを防ぎ、子どもたちは親を助けていることで、尊敬されます。

子どもや青少年の情緒や行動に問題があり、それが日常生活に支障をきたしていて改善が見られない場合には、専門家によるさらなる援助が必要となります。かかりつけ医は、地域内で子どもが受けられる支援について助言を行い、必要であれば児童・思春期専門の精神保健サービス(child and adolescent mental health service, CAMHS)に紹介します。このサービスには通常、児童精神科医、心理士、心理療法士、看護師、ソーシャル・ワーカーらが携わります。

さらなる情報

Crossroads care for young carers – 若年介護者に向けた情報やサポートを提供しています。地域のグループについての情報もあります。

Bipolar UK – 双極性障害(躁うつ病)の診断を受けた人とその家族をサポートしています。
 
Princess Royal Trust for Carers – 介護者、若年介護者のための情報、アドバイス、討論の場を提供しています。YoungCarersNet: http://www.youngcarers.net/
 
Rethink Mental Illness
重度の精神疾患をもつ人とその家族に向けた情報やアドバイスを提供しています。

 

参考図書

「Minds, Myths and ME」は英国の4人の若年介護者によって書かれた小冊子です。王立精神科医学会を通じて入手できます。

「When a parent has a mental illness」: Alan Cooklin医師による、若年介護者のための映画。

参照文献

“Being seen and heard”: the needs of children of parents with mental illness: multi-media training pack for use of staff involved with parents and their children.

Gopfert, M., Webster, J. & Seeman, M. 2nd edition (eds) (2004) 'Parental Psychiatric Disorder' - Distressed Parents and Their Families. Cambridge: Cambridge University Press.

Translated by Junko Yasuda, Hisako Akanuma and Dr Nozomi Akanuma. August 2013

 

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