記憶の障害、アルツハイマー病、認知症

Memory problems, Alzheimer's and dementia


はじめに

年をとると大概の人が忘れっぽくなります。中には、より深刻な物忘れに進行する人もいます。こうした記憶の障害は認知症やアルツハイマー病の最初の兆候かもしれません。このリーフレットでは、記憶の障害を起こしうる原因や、自分自身または知り合いで記憶力が落ちたと心配している人への支援について述べていきます。

 

認知症とは

認知症の多くは単なる記憶の障害から始まります。しかし、脳の多くの部分が障害され、以下のような様々な症状がみられるようになります:

  • 日常的な出来事に対処することが難しくなる。
  • 人との意思の疎通が困難になる。
  • 気分や判断能力、性格が変化する。

 

認知症は徐々に悪化していくのが普通です。認知症の人は病気が進行するにつれ、より多くの介護を必要とするようになります。

 

どれくらいの人が認知症になりますか?

認知症は高齢者に多い病気ですが、40歳で始まることもあります。65歳以上の人ではおよそ10-15%の人が認知症に罹り、80歳までには症状の差はあれ、約20%(5人に1人)の人が認知症に罹るとされています。

 

認知症の原因は?

認知症の原因として最も多いのが、アルツハイマー病です。脳の中に傷がついた組織がたまり、「老人斑」や「神経原線維変化」という沈着物を形成します。これにより、周囲の脳細胞が死んでしまうのです。アルツハイマー病では、脳の細胞から細胞へと情報を伝える化学物質にも障害が及びます。アセチルコリンという化学物質が最も障害されます。

 

アルツハイマー病は徐々に始まり、何年もかけてゆっくりと進行します。その原因はまだよく分かっていませんが、同一の家族内で複数の人が発症することがあります。また、ダウン症の人はアルツハイマー病に罹りやすいとされています。

 

  • アルツハイマー病にかかった人は、物事を思い出したり考えたりすることが困難になります。
  • 新しいことを学ぶのがひじょうに難しくなります。
  • 最近の出来事や約束、電話での伝言などを覚えていないことがあります。
  • 人の名前や場所を忘れることがあり、そのために日常の簡単な用事をこなすのも困難になります。
  • 人の言っていることを理解したり意思の疎通をはかるのが難しくなります。
  • 周りのよくあるものやよく知っている人の名前などが出てこなくなることがよくあります。そのことでイライラしたり、落ち込んだりすることもあります。
  • 失くしただけなのに物を盗られたと他の人を責めることがあります。
  • 認知症のある人は、自分はどこも悪くないと思っていることがあります。まわりの人が手助けをしようとすると不機嫌になります。介護する人たちは、アルツハイマー病の人の性格が少し変わったと言うことがよくあります。たとえば、病気になる前と振る舞いかたや、物事への対応のしかたが変わります。

 

脳血管性認知症は、脳へ血液を供給する動脈が詰まることによって起こります。脳に十分な酸素が届かずに小さな脳梗塞ができ、脳の一部が死んでしまうのです。脳血管性認知症は、アルツハイマー病よりも急速に進行することがあります。高血圧や喫煙、糖尿病、高コレステロール血症など、動脈を詰まらせる要因のある人ほど脳血管性認知症に罹りやすくなります。

 

脳血管性認知症がどのように進行するかを予測するのは困難です。数ヶ月、数年と安定することもありますが、その後新たな梗塞ができてさらに悪化することもあります。

 

脳血管性認知症でどのような症状が出現するかは、脳のどの部位が障害されるかによります。

 

  • 記憶力の低下、集中力の低下がみられることがあります。
  • 言葉が出てこないという症状がよくみられます(これはアルツハイマー病も同様です)。
  • 気分のムラやうつ状態もよくみられます。
  • 混乱状態になる人もいます。怒りっぽくなったり、気に病んだりするかもしれません。
  • 幻覚(実際にないものが見えたりする)を体験する人もいます。
  • 歩行障害や失禁といった身体的な症状がみられることもあります。

 

ひとりの人が脳血管性認知症とアルツハイマー病の両方に罹ることもあります。この2つを区別することは医師にとっても非常に困難で、脳スキャンが診断の役に立つこともあります。

 

レビー小体型認知症は、レビー小体という蛋白質の沈着物が脳の中でできてしまうことにより起きる認知症です。

 

レビー小体型認知症の症状はアルツハイマー病だけでなくパーキンソン病の症状にも似ています。徐々に悪化していくことが多いです。

 

  • 物忘れがみられ、計画を立てることも困難になります。
  • 混乱状態の度合いは、一日の中でも波があります。
  • 多くの人が、人物や動物などの鮮明な幻視を経験します。
  • 振戦(ふるえ)や筋肉のこわばり、転倒、歩行障害などの症状を伴うことがあります。

 

前頭側頭型認知症は、脳の前部が他の部位よりも強く障害されているタイプの認知症です。たいてい50歳代から60歳代に症状が始まります。脳の前方が障害されるため、記憶障害に加え、性格の変化が起きやすくなります。そのため、普段はとても礼儀正しくきちんとしていた人が、怒りっぽくなったり失礼な態度をとるようになることがあります。

 

他の原因

他にも多くの病気が認知症や記憶障害の原因になります。しかし、中には適切な治療で回復するものもあります。うつ病では認知症と似た症状がみられることがありますが、抗うつ薬や心理療法により改善します。

 

非常に強い心配ごとがあると記憶力や集中力が低下することがあります。しかし、適切な治療や安心することにより良くなります。

 

多くの身体疾患が記憶障害の原因になります。記憶障害の原因となる病気には、腎障害、肝機能障害、甲状腺機能障害などがあります。ある種のビタミンが不足することで認知症になることもありますが、これは非常に稀です。呼吸器感染症や尿路感染症が混乱状態の原因となることがあります。この場合は抗生物質で治療できます。ハンチントン病といった非常に稀な病気も認知症の原因となります。ハンチントン病では若年者に認知症がみられます。

 

軽度認知障害とは?

最近忘れっぽくなったと心配になることは誰にでもあります。こうしたなかには、年の割には物忘れがひどいけれども認知症というほど重症ではない、といった場合があります。この状態を軽度認知障害といいます。軽度認知障害がある人の約10-15%はいずれ認知症になります。しかし、誰がそうなるのか、現在のところ予測することはできません。

 

支援を受けるには

もし物忘れがひどいと心配でしたら、かかりつけ医の診察を受けるようにしてください。医師は簡単な記憶の検査や血液検査をし、必要とあれば専門チームや心理療法士、専門医を紹介します。そこでは、より詳しい検査を行い、必要に応じて脳スキャンが手配されます。地域により、こうした検査を行う専門クリニックがあります。

 

簡単にできる実践的な対応

記憶障害のある人が簡単にできる実践的な対応方法があります。

 

  • 日記をつけて約束を忘れないようにする。
  • やるべきことのリストを作る。
  • 本を読んだり、クロスワードパズルや数独などの頭の体操をして頭の働きを活発に保つ。
  • 運動する(これは年齢に関わらず良いことです)。
  • 健康的な食事をとる。ビタミンEやイチョウ葉(ギンコウ)などのサプリメントは現在、勧められていません。

 

治療

どのような診断がされたか、またどのような環境にいるかにより治療は異なります。残念ながら、上に書かれた病気に完治のための治療法はありません。

 

認知症の人が日常の移動も含め自立して生活できるよう、働きかけ、支えていくことはとても大切です。集団認知刺激法という心理療法が、記憶や生活の質を改善するのに有効であるとされています。

 

アセチルコリンエステラーゼ阻害剤という種類に分類される薬物が、数種類あります。また、メマンチンという別の種類の薬もあります。これらはアルツハイマー病の進行を遅らせる場合があります。こうした薬剤は、幻覚を伴うレビー小体型認知症にも有効なことがあります。「アルツハイマー病の薬物療法」のリーフレットをご覧ください。

 

血管性認知症では、少量のアスピリン内服で新しい梗塞を予防できることがあります。高血圧や高コレステロール血症がある場合、それに対する薬物を内服するように、かかりつけ医から勧められるかもしれません。タバコをやめ、健康的な食事を摂り、運動することも重要です。

 

将来の計画をたてる

  • どんな心配事でも、かかりつけ医や精神科専門看護師、ソーシャルワーカーに相談してください。
  • アルツハイマー病協会のような慈善団体からも役に立つアドバイスが得られます。
  • 精神科専門看護師からは、病気を理解するための支援が受けられるでしょう。薬物療法への助言や、他にどのような支援が受けられるかの助言も得られます。
  • 社会福祉事務所からは、ホームヘルパーや在宅食事援助、デイケアなどの支援を受けられる場合があります。福祉手当を受ける資格があるかもしれません。
  • 「継続的代理権」の手続きを済ませておいても良いかもしれません。そうすれば、いつか事務手続きが自分でできなくなった時に、信用できる人にその手配をしてもらえます。

 

こうした情報は、次の資料をもとに編集されています。

  • アルツハイマー病協会の出版物
  • 英国国立医療技術評価機構(NICE)診断治療指針 (http://guidance.nice.org.uk/)

 

より詳しく知りたい方へ

Alzheimer's and Other Dementias: answers at your fingertips. Cayton, Graham, & Warner. Class Publishing (London) Ltd. 3rd edition 2008.

 

Your Memory: a users guide. Baddeley. Carlton Books (London). Revised edition 2004.

 

Dancing with Dementia: My story of living positively with dementia.  Bryden.  Jessica Kingsley Publishers (London & Philadelphia). 2005.

 

支援団体

アルツハイマー病協会 (Alzheimer’s Society)

住所: Devon House, 58 St Katherine’s Way, London E1W 1JX

電話: +44 (0) 20 7423 3500. 電話相談: 0845 300 0336

Email: mailto:enquires@alzheimer's.org.uk

アルツハイマー病協会は、認知症の人やその介護者のためのケア・研究団体です。英国全土に地域オフィスがあり、支援やアドバイスを提供しています。地域にある支部では、役に立つパンフレットが入手できます。ホームページからのダウンロードもできます。

 

Age UK

Age UKグループは、高齢者の生活改善のためのサービスや必要不可欠なサポートを提供し、すべての人が人生の後期をより良く過ごせるような活動をしています。

電話番号: 0800 169 8787; Eメール: contact@ageuk.org.uk

 

Carers UK

住所: 20 Great Dover Street, London SE1 4LX

電話: 020 7378 4999.   介護者用電話相談: 0808 808 7777

Carers UK は、友人や親族の介護を無報酬で行っている介護者を支援しています。

 

Citizen’s Advice Bureau

独立したアドバイスを、守秘義務を守り、無料で提供しています。福祉手当や経済的な計画、ケアの手配などの支援に関する情報が地元のオフィスで得られます。

Court of Protection(自己決断能力のない人のための保護法廷)への申請

あなたが知っている人や介護をしている人が、健康や経済、福祉に関して自分で決断を下すことが難しくなった場合、あなた(あるいは他の誰か)が本人に代わって決断するためにはCourt of Protectionに申請する必要があります。

 

後見人に関する公的機関(Office of the Public Guardian)

イングランドとウェールズ(スコットランドと北アイルランドでは異なる制度があります)における公的機関です。持続的代理権(Enduring Powers of Attorney; EPA)および継続的代理権(Lasting Powers of Attorney; LPA)の登録、Court of Protectionによって任命された代理人の監督を通じて、公的後見人をサポートしています。

このリーフレットの作成にあたり、ノーサンプトンのセント・アンドリュース精神保健慈善基金のご後援をいただきました。

Translated by Dr Genishi Sugihara, Yumi Wheeler and Dr Nozomi Akanuma. April 2012.

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