妊娠中のこころの健康

Mental health in pregnancy

 

 

このリーフレットについて

このリーフレットは以下の人々に向けて書かれています:

  • こころの健康に問題を抱えている妊婦
  • 過去にこころの健康に問題があった妊婦
  • そのような妊婦の家族や友人


このリーフレットは以下について説明しています:

  • 妊娠中のこころの健康の問題
  • 妊娠中および出産後にどのようにこころの安定を保つか
  • 妊娠中に薬を飲むべきかどうか、どうやって決めればよいか
  • こころの問題を抱えた妊婦のため、どのような助けやサポートがあるか

 

こころの健康は、妊娠によってどのように影響されますか?

妊娠中は多くの女性はこころの健康を良好に保てます。しかし、妊娠した時点ですでに精神疾患を患っている女性や、過去にこころの健康に問題があったことを心配する女性もいるでしょう。そのような経験のある人は、妊娠中あるいは出産後に、精神疾患が再発することを恐れます。妊娠して初めてこころの健康に問題がみられるケースもあります。残念ながら、妊娠してこころの健康に問題がなくなるわけではありません。また、妊娠時に薬の服用を止めた女性は、病気が再発するリスクが高いです。たとえば、妊娠早期に抗うつ剤の服用を止めた女性10人のうち、7人は状態が悪化します。

うつ病と不安障害は、妊娠中に最も多くみられるこころの健康の問題です。100人の妊婦のうち、10~15人が患ってしまいます。妊娠中も、妊娠していない時と同様に様々なこころの健康の問題に直面することがあるでしょう。

妊娠中のこころの健康は、以下のような様々なことに左右されます:

  • 過去の精神疾患の病歴
  • 現在治療中かどうか
  • 家族の死や、離婚や離別など、ストレスを感じる出来事が最近あったかどうか
  • 妊娠についてどう思うか。妊娠を幸せに感じることも、そうでない場合もあるでしょう。妊娠により、自分の子供時代の辛い思い出がよみがえることもあります。


妊娠中の精神疾患の症状は、通常時の症状と同じか、中には妊娠そのものに起因する、妊婦特有の症状もあります。たとえば、妊娠やお腹の赤ちゃんを心配し過ぎたり、ネガティブな気持ちになるかもしれません。特に体重増加やボディラインの崩れを受け入れ難く感じることもあり、これは過去に摂食障害を患ったことがある女性に顕著に表れます。

妊娠そのものによって起こる症状は精神疾患の症状と似ているため、間違いやすいこともあります。たとえば、睡眠障害や無気力というのは、妊娠でもうつ病でも共通にみられる症状です。

人によっては、妊娠による変化や不安定な状態を受け入れられずに戸惑ってしまうでしょう。妊娠は最高に幸福な時間だと感じる人もいれば、妊娠に対して、かなり複雑な、または否定的な気持ちを持つ人もいます。

多くの女性は自分が子供を持つことに適応できるか心配になります。妊娠中、以下のような悩みは多く見受けられます:

  • 役割や関係の変化(母になることや仕事を辞めること)
  • 人間関係の変化
  • 良い親になれるか
  • 妊娠の経過やお腹の子に問題はないかという不安
  • 出産への恐れ
  • サポート不足と孤独感

 

過去にこころの健康の問題はあったが、今は良好であれば?

あなたが妊娠中で、過去に次のような経験がある場合は、精神保健サービスを紹介してもらいましょう:

  • 統合失調症、双極性障害、分裂感情障害、重度なうつ病などの深刻な精神疾患
  • 精神保健サービスで治療を受けたことがある
  • 産褥性精神病、または産後うつ
  • 強迫性障害等の重度の不安障害
  • 拒食症や過食症などの摂食障害


あなたのこころの健康が妊娠中に安定しているとしても、妊娠中は専門家からのアドバイスを受けるとよいでしょう。精神疾患を患ったことのある女性は、出産後に症状が悪化するリスクが高まります。精神保健の専門家が、あなたに適したケアや治療について一緒に考えてくれるでしょう。精神保健の専門家は、助産師、産科医、訪問保健師やかかりつけ医と協力し、あなたが自分に適したケアを見つけるサポートをしてくれます。

もしあなたが、上記以外のこころの健康の問題を患ったことがあれば、かかりつけ医に相談しましょう。病気の内容やその重度によりますが、かかりつけ医はたいていの場合、ケアや治療法についてアドバイスしてくれます。

妊娠中のこころの健康の問題には、どのような治療がありますか?

あなたに最も適した治療は、過去の病歴やその重度によって異なります。薬物療法と心理療法(対話療法)のどちらも効果的です。

薬物療法

かかりつけ医や精神科医と薬の服用について相談するのはとても重要です。あなたとお腹の赤ちゃんにとって何が最良の方法なのかをあなたが判断する際の情報となるからです。薬の服用を続けるか、変更するか、または中止するのかをあなたが決めるのです。

可能ならば妊娠する前に医師に相談することが望ましいですが、予期せず妊娠することも多いです。その場合には、妊娠が分かったらできるだけ早く医師に相談するべきです。医師の指示がないかぎり、薬の服用は突然止めないようにしましょう。治療を急に止めると、早期に再発するリスクがありますし、副作用が出る可能性もあります。妊娠中も薬の服用を続けるのがふさわしい場合もあります。

昔から妊娠中にも使用されてきた薬もありますし、反対に妊娠中の服用が胎児に悪影響をおよぼすとされる薬もあります。どんな治療でも、100%の安全を断言できる十分な情報はないものです。医師は、あなたがその薬の利点と不利益をよく考えるためのサポートをしてくれます。薬を選ぶ時には、以下のことに気をつけるとよいでしょう:

  • 今までに、どれくらい具合が悪くなったことがあるか
  • 薬の服用を止めた場合、どの位すぐに具合が悪くなるか
    • これまでに服用した薬の中で、どれが最も効果的であったか
    • 副作用があった薬はどれか
  • 妊娠中にその薬を服用した場合の安全性に関する最新情報
  • 妊娠中に具合が悪くなった場合、以下のようなことが起こりうるか:
    • 自分自身の身の回りのことが十分にできない。
    • 助産師の定期検診に行けない。これでは、必要なケアを受けられなくなります。
    • ドラッグやアルコールを乱用している人は、具合が悪くなるとますます摂取量が増えるでしょう。これは胎児に悪影響を与えます。
    • 具合が悪化すれば薬の服用量を増やしたり、再発したら数種類の薬が必要になることもあります。服用する薬の量や種類の増えると、妊娠中を通してずっと適量の薬を服用するのに比べて、胎児へのリスクが高まります。
    • 入院治療が必要な場合もあります。
    • 出産後も引き続き具合が悪い場合もあります。その場合、子どもの世話がさらに難しくなるでしょう。子どもとの関係に影響が出ることもあります。
    • 病気をちゃんと治療しないと、薬そのものよりも深刻な影響を子どもに与えてしまうでしょう。精神疾患を未治療のままにすれば、様々な問題を引き起こしかねません。たとえば、母親が妊娠中にうつ病になれば、低体重の赤ちゃんが生まれるとの報告がありますし、出生後の子どもの発育に影響が出る可能性もあります。

 

心理療法

対話による治療は、こころの健康の問題に効果があるようです。薬物療法の代わりに対話療法を受ける女性もいますし、対話療法と薬物療法を合わせて受けることが必要な女性もいます。

妊婦は心理療法が優先的に受けられることがあります。あなたのかかりつけ医が、地元のサービスを紹介してくれるでしょう。

妊娠中には、どのような専門家やサービスを利用すべきでしょうか?また、どのようなサポートを受けられますか?

多くの専門家やサービスが妊婦のための治療やサポートを提供しています。

産科サービス
助産師は、あなたの体とこころの健康について質問します。こころの健康の問題を抱えたことがあるならば、助産師に伝えるべきです。あなたのための適切なケアとサポートを考えてくれるでしょう。

妊娠中は、助産師による定期検診を受けることが大切です。地域によっては助産師があなたの家を訪問することも可能です。

かかりつけ医
妊娠中のこころの健康に不安がある場合は、かかりつけ医に相談するべきです。かかりつけ医はしかるべき情報やアドバイス、治療を提供できるでしょう。必要であれば、精神保健サービスや心理療法サービスを紹介してくれます。

地域精神保健チームと周産期専門の精神保健サービス
もしすでに地域精神保健チームのケアを受けているならば、担当のケア・コーディネーターに妊娠したことを伝えるべきです。ケア・コーディネーターは、あなたの地元にある、妊婦や出産直後の母親が利用できるサポートや治療について教えてくれるでしょう。

過去に一度でも地域精神保健チームのケアを受けたことがあれば、かかりつけ医に相談すべきでしょう。過去の病歴にもよりますが、妊娠中や出産後数カ月の間、地域精神保健チームのサポートが必要になるかもしれません。

地域によっては、妊婦や出産直後の母親のこころの健康を専門とするサ−ビスもあります。これは周産期専門精神保健サービスと呼ばれ、たいてい地域精神保健チームと一緒に活動しています。このサービスがあなたの地元にあるか、かかりつけ医や助産師に聞くとよいでしょう。

児童・家族福祉事務所
あなたのかかりつけ医または助産師、その他の専門家が、あなたを児童・家族福祉事務所へ紹介することもあるでしょう。

児童・家族社会福祉事務所のソーシャルワーカーは、何よりも子どもの健やかな成長を考えます。さまざまなケアやサポートがあり、子どもとその家族が何を必要としているのか的確に判断した上で、手を差し伸べてくれるでしょう。紹介を考えている専門家が、その理由をあなたに十分に説明してくれるはずです。

訪問保健師
訪問保健師は、赤ちゃんを生んだすべての女性を訪問します。訪問保健師は、赤ちゃんの健康や授乳、栄養や睡眠、その他の事柄についてアドバイスしてくれるでしょう。地域によっては、赤ちゃんが生まれる前に訪問保健師との面談があるところもあります。

専門家と協力し、事前に出産プランのミーティングをおこなう

妊娠中には、何人かの専門家があなたの治療にたずさわるでしょう。専門家は、あなたが必要な治療とサポートをきちんと受けられるように、あなた自身やあなたの家族と協力する必要があります。

もしあなたが深刻な精神疾患を患ったことがある場合、妊娠中のあなたの治療プランを検討するミーティングが大切です。このミーティングには、あなたとあなたの配偶者(パートナー)、そしてあなたの治療に関わるすべての専門家が参加します。家族で信頼できる方や仲の良い友人に参加してもらってもよいでしょう。

ミーティングをすることで、すべての関係者が関わって、妊娠中から出産、産後数か月にわたるあなたの治療プランを決めることができます。この治療プランは書面で渡されますので、コピーをきちんと受け取りましょう。

妊娠中には、他に誰からのケアやサポートが受けられますか?

サポートが比較的多い方もいるでしょう。

サポートの中心になるのは、あなたの配偶者(パートナー)や家族、友人でしょう。一番身近にいる人があなたのこころの健康の問題について知っているのはとても助かります。あなたの調子が悪くなりそうな場合にどのような兆候がみられるか、彼らは知っておくべきでしょう。また、あなたの様子が気にかかる時、誰に連絡するべきかも知らせておきましょう。あなたの配偶者(パートナー)や家族、友人は、家事や料理などの日常的な手伝いもしてくれるでしょう。

妊婦や新たに母親になった人は、他にも様々なサポートや支援を受けることができます。あなたの住む地域によって利用できるサービスは違いますが、助産師や訪問保健師が教えてくれるでしょう。このリーフレットの最後に役に立ちそうな団体のリストが載っています。

妊娠中にこころの健康を保つために、自分には何ができますか?

  • 健康でバランスのとれた食生活を心がける。
  • 飲酒量を減らし、できれば飲酒を止める。それができなければ、週に1度や2度、1-2ユニットの飲酒にとどめる。
  • タバコを止める。助産師やかかりつけ医に「禁煙サービス」について相談する。
  • 毎週、あなたが楽しめて、気分がよくなり、リラックスできる時間をつくる。
  • 家族や友人に家事や買い物を手伝ってもらう。
  • エクササイズをする。助産師に妊娠中の運動について、地域のマタニティ・エクササイズのクラスについて相談する。
  • 心配なことがあれば、家族や助産師、かかりつけ医に相談する。
  • 規則正しい睡眠を取る。

 

情報やサポートを受けるには?

National Childbirth Trust
妊娠と出産のホットライン:0300 330 0772 出産や初期の育児に関して、あらゆる角度からのアドバイスやサポートを提供しています。

Meet-A-Mum-Association (MAMA)
ヘルプライン:0845 120 3746 (平日午後7時~10時)
妊娠や出産にまつわる孤立や孤独、気分の落ち込みに苦しむ妊婦や母親、またはその家族へ向けて、サポートと情報を提供しています。地域グループやオンラインでのサポートがあります。

Netmums
妊娠と育児に関するサポートと情報を提供しているウェブサイト。サイトには、サポート提供に特化したページもあります。地域のお役立ち情報やサポートグループなどの記載もあります。

The Association for Postnatal Illness (APNI)
電話番号: 020 7386 0868
産後うつを患う女性のために、電話相談やインフォメーション・リーフレットを提供しています。産後うつを経験した女性がボランティア・ネットワークを作り、電話や手紙によりサポートしています。

Family Action
電話番号: 020 7254 6251
精神疾患を患う方の家族へのサポートや支援を提供しています。5歳以下の子どもがいて、精神疾患のために子育てがうまくいかない親への「ニューピン(Newpin)」サービスを提供しています。

Sure Start Children’s Centres
あなたの助産師に、地元の児童センターの詳細について尋ねましょう。Sure Start Children’s Centresは5歳以下の子どもとその家族をサポートしてくれ、両親へはアドバイスを提供します。両親学級がしばしば開かれ、予約なしで誰でも立ち寄れる講習会や出張サービス、早期教育と児童保護、職能訓練や雇用のための機会まで用意されています。

Samaritans
ヘルプライン: 08457 90 90 90; (アイルランド): 1850 60 90 90; e-mail: jo@samaritans.org
全国規模の団体で、自殺を考えていたり、絶望的な気持ちに苦しみ、誰かと話をしたいと感じている人を支援します。あなたの地元にある支部の電話番号は、電話帳に載っています。

参考図書

Curham, S. Antenatal & Postnatal Depression. Practical advice and support for all sufferers. Vermilion, 2000.

参考文献

Antenatal and postnatal mental health: clinical management and service guidance. NICE Clinical Guideline 45. (2007) National Institute for Clinical Excellence: London


Translated by Ayako Tsutsumi, Akiko Tatsuta and Dr Nozomi Akanuma. November 2013

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