アルコールとうつ
Alcohol and Depression
免責事項
このリーフレットについて
このリーフレットは次のような方を対象としています:- 気分がふさいでいて、お酒を飲み過ぎていると感じている方
- お酒を飲み過ぎていて、落ち込んでいる方
- 落ち込み、しかもお酒を飲んでいる人を友人や家族、同僚に持つ方
ここでは、アルコールとうつについての基本情報と、問題を抱えた本人が自分でできること、あなたが助けてあげられること、外部サポートの受け方、より詳しい情報の入手方法について述べています。
アルコールと私たち
英国では、9割以上の人がお酒を飲みます。私たちの多くは、飲酒は文化の一部であり、心地よく思うでしょう。節度のある飲み方は問題にはなりません。しかし、この30年で英国は豊かになり、お酒は安く買えるようになりました。私たちはより若い頃からお酒を飲み始め、量も増えてきています。英国においては、次のようなことが言えるでしょう:- 男性3人に1人、女性6人に1人がお酒によって、健康に何らかの問題を抱えています。
- 男性11人に1人、女性25人に1人が、身体的にお酒に依存しています。
お酒はどのように私たちに影響しますか?
すぐに見られる影響
子どもとは異なり(飲酒開始年齢は下がってきていますが)、大人はお酒を美味しいと思うものです。お酒を飲めばリラックスでき、特に少し内気な人は誰かと話しやすくなるでしょう。反面、車の運転や機械の操作ができなくなることや、決断を下す能力に影響が出るでしょう。お酒を飲み続けると呂律がまわらなくなり、足元がおぼつかなくなり、翌日後悔するようなことを口にしてしまったりします。さらに飲み続けると、大体の人は眠くなり、めまいや吐き気を感じます。意識を失うこともあります。翌日にはお酒を飲んでいる時の出来事を覚えてないこともあるでしょう。
アルコールに依存し始める
アルコールは、数時間だけ気持ちよくいるには最適な手段です。もしあなたが落ち込んでいて、何もする気になれないと感じていたら、アルコールの力で、日常生活をなんとか乗り切ろうと考えるでしょう。問題は、アルコールは薬のように習慣になりやすいということです。アルコールによる恩恵などすぐに薄れ、飲酒が日常の習慣の一部になってしまいます。アルコールに依存し始めると、下記のような点に気付くようになります:- 自分の意志で飲むのではなく、飲まずにはいられなくなる。
- 目覚めた時に手が震えていたり、イラつきを覚える。
- お酒を飲み始める時間が、どんどん早くなる。
- 仕事がうまくいかなくなる。
- 飲酒によって、人間関係にも影響が出る。
- 飲酒がもたらす問題から眼を逸らして、お酒を飲み続ける。
- かなり飲まないと、今までと同じような効果がでてこなくなる(慣れが生じる)。
- 「暴飲(binge drinking)」(下記を参照)が習慣となる。
- お酒のこと以外はあまり重要ではなくなる。
長期におよぶ影響
飲酒によって次のようなことが起こるでしょう:- 精神病状態—他に誰もいない場所で声が聞こえる。
- 記憶障害—アルツハイマー病に似た記憶の問題が生じる。
- 身体的問題—脳や肝臓などの臓器をいためる。
アルコールとうつにはどんな関係があるのですか?
アルコールとうつに関係のあることは分かっています。自傷行為や自殺は、飲酒の問題を抱えた人々により多く見られます。アルコールとうつとの間には、二通りの関係があります:- 常に飲み過ぎる(暴飲も含む)ことで、うつ状態になる。
- 不安や落ち込んだ気分を和らげるために、お酒を飲む。
どちらの場合も、次のようなことが起こるでしょう:
- アルコールは脳の働きに影響を与え、うつになるリスクを増やします。
- 二日酔いによって、起床時の気分の悪さ、不安、神経過敏、罪の意識を感じるなどの悪循環が始まります。
- 友人や家族との口論や仕事上の問題、記憶や性生活に問題が起こるなど、人生がつまらなくなるでしょう。
どのくらい飲むと飲み過ぎですか?
お酒によって、アルコールの強度が異なります。どのくらい飲んでいるか知るには、「ユニット」で量るのが最も簡単です。1ユニットは10mlあたりに8gの純粋なアルコールを含みます。通常度数の蒸留酒25ml、アルコール度3.6%のビールまたはラガー半パイント(約236ml)、またはアルコール度12%のワイン100mlそれぞれが1ユニットに当たります(下記の表参照)。同じ体重の男性と女性が同じ量のアルコールを摂取した場合、女性のほうが体内の臓器により多くのアルコールを吸収します。そのため、目安量は、女性(週あたり14ユニット)のほうが男性(週あたり21ユニット)よりも少なくなります。
若者はどうですか?
英国の若者が飲酒するのは、楽しみや解放感、積極的に人と交流したり、性的刺激を得るため、あるいは、周りの友達が飲酒をするからです。 15~16歳の若者の約3分の1が、月に3回またはそれ以上、暴飲します。これは、ヨーロッパのほとんどの国よりも高い割合です。アルコールは、若者に対しても、大人に対するのと同じように、気分を憂うつにさせる作用があります。若い自殺者の約3分の1が死ぬ前に飲酒しており、10代の少年の自殺増加の原因は飲酒の増加によるようです。高齢者はどうですか?
年を取るにつれ、筋肉量が減り、脂肪がつく傾向にあります。アルコールは脂肪では吸収されず、脂肪のない体組織に蓄積されます。したがって、同じ体重の若者と比べ、高齢者では、脳や筋肉、肝臓などの、脂肪のない極めて重要な器官に多くのアルコールが蓄積されます。つまり高齢者に対しての方が、アルコールの及ぼす影響が大きいのです。暴飲とは
一般的な飲酒の目安量は、一週間に禁酒日を最低2日もうけ、それ以外の日に平均的に飲んだ場合の量です。一晩でお酒をたくさん飲んでも、他の日に飲む量を制限すれば、一週間の飲酒量は「許容範囲」に留まります。日常的に飲んでいれば、脳細胞が壊れていきますが、現在では、ほんの数日飲み過ぎただけでも、同じぐらいの損傷が起こることが分かっています。- 一日あたりの飲酒量が、男性で8ユニット、女性で6ユニット以上の場合、暴飲とされます。
- 一日あたりの飲酒量が、男性では3-4ユニット、女性では2-3ユニットを超えないのが最善です。
暴飲は、中年男性の早死とうつに関係しているようです。
飲酒量(ユニット数)の目安
下の表は、様々な種類の飲料に含まれるアルコール量をユニット数で示したものです。
英国では、アルコール濃度(ABV: Alcohol By Volume)が1.2%以上のアルコール飲料を販売する場合、アルコール濃度の表示が義務づけられています。パーセント数が高いほど、アルコールの含有量が多くなります。通常、パブ(訳注:居酒屋)で出されるアルコールの量は、自宅で自分で測る量よりも少ない傾向があります。アルコールのブランドや、グラスの大きさによって含まれるアルコールの量は変わります。
ビール、サイダー、アルコール入り炭酸飲料 | アルコール濃度 (ABV) | 半パイント | 1パイント | ビンまたは缶 (330ml) | ビンまたは缶 (500ml) | ビン (1L) |
---|---|---|---|---|---|---|
低濃度ビール・ラガー・サイダー | 3~4% | 1 | 2 | 1.5 | 2 | - |
普通濃度ビール・ラガー・サイダー 例:ステラ、バドワイザー、クローネンブルグ、ストロンボー | 5% | 1.5 | 3 | 1.7 | 2.5 | - |
高濃度ビール・ラガー・サイダー 例:スペシャルブリュー、ダイヤモンドホワイト、テナンツ・エクストラ | 7.5~9% | 2.5 | 5 | 3 | 4.5 | 7.5 ~ 9 |
アルコール入り炭酸飲料 例:バカルディ−・ブリーザー、スミノフ・アイス、リーフ、アーチャーズ・フーチ | 5% | - | - | 1.7 | - | - |
ワイン、蒸留酒 | アルコール濃度 (ABV) | パブでの目安 | ワイングラス小 (125 ml) | ワイングラス大 (250 ml) | ビン(750ml) |
---|---|---|---|---|---|
テーブルワイン | 12~14% | 1.5 ~2 | 1.5 ~1.8 | 3 ~3.5 | 9 ~10.5 |
強化ワイン(シェリー酒、マルティーニ、ポートワイン) | 15~20% | 0.8 ~1 | 14 | ||
蒸留酒(ウィスキー、ウォッカ、ジン) | 40% | 1 | 30 | ||
カクテル | 様々 | 2~5 ユニット |
どれくらい飲んでいるのでしょうか?
私たちの多くは、それほど飲んでいないと思うようです。普段は、ユニットなど意識していないでしょう。実際にどれくらい飲んでいるのかを確認するために、一週間の飲酒量を記録してみましょう。そうすることで、実際の飲酒量をより明確に把握できます。また、いつもより飲み過ぎてしまう時間帯や場所、飲み仲間など、危ない状況を見極めることもできます。飲酒日誌用の表
曜日 | 飲んだ量 | いつ | どこで | 誰と一緒に | ユニット数 | ユニット数の合計 |
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月曜 | ||||||
火曜 | ||||||
水曜 | ||||||
木曜 | ||||||
金曜 | ||||||
土曜 | ||||||
日曜 | ||||||
1週間計 |
警告サイン
- 怒りやイラつき、心配やうつに対処するために飲むことがよくある。
- 自信をつけるために飲むことがある。
- しょっちゅう二日酔いになる。
- 飲酒が人間関係に影響する。
- 飲酒によって、うんざりしたり、怒ったり、また自殺したい気分になる。
- どれだけ飲んだか、友人や家族に隠す。
- お酒が入ると、悲観的になったり、敵意を表したり、攻撃的になると、他の人から言われる。
- かなり飲まないと、気持ちよくなれなくなってきている。
- 他のことを止めてまでも、飲むことに時間をかける。
- 飲酒した翌朝、体が震えたり不安になったりする。
- さらにそういった症状を静めるために、お酒を飲む。
- 早い時間から飲み始める。
- 周囲の人に恥ずかしい思いをさせたり、不快にさせたりする。
飲み過ぎているとしたらどうすべきでしょう?
- お酒の量を減らすために目標を設定する。
- 飲酒日誌を参考に、飲酒しがちな状況を避ける。
- アルコール濃度4%のビールや10%のワインのような、おいしさはそのままでも濃度の低いものを飲む。
- お酒を飲むのではなく、代わりに取り組めることを見つける。
- 配偶者(パートナー)や友人にサポートしてもらう。あなたの目標を一緒に決めて、進歩を見守ってもらう。
- かかりつけ医に相談する。多くの人は、こういった簡単な一歩で、飲酒を減らすことができます。
- 注意:もしあなたが大量飲酒を続けている場合、急に飲酒をやめないようにしましょう。かかりつけ医に相談してください。
一度で、何の問題もなくぱったりお酒を止められる人もいます。あるいは、お酒が飲みたくてどうしようもない感じ、体が震えや落ち着かないなど、離脱症状が出ることもあります。もしこれらの症状が出た場合、かかりつけ医に相談しましょう。
うつを軽減させ、飲酒をやめる
うつの軽減
うつの症状があってお酒を飲んでいる人の多くが、お酒を断つことで数週間のうちに気分が良くなると知られています。ですから、通常は、まず先にお酒の飲み方を見直すとよいでしょう。もしお酒を止めて2-3週間しても気分が良くならなければ、うつの治療に目を向けるべきでしょう。数週間禁酒すると、より健康で、気持ちが晴れてくるものです。友人や家族は、あなたと接しやすいと感じるかもしれません。もしあなたの気分が軽くなったとしたら、うつの症状は飲酒によるものと言えます。
もし、お酒を止めて4週間経っても憂うつなままなら、かかりつけ医に相談しましょう。あなたの気分の落ち込みがが、日常生活の思わぬ局面からくるのであれば、あなたの気持ちを話すことが有効かもしれません。主な原因としては、人間関係や失業、離婚、死別や喪失などです。カウンセリングも助けになるでしょう。
もしうつの症状が重く、とてもつらい場合、かかりつけ医は、「認知療法」という対話療法や抗うつ剤の服用を勧めるでしょう。どちらの治療にせよ、数か月はお酒を減らすか飲むのをやめて治療しなくてはなりません。アルコール依存を軽減する治療薬もいくらかありますが、大抵の場合、効果がないようです。なお、これらはアルコール問題の専門家によって処方されています。
お酒を止める
もしあなたがお酒を止められるか、量を減らせるか心配か、またはどうしても止められないならば、アルコール問題の専門家に相談するといいでしょう。かかりつけ医は地元のサービスについて教えてくれるので、自分から行ってみてもいいですし、かかりつけ医に紹介してもらうのもいいでしょう。アルコール問題とうつに治療は効果的です。特に、かかりつけ医やカウンセラー、アルコール専門のサポート・ワーカー、アルコール問題を専門とする精神科医など、信頼できる人と定期的に面談できればなおさらです。習慣やライフ・スタイルを変えるのは容易ではなく、時間がかかるものです。
安全に飲酒するために
- がぶ飲みをせず、ゆっくり飲む。
- ノン・アルコール飲料と交互に飲む。
- 空腹時に飲酒しない。まず何かを食べてからにする。
- 毎日お酒を飲まない。週に2~3日は飲まない日にする。
- アルコール濃度の低い飲料や、ノン・アルコール飲料を代わりに飲む。
- バーやレストランでは、大きなグラス・ワイン(250ml)は飲まない。
- パーティーを開く時には、人の気を引くようなノン・アルコール飲料も一緒に用意する。
- 薬を処方されている場合は、医師や薬剤師に、飲酒していても大丈夫か尋ねる。
- 数週間ごとに飲酒日誌をみて、自分の飲み方をチェックする。
- 自分で決めた一週間の飲酒量を守る。
- 暴飲しない。繰り返しになりますが、飲酒日誌をつけましょう。
サポートを受けるには
もしあなたがお酒を止められない、または安全なレベルに留められない場合は下記からサポートを受けることができます:- かかりつけ医
- ターニングポイントやアダクションなどの、アルコール問題専門のボランティア・グループ
- NHSにおけるアルコール問題を専門とするサービス。かかりつけ医は、これらのサービスの利用法を知っています。
- アルコーリックス・アノニマス(Alcoholics Anonymous; AA)、または、アラノン(AlAnon)などの自助グループ
参考文献
- Davidson K.M. (1995) Diagnosis of depression in alcohol dependence: changes in prevalence with drinking status. British Journal of Psychiatry 166: 199-204.
- The NHS Information Centre Lifestyle Statistics: Statistics on alcohol: England, 2012. The Health and Social Care Information Centre: London
- Department of Health (2012) Alcohol needs research assessment project (ANARP). The 2004 national alcohol needs assessment for England, Department of Health: London.
- Mcintosh C. & Ritson B. (2001) Treating depression in substance misuse. Advances in Psychiatric Treatment vol 7, 357-364
- Raistrick D. (1996) Management of alcohol misuse within the context of general psychiatry,Advances in Psychiatric Treatment 2:125-132
- Raistrick D, Heather N and Godfrey C (2006) Review of the effectiveness of treatment for alcohol problems. National Treatment Agency, London.
- Treating depression in alcohol misuse (2008) Drugs & Therapeutics Bulletin, 46: 11-14.
サポートを提供している機関
Al-Anon Family Groups UK and Eire(英国およびアイルランド、アラノン ファミリーグループ):他人の飲酒によって人生に影響を受けている人、または受けたことがある人を理解し、励ましや希望を与える活動しています。この団体は、アルコール依存症の人を持つ家族や友人からなり、それぞれの経験や精神的な強さ、希望を分かち合うことで、皆に共通する問題に取り組んでいますWe are with you:薬物およびアルコール依存症の治療を専門とするボランティア団体です。無料で個人の秘密厳守のサービスを提供しています。
アルコリックス・アノニマス(Alcoholics Anonymous):英国AAミーティングに関しての詳細は、直接団体に確認してください。ウェブサイトには質問表があり、個々のケースにとってAAがふさわしい団体かが分かります。また、AAとアルコール依存症についての「よくある質問」のコーナーもあります。
www.alcoholics-anonymous.org.uk
電話: 0800 917 7650. Eメール: help@alcoholics-anonymous.org.uk
Alcohol Concern:アルコールの乱用に関する全国的な団体で、アルコールがからむ犯罪の防止や損傷のコスト削減を訴えたり、アルコールに関連した問題を抱えた人々が利用できるサービスの質と幅を向上させることを目的にしています。
Alcohol –know your units
アルコール-飲酒量(ユニット数)を把握しましょう
Drinkline – National Alcohol Helpline:電話番号: 0800 917 8282
アルコール問題を抱えている人やその家族・友人に対し、電話のヘルプ・ラインにより相談を受けています。どこでサポートを受けられるかのアドバイスもしています。
NHS Choices:アルコールについての情報が掲載されています。ユニット計算機やiPhone用のアプリケーションもあります。
Turning Point:全国的に、医療・社会福祉のサービス、飲酒の問題を持つ人の友人や家族のための情報やアドバイスを提供しています。
電話番号:020 7481 7600
Translated by Ayako Tsutsumi, Akiko Tatsuta and Dr Nozomi Akanuma. June 2013
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