双極性障害の薬物療法

Medications for Bipolar Disorder

このリーフレットのねらい

このリーフレットは、生活に支障を来すほど大きな気分の変動を落ち着かせたり、を安定させたりするための薬物治療について知りたい人に向けて書かれています。ここでは、双極性障害の躁状態の治療に使われる薬はどのように作用するか、なぜ処方されるか、それらの効果と副作用、および代わりになる治療法のいくつかについて説明します。

 

躁病とは?

躁病にかかると、あなたは気分が高揚し何でもできそうな気がし、活力に満ちあふれ、「世界の頂点にいる」かのように感じるでしょう。あまり眠らず、ひじょうに早口でしゃべり、普段のあなたらしくなく、衝動的に何かをしてしまうかもしれません。

双極性障害では、気分の振れが見られ、気分が高揚した躁状態と気分が落ち込むうつ状態とが、別々の時期に起こります。

気分の振れは非常に不快で、生活にさまざまな支障が来しかねません。病状が重くなる前に、早目に治療を始めることが重要です。より詳しい情報は、双極性障害のリーフレットをご覧ください。

躁病は再発を繰り返すことがあります。多くの医師は、再発を防ぐために服薬することを勧めます。薬剤は躁病エピソード(訳注:症状が始まってから収まるまでの期間を病相期、またはエピソードと呼びます)が始まってからの治療にも、躁病エピソードが始まる前の再発予防にも使われます。

 

躁病エピソードの治療躁病エピソードの予防
気分安定剤 
リチウム
バルプロ酸
リチウム
バルプロ酸
カルバマゼピン
オランザピン
抗精神病薬 
非定型:オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、Asenapine(日本では未承認)
定型:クロルプロマジン、ハロペリドール
たいてい、抗精神病薬単独ではなく、気分安定剤と一緒に使われます。

ベンゾジアゼピン系薬剤

 
ジアゼパム
ロラゼパム
クロナゼパム
 

気分安定剤

リチウム

リチウムは40年間にわたって、躁病の再発防止の目的で最もよく使われている薬です。

 

どのようにして作用するのですか?

よくわかっていませんが、リチウムは脳内の化学物質による情報伝達に働きかけ、脳細胞がストレスにより対抗できるようにするようです。

 

どのような効果があるのですか?

うつ状態と躁状態の両方向の気分の振れ幅を「ならして小さくする」効果があります。

 

どのように服用するのですか?

錠剤で1日1回か2回服用します。調子がよい状態が続いていても、リチウムの服用を続けることが重要です。急に中止すると、抑うつや躁状態が引き起こされる場合があります。

 

どのような副作用がありますか?

次のような副作用があります:

飲み始めて最初の数週間

  • 手の軽い震え
  • 口の渇き
  • 口内に金属味を感じる
  • 疲労感

 

その後

  • 体重増加
  • のどの渇き
  • 排尿頻度の増加
  • 甲状腺機能の低下

誰もが上に述べた副作用を経験するわけではありません。もしどれかが起きた場合は、これらの副作用のほとんどは、体がリチウムに慣れるにしたがって消失することを心に留めておくとよいでしょう。

 

リチウムは危険な薬ですか?

いいえ-リチウムは正しい用量を服用すれば安全な薬剤です。しかし、安全な用量をさほど大きく超えなくても、安全でなくなります。正しい用量であることを確認するには、血液中のリチウム濃度を測定するのが一番良い方法です。

以下の徴候がある場合は、リチウム濃度が高すぎるのかもしれません。次のような症状に気がついたら、すぐに医師に相談してください:

  • 非常にのどが渇く
  • ひどい下痢や嘔吐
  • 手足の明らかな震え
  • 筋肉のぴくつき
  • ぼんやりしたり混乱する

 

リチウム服用中の注意事項

リチウムは腎臓から尿中を通じて体外に排出されます。そのため、体の中の水分が失われると、血液中のリチウム濃度は容易に変化します。水分を摂らずにいて水分摂取量が減ったり、発汗や尿量が多くなり水分の排出量が増えたりすると、体内のリチウム濃度は高くなります。

体がリチウムを尿中に排出する能力は、血液中の塩分量と関係しています。体内の塩分が少ないとリチウムは尿中に排出されにくくなり、リチウムの血中濃度は上がります。

他の薬物、薬剤の中には、医師に処方されたものであれ、薬局で処方箋なしで入手したものであれ、リチウムの作用に干渉するものがあります。どこから入手したかにかかわらず、新しい薬を飲み始める前に、医師や薬剤師に相談してください。

上記のことを頭におき、リチウム服用中は次のようなことに留意しましょう:

  • 非アルコール性の飲み物をたくさん飲んでください。ダイエット飲料は体重増加を抑えるのに役立ちます。
  • 休暇で暑い気候のところにいる場合は、ふだんより多く水分を摂り、日の当たるところで長時間過ごさないようにしましょう。
  • 低塩ダイエットは避けてください。
  • 激しい運動をするときは注意しましょう。汗をかいて体の水分が少なくなったり、汗の中に塩分が出すぎたりします。
  • サウナには入らないでください。

 

血液検査

血液検査は以下のために必要です:

  • 体の中のリチウム量を測定する(上記参照)。
  • 腎臓と甲状腺が正常に働いていることを確認する。

血液検査は通常、リチウムを服用してから12時間後に行われます。

  • もしもリチウムを1日2回服用していて、検査が朝に行われる場合は、検査の日の朝はリチウムを服用しないでください。
  • 最初、検査は毎週あるいは2週ごとに行われます。血液中のリチウム濃度が安定したら、検査は3〜4カ月ごとになります。

 

バルプロ酸

バルプロ酸は、躁病治療のために広く使われるようになってきました。また、極端な気分の振れの再発予防にも使われます。最近の研究では、バルプロ酸とリチウムを組み合せると、それぞれを単独で用いる場合よりも効果があることがわかりました。

リチウム同様、その作用機序はわかっていません。

 

どのような副作用がありますか?

通常みられる副作用:

  • 眠気
  • めまい
  • 食欲亢進、体重増加
  • むかつき、吐き気
  • 皮膚の発疹
  • 血球数(血液の中にある細胞の数)の変化
  • 生理不順

非常にまれにみられる副作用:

  • 膵炎(1万例に1例未満):腹痛、吐き気、嘔吐
  • 肝不全(5万例に1例未満):脱力感、食欲不振、強いだるさ、眠気、時として繰り返す嘔吐と腹痛。もしこれらの症状のいずれかが見られた場合は、すぐに医療機関に相談してください。

血球数と肝機能の経過を観察するため、通常医師は、バルプロ酸による治療を開始する前と開始後最初の6か月間、血液検査をおこないます。

 

カルバマゼピン

カルバマゼピンは通常、リチウムが合わない人に対して使われます。「急速交代型(ラピッド・サイクリング)」と呼ばれる型の双極性障害をもつ人に対して良く効くという医師もいます。12ヶ月のうちに4回またそれ以上のうつまたは躁状態エピソードが生じる場合、急速交代型とされます。

 

どのような副作用がありますか?

通常、リチウムよりは副作用は少ないですが、よくみられる副作用には次のようなものがあります:

  • 疲労感またはめまい
  • 視野のかすみ
  • 吐き気
  • 胃痛
  • 下痢または便秘
  • 約10%の人に発疹がみられます。200人に1人の割合で緊急の治療を要する深刻な発疹が起こります。
  • 50人に1人は血球数に変化が起こりますが、深刻になることはまれです。これらの変化は治療開始時に起きる可能性が高いので、開始後しばらくは血液検査が行われます。もし発熱、のどの痛み、口の中の潰瘍、痣ができやすい、発疹(特に小さい紫色の点々の発疹)が見られた場合は、ただちに医師に相談してください。

 

抗精神病薬

抗精神病薬は、単独、もしくはリチウムやバルプロ酸と合わせて用いられます。躁病の際の過活動、精神病症状、攻撃性の治療に有用です。

抗精神病薬には2種類あります。古くから使われている「定型」抗精神病薬と、より新しい「非定型」抗精神病薬です。古い「定型」抗精神病薬のほうが、筋肉のこわばりや震えを引き起こしやすいです。近年は、「非定型」抗精神病薬がもっともよく使われています。

 

どのような副作用がありますか?

すべての抗精神病薬は眠気やめまいを生じることがあります。長期間服用すると体重が増えるかもしれません。以前から使われているハロペリドールのような「定型」抗精神病薬は、震えや筋肉のこわばりも引き起こします。

抗精神病薬は再発防止の目的で使われます。ただし、たいていは、ひとつの薬剤では効果が見られない時に、上記の気分安定剤の中のひとつと一緒に使われます。

 

ベンゾジアゼピン系薬剤

ベンゾジアゼピン系薬剤は通常、上記の薬剤に併用して数日間だけ使われます。これらはイライラ、過活動や睡眠不足といった症状の治療に用いられます。

 

どのような副作用がありますか?

  • 鎮静効果-興奮性を減らし気分を落ち着かせます。
  • 足元のふらつき

ベンゾジアゼピン系薬剤を数週間以上続けると、習慣性が生じる場合があります。

 

これらの薬剤はどの程度有効なのですか?

躁病の治療への有効性

リチウム、バルプロ酸、クエチアピン、リスペリドン、オランザピン、Asenapineはいずれも、躁状態の治療には同じくらい有効です。カルバマゼピンは使われてはいるものの、有効である証拠は他の薬に比べて少ないです。リチウムは、他の薬に比べて副作用が多く、より注意深い経過観察が必要なため、他の薬剤ほどは使われていません。

どの薬剤が使われても躁病エピソードの治療は簡単ではなく、回復するまでに数週間かかります。服用法を守って規則的に服薬することが重要です。

 

薬剤の選択

  • 急性期は、あなたの容態が良くなくて、どの薬剤を使うか決める際に深く関与できないかもしれません。
  • もし前に同じような状態になったことがある場合、医師はその際に有効であった薬剤を使います。
  • 容態が良い時に、もし再発した時にどの薬剤を希望するか、医師と相談して決めておくのは良いことです。

 

急性期を乗り切るために他に何をしたらいいでしょうか?

  • あなたは、ハイになっているときは、自分が容態は良くないということを信じないでしょう。
  • あなたがどんな状態にあるのか伝えてくれる、信頼できる家族か友人を持つことは大切です。
  • もしもあなたの治療を担当している専門家を信頼できないなら、なぜそうなのかを彼らに伝えてください。

 

躁病の予防への有効性

  • リチウムがおそらく最も有効です。30-40%の確率で再発を防ぎます。
  • バルプロ酸は単独では少し効果が劣り、リチウム単独ほどではありません。バルプロ酸とリチウムを併用すると、それぞれの薬を単独で用いる場合よりも効果が少し上がります。
  • カルバマゼピンはバルプロ酸より効果が劣ります。
  • 躁状態の時にオランザピンがよく効いた人には、オランザピンが躁病の再発防止に効果があります。ただし、リチウムを長期にわたって服用する場合よりもおそらく効果は劣ります。

 

薬剤の選択

  • 長期間の治療には、通常はリチウムが推奨されます。
  • もしも非常に速く再発する傾向がある場合は、カルバマゼピンが勧められる場合があります。
  • 複数の薬剤を併用する必要があることもあります。
  • 薬の選択はたいてい、あなたとある特定の薬剤との相性によります。ある人に合う薬剤が他の人には合わないこともあります。

 

授乳と妊娠

妊娠

  • これらの薬剤の中には胎児に影響があるものもあるため、治療をやめるリスクと継続するリスクについて医師と相談してください。
  • もしも予定外に妊娠した場合は、急に服薬をやめないでください。調子がひじょうに悪くなることがあります。

授乳

  • 多くの薬剤は、母親が服用している場合には母乳にも含まれますが、その濃度は様々です。医師と相談してください。

 

薬を服用しないとどうなるのでしょうか?

急性期:

躁病によって、あなた自身や周りの人に非常に大きな支障を来したり、深刻な結果を招いたりしかねません。家族を不安にさせたり、仕事を失ったり、借金をしたり警察とトラブルになることさえあるかもしれません。あなたの気分がもとに戻るまでには数週間から数か月かかり、その間、多くの大変なことが起こりえます。平均的には、躁病エピソードは治療を受けないと約6か月続きます。

予防期

躁病エピソードが起こるかどうか予測するには、これまでにどのくらい躁病エピソードが起きたかによるのが最も確かです。これまでにより多くのエピソードが起きているほど、今後も起きやすいということです。

人によっては、年を取るほど躁病エピソードが起きやすくなります。

一度躁病エピソードを経験したことがあれば、再発予防のための治療を考えるのは意味があることです。

人生上の大きな出来事やストレスにより再発する場合があります。もし心当たりがある場合は、カウンセリングや心理療法を受けることを考えてもよいでしょう。カウンセリングや心理療法は、ストレスにもっとうまく対応し、生活をより安定させる手助けとなります。

「ハイ状態」をコントロールするその他の方法

  • 他の症状の治療に使われる薬剤が躁病を引き起こす場合がありますので、服用している薬剤について医師と相談してください。
  • ハイになりかけていると感じた場合は、早目に相談してください。薬剤を調整したり、休養したりストレスを避けることで、本格的な再発が防げる場合があります。
  • 病気と治療法についてできる限り知ってください。
  • ハイになる前に警告の兆候(サイン)がある場合がよくあります。眠れないのは最も重要なサインの一つです。専門家、家族と一緒に、警告サインや引き金となりうる事柄のリストを作ると、再発を防ぐ手助けになります。
  • もしもストレスの中にあり、不眠のような早期の警告サインがある場合は、睡眠導入剤やオランザピンのような抗精神病薬を短期間服用することで、再発が防げる場合があります。

 

もっとよく知るには?

薬剤に添付されている説明書には、副作用がより詳しく記載されています。もし気がかりなことがあれば医師に相談してください。

「承認薬」とは何ですか?未承認薬は危険なのですか?

  • 英国では、医薬品はヨーロッパ医薬品評価局(European Agency for the Evaluation of Medicinal Products)により承認されます。医薬品が安全で患者の助けになると考えられる場合にのみ、承認されます。
  • 承認されていない場合は、ある病気の治療効果に関する研究が十分なされていないからかもしれません。これは必ずしも危険であることを意味するものではありません。
  • 医薬品が、承認を受けていない疾患の治療に用いられることはよくあります。例えば、ベンゾジアゼピン類は躁病の急性期の治療によく使われますが、この使用法は正式には承認されていません。

 

参考文献

The British Association for Psychopharmacology guidelines for treatment of bipolar disorder: a summary. Goodwin GM, Young AH. J Psychopharmacol. 2003 Dec;17(4 Suppl):3-6.

Bipolar disorder. Geddes J.Evid Based Ment Health. 2003 Nov;6(4):101-2.

NICE: Final Appraisal Determination: Olanzapine and valproate semisodium in the treatment of acute mania associated with bipolar I disorder.

役に立つ組織

Bipolar UK

電話番号:020 7931 6480(英国);メールアドレス: info@bipolaruk.org.uk
双極性障害をもつ人やその友人、介護者に支援、助言、情報を提供しています。

Bipolar Scotland

電話番号:0141 560 2050(スコットランド);メールアドレス:info@bipolarscotland.org.uk
双極性障害をもつ人やその介護をする人たちのために、情報、サポート、アドバイスを提供します。スコットランドにおいて、自助の推進を目指します。双極性障害について、またこの団体についての啓蒙・教育活動もしています。

Depression Alliance

電話番号:0845 123 23 20(英国);メールアドレス:information@depressionalliance.org
うつ病をもつ人と、彼らの助けになりたいと望んでいる家族のために、情報、支援および理解を提供しています。自助グループ、情報、およびうつ病に対する理解向上のための活動をしています。

Depression UK(旧名 the Fellowship of Depressives Anonymous)
メールアドレス:info@depressionuk.org
うつ病をもつ人およびその介護者を支援するための拠り所となるべく、運営されています。うつ病をもつ人たちの全国的な相互支援グループがあります。

AWARE

電話ヘルプライン: 1890 303 303(アイルランド)
うつ病をもつ人およびその家族を援助、支援するアイルランドの組織。サポートグループ、講演およびうつ病研究のほか、電話ヘルプラインも設置しています。

さらに詳しく知るためには

  • 双極性障害の医学的治療入門(Introduction to Medical Treatment for bipolar)
  • 双極性障害のリチウム療法(Lithium Treatment for Bipolar Disorder)

これらはBipolar UKが発行する患者情報リーフレットに載っています。

患者さんのための情報リーフレット


Translated by Tatsuo Miyauchi, Hisako Akanuma and Dr Nozomi Akanuma. August 2013.

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