外傷的出来事を理解し、克服する
Coping after a traumatic event
Below is a Japanese translation of our information resource on coping after a traumatic event. You can also view our other Japanese translations.
免責事項
外傷的出来事とは何ですか?
多くの人が、生涯を通じて外傷的出来事を経験します。英国では、成人の約3分の1が、生涯で少なくとも1回は外傷的出来事を経験したことがあると報告されています。
外傷的出来事には次のものが挙げられます。
- 誰かが死ぬところを見る、または自分は死ぬところだったと思う
- 重傷を負う、または
- 性暴力を経験する
外傷的出来事には、次のいずれかの形でさらされる可能性があります。
- 直接 – それが自分の身に起こった
- 目撃 – それが他者の身に起こったのを目撃した
- 認知 – それがとても身近な人の身に起こったことを知った
- 繰り返しさらされる – 自分自身が外傷的出来事に繰り返し遭遇したり、他人に影響している外傷的出来事に繰り返しさらされる。また、電子メディアやテレビ、映像、あるいは職場で目にした写真を通して外傷的出来事にさらされ、メンタルヘルスに困難をきたす人がいることも分かっています。
典型的な外傷的出来事には、次のものが挙げられます。
- 暴力による死を目撃する
- 交通事故などの重大な事故
- 身体的または性的暴行
- 重篤な健康問題または集中治療
- 難産の経験
- 生命に関わる病気の診断を受ける
- 戦争や紛争
- テロ攻撃
- 津波や火事などの自然災害または人為災害
ここで取り上げた以外にも、トラウマだと感じられる可能性のある出来事は膨大にあることを覚えておくことが大切です。ご自分の経験したことがここに取り上げられていないからといって、援助やサポートを求めてはいけないということではありません。
中には、業務中に外傷的出来事を経験する可能性が高い仕事もあります。そのような仕事には、以下のようなものがあります。
- 緊急サービスの職員(警察官、消防士、救急隊員など)
- ソーシャルワーカー
- 集中治療室スタッフ
- 軍関係者、その他紛争地域で働く人々
外傷的出来事の後はどのように感じますか?
外傷的出来事の後は、次のうちいくつかを経験するのが一般的です。
- 記憶、夢、フラッシュバック—起こったことについて苦悩を与える記憶が残ったり、夢または悪夢を見たりする可能性があります。また、その出来事が再び起こっているかのような経験をする場合もあります(これはフラッシュバックとして知られています)。
- 出来事を思い出すと動揺する—その出来事があった場所の近くや、その出来事を思い出させる環境にいる時に、特に動揺を感じる可能性があります。
- 感情や状況の回避 —その出来事に関連する記憶、思考、感情、物、人、場所を避けてしまう場合があります。
- 記憶の喪失—その出来事の一部を思い出せない場合があります。
- つらい気持ち—これには次のものが挙げられます。
- 自分、他者、または世界に対して否定的に感じる
- 起こったことで自分や他者を責める
- 恐れ、恐怖、怒り、罪、恥などの否定的な感情
- 幸福、満足、他者への愛情を感じられなくなる
- 行動の変化—これには次のものが挙げられます。
- かつて楽しんでいたことをしなくなる、または興味が持てなくなる
- 他者から切り離されたように感じる
- 無謀、あるいは自己破壊的な行動を取る
- 人や物に対して腹を立てたり、攻撃的になる
- 過度に用心深くなるか、「身構える」
これらは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の人が発症する可能性があるのと同じ症状です。しかし、外傷的出来事を経験した人のすべてが心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症するわけではありません。実際には、外傷的出来事を経験した人の大半は、悪影響が時間とともに消失することに気づきます。
これらの感情が消えるまでにどのくらいの時間がかかりますか?
外傷的出来事から回復するまでには2~3日から数週間、あるいは数か月を要する場合があります。
1か月が過ぎて、まだ何らかの苦悩を感じてはいるものの、それらの感情が徐々に改善しているのなら、回復に向かっていると考えられますので、治療の必要はありません。
しかし、1か月が経過しても大きな苦悩がまったく改善されない場合は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症している可能性があります。
外傷的出来事を経験したら、どうすればよいでしょうか?
外傷的出来事を経験した後は、以下を試したり、実行してください。
自分に時間を与える
外傷的出来事からの回復には時間がかかる場合があります。起こったことを受け入れ、耐えていくことを学ぶには、しばらく時間がかかるかもしれません。もしも誰かが亡くなったり、自分にとって大切なものを失ったとしたら、きちんと悲しむ必要もあるかもしれません。すぐに気分を改善させようとして、自分にプレッシャーをかけないようにしましょう。
出来事について話す
外傷的出来事の後は、その出来事を思い出させることを避けたり、何が起こったのかを話すのを避けたくなるかもしれません。しかし、研究では、出来事や自分の感情について話すことは回復力を高めるのに役立つことが判明しています。思い出さないようにしたり、感じないようにしていると、気分がさらに悪化することが分かっています。
自分と同じ体験をした人たちと話す
自分と同じ外傷的出来事を経験した人たち、または似たような経験を持つ人たちと話すことが役に立つ場合があります。しかし、人間は同じ出来事に対して、違う形で回復したり、反応したりします。自分の回復と他人の回復を比較しないようにしましょう。出来事に動揺している他の人々を自分がサポートできると感じられれば、そうすることも有効でしょう。
支援を求める
友人、家族、またはあなたが信頼するその他の人々に支援を求めることは、外傷的出来事のより良い理解と克服に役立つでしょう。精神的な支えになってもらうだけでなく、実際的なタスクを手伝ってもらったり、「普通の」ことをして共に時間を過ごしてもらうだけでも良いのです。
長時間1人でいないようにする
他の人たちといると、外傷的出来事の後にメンタルヘルスの悪化を経験する可能性が低くなることが分かっています。それができなくても、もし一人暮らしであれば、外傷的出来事の後に家族や親しい友人のもとに移り住むことを検討してもよいでしょう。それが無理でも、身近な人と過ごす時間を増やしたり、電話やビデオ通話を通じて、そうした人たちとのコンタクトを保つようにしましょう。
ルーティンを守る
たとえ難しく感じられても、外傷的出来事が起こる前のルーティンをできるだけ守るようにしましょう。出来事の後は、食事や体を動かす習慣が変化したり、なかなか眠りにつけなくなったことに気づくかもしません。規則正しく食事をとり、体を動かして、十分な睡眠を心がけてください。よく睡眠をとることについては、私たちの資料にも情報がありますのでご覧ください。
専門家に助けを求める
悩んでいる時は、一般開業医(GP)に話すことが有効な場合があります。一般的には、外傷的出来事から最初の1か月は、深刻な症状のためにかかりつけの一般開業医(GP)が推奨する場合を除き、専門家にメンタルヘルスの支援を求めることは有効ではありません。
自分の気持ちに気付く
外傷的出来事が起こってから最初の数か月は、時間の経過とともに自分がどのように感じているかに注意を払うとよいでしょう。自分が回復していると感じられない場合や、悪化し始めていると感じた場合は、かかりつけの一般開業医(GP)に相談してください。
雇用主に支援を求める
外傷的出来事を仕事の一環として経験した場合は、職場に適切な援助を行うための支援制度がある場合があります。仕事以外で外傷的出来事を経験した場合でも、雇用主から支援を受けられるよう、そのことを知らせておくとよいでしょう。これは、単に何が起こったのかを話して、自分がどう感じているかを知ってもらうだけでもよいのです。これ以上トラウマや強いストレスにさらされないようにする、あるいは勤務時間を調整するなど、働き方を調整してもらうよう求めることができます。詳しくは、この資料の雇用主の項目をご覧ください。
身を守る
外傷的出来事の後は、事故に遭う可能性が高くなります。家にいる時や運転中は注意しましょう。外傷的出来事の後に、それに対処するための手段として、アルコール や違法薬物を使うのはやめましょう。短期的には気分が楽になるかもしれませんが、長期的にそれらが回復に役立つことはありません。
出来事に関する過剰なメディア消費を避ける
外傷的出来事を経験した後は、ソーシャルメディアやニュースで、その出来事に関する事柄を見たり、読んだりしたいという誘惑にかられることがあります。特に、テロ攻撃や自然災害のような注目度の高い出来事の場合はそうです。しかし、その出来事について、多くのメディアを観たり、聞いたり、読んだりするのを避けるに越したことはありません。特に、そうすることでつらい気持ちになるならば、なおさらです。
専門家の助けはいつ受けるべきでしょうか?
外傷的(トラウマ)体験に対処する方法は人それぞれです。家族、友人、職場からの支援によって外傷的出来事から回復することがよくあります。
外傷的出来事から回復しても、おそらくそのことを忘れることはないでしょう。依然としてその出来事に対して否定的な感情を持ったり、時折そのことを思い出しては動揺することもあるかもしれません。しかし、そうした感情に押し潰されてしまったり、生活を楽しめなくなるべきではないのです。
次のような時は、かかりつけの一般開業医(GP)に相談してください。
- 症状が非常に重く、しかも
- 改善する様子が見られないとき
1か月を経過しても症状が非常に重く、生活に大きな影響がある場合は、かかりつけの一般開業医(GP)を受診してください。
症状はそれほど重くはないものの、3か月以上継続しているという場合も、かかりつけの一般開業医(GP)を受診してください。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)にかかったらどうなりますか?
外傷的出来事を経験した人の少数が心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症します。これは、重篤なメンタルヘルス疾患です。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)を持つ人は、初期の困難がより深刻で、つらい思いや気持ちが自然に消えることがありません。そのせいで、以前のように生活を送ることが困難になる場合があります。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状、原因、治療についての詳細は、PTSDリソースでご覧ください。
どのような専門家の助けが得られますか?
外傷的出来事を経験し、困難が続く場合は、かかりつけの一般開業医(GP)から、トラウマに対処する手助けをする専門家の紹介を受けられるでしょう。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療に役立つ治療法には、心理療法、トラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)、眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)などいくつかがあります。また、他の治療がうまくいかない場合に、抗うつ薬が処方されることもあります。
これらの治療法についての詳細は、PTSDリソースでご覧ください。
主治医は対処に有効な薬剤を処方してくれますか?
薬剤による治療は、トラウマを受けた後に有効な場合もありますが、その場合でも定期的に医師の診察を受けて、状態をチェックすることが重要です。
睡眠薬
外傷的出来事の後に眠れなくなった場合は、医師が睡眠薬を処方する場合があります。この処方はあくまで短期的なもので、永続的な解決策ではありません。
外傷的出来事の後に心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病のような症状が出た場合は、抗うつ薬など、他の薬剤が処方される場合もあります。心的外傷後ストレス障害(PTSD)に使用される薬剤や治療法の詳細は、PTSDリソースでご覧ください。
外傷的出来事を経験した人をどのように支援できますか?
トラウマになるようなことを経験した人を支援するには、次のようなことが役立ちます。
- そばにいる - その人と一緒に過ごす時間を作りましょう。相手があなたに会いたがっていなくても、気が変わった時のためにあなたがそこにいることを知らせることは有益です。相手に口うるさく言うべきではありませんが、サポートを受け入れるようさりげなく促すことは有効でしょう。
- 傾聴する — 相手が望まない場合は、無理に話を引き出さないようにしてください。相手が話したいと思うのであれば耳を傾けましょう。途中でさえぎったり、自分の経験を共有しようとはしないでください。
- 一般的な質問をする — 質問をする場合は、一般的な、批判的にならないような質問をするようにします。例えば、「他の人にこのことを話したことがありますか?」「何か特別なサポートを見つけるお手伝いをしましょうか?」と尋ねるとよいでしょう。
- 実際的な援助を提供する — 相手は、自分の身の回りの世話や日常生活に苦労している場合があります。掃除や食事の支度などを手伝ってあげましょう。
避けるようにしたい点
- 気持ちがわかると伝える — 同じような経験をしたことがあったとしても、人によって経験の仕方は大きく異なります。比較しても役立たない場合があります。
- 生きていて幸運だと言う — 外傷的出来事を経験した人は、幸運だと思っていないことが少なくありません。他の人が亡くなったのに、自分が生きていることに罪悪感を感じていることもよくあります。
- 経験を過小評価する — たとえ相手の気分を楽にするためであっても、もっと悪くなる可能性があったことを示唆するのは避けましょう。自分の経験したことが正当化されていないかのように感じてしまう可能性があります。
- 役に立たない提案をする — 過去に自分に効果があったものでも、提案をすることは避けてください。人は千差万別であり、あなたが提案することをすでに試している場合も多いでしょう。
協力的な雇用主になるにはどうすればよいですか?
外傷的出来事は、業務中に発生することもあります。すでに述べた通り、仕事には外傷的出来事を経験する可能性の高いものがあります。中には、仕事以外で外傷的出来事を経験する人もいますが、回復までの間、温かい職場環境が支えになるでしょう。
自社の従業員が外傷的出来事を経験した場合、次のような方法で彼らを支援できます。
- 起こったことについて話す — 業務中に外傷的出来事が起こった場合は、その出来事についてオープンに話すことが役立つ場合があります。また、従業員に対して、悩みがある時にどこで支援を受けることができるかを伝えることも有益です。
- 確かめる — 従業員に、調子はどうかと話をしてみましょう。それによって、各自に必要な支援を受けているかどうかが分かり、彼らの変化に気づくことができます。もし調子が思わしくなさそうな人がいる場合は、「大丈夫です」という答えを鵜呑みにしないでください。
- 協力的な雰囲気をつくる — チーム内の良好な関係づくりを奨励することで、職場の良好な雰囲気づくりを支援できます。ワークショップへの参加や、利用できる支援制度の活用をスタッフに奨励してもよいでしょう。
- 合理的な調整を行う — 従業員と話し、職場でどのような合理的な調整を行えば彼らの居心地がよくなるかを確認しましょう。これには、フレックスタイムや職場環境の小さな変更といったことが挙げられるかもしれません。何が有効かを自分で思い込むのではなく、常に何が必要かを相手に問いかけてください。
こうした行動のすべてが、従業員のウェルビーイングによい影響を与えます。
その他の支援
役に立つリンク
- UK Psychological Trauma Society — 一般の方や医療関係者向けに、心的外傷後ストレス反応について役立つ情報資料が紹介されています。
- Coping with stress following a major incident leaflet (PDF)、NHS(国民保健サービス)
- Overview of PTSD, NHS - 心的外傷後ストレス障害(PTSD)を網羅したNHS(国民保健サービス)の情報
- Overview of complex PTSD, NHS - 複雑性心的外傷後ストレス障害(PTSD)を網羅したNHS(国民保健サービス)の情報
- PTSD, Mind - 慈善団体Mindによる心的外傷後ストレス障害(PTSD)と複雑性心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関する情報
- 友人や家族のできることMind - この情報では、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ知人をどのように助けることができるかについて、アイデアを提供しています
- Useful contacts, Mind - このページには、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ人々に支援を提供する、その他の慈善団体や組織へのリンクがあります
- PTSD UK - 心的外傷後ストレス障害(PTSD)の認知度を高めることを目的とした英国の慈善団体
外傷的出来事を経験した人々を支援する慈善団体
- Cruse Bereavement Care - イングランド、ウェールズ、北アイルランドの遺族を支援する慈善団体
- Cruse Bereavement Care Scotland - スコットランドの遺族のウェルビーイングを促進する慈善団体
Rape Crisis - 英国全土で3つのレイプ・クライシスの慈善団体が人々に支援を提供しています。
被害者支援 - 犯罪やトラウマになるような事件の被害者に支援を提供する被害者支援慈善団体は英国全土で3つあります。
クレジット
この情報は英国王立精神医学院のパブリック・エンゲージメント編集委員会(PEEB)により制作されたものです。執筆時点での利用可能な最良のエビデンスを反映しています。
この資料に関するフィードバックをご提供いただいたPTSD UKに感謝申し上げます。
専門編集者: Neil Greenberg教授
ご要望に応じて、この資料のすべての参考文献をご利用になれます。
発行年月: 2021年11月
閲覧期限: 2024年11月
© Royal College of Psychiatrists
This translation was produced by CLEAR Global (Jul 2023)