アルコール、メンタルヘルスと脳
Alcohol, mental health and the brain
Below is a Japanese translation of our information resource on alcohol, mental health and the brain. You can also view our other Japanese translations.
免責事項
この資料ではアルコールに着目し、脳・メンタルヘルスとの関係を取り上げます。アルコールについて詳しく知りたい成人の方、自身や周りの人がアルコール依存症の方を対象としています。
この資料内容:
- アルコールとは何か
- 脳への影響
- メンタルヘルスへの影響
- アルコール依存
- アルコール関連脳損傷
- 適切な飲酒量を知る
- 飲酒量が多すぎる方への支援
アルコールとは
アルコール(「エタノール」や「エチルアルコール」ともいう)は、一度吸収されたら血管を通じて体内のあらゆる臓器に影響しうる物質です。
アルコールを含む飲み物を指して酒といいます。酒にはさまざまな種類があり、その作り方や他に含まれる成分もさまざまです。しかし一般的には次のいずれかに分類されることが多いです。
- ビール、サイダー
- ワイン
- スピリッツ(ウォッカ、ジン、ウイスキーなど)
酒の種類によってアルコールの「強さ」が異なります。つまり、酒の中には他より体への影響が大きいものがあります。
イギリスでは18歳以上の成人が酒の購入や飲酒を法律で認められています。一般的に、18歳未満の若者が飲酒するのは法律で禁止されています。アルコール関連の法律についてさらに知りたい場合は、政府のウェブサイトをご覧ください。
人々が飲酒をする理由
2021年イングランドでの調査によると、「週1回以上飲酒する」と回答したのは全体の半分に満たない人数でした。
飲酒する理由は人によって様々です。一部の人は、楽しむためやリラックスするために飲みます。人生における困難を酒の力で乗り越えるために飲む人もいます。
アルコールはさまざまな方法で人体に影響します。飲酒で体に悪影響が出ないよう、節度を守って楽しく飲む人もいます。一方で飲み過ぎないようにするのが難しかったり、飲酒時に問題行動をとる人もいます。
全く酒を飲まない人もいます。その理由はさまざまですが、一例を以下に記載します。
- 酔う感覚が好きではないため
- 味が好きではないため
- 飲むと気持ち悪さや強い眠気を感じるため
- 健康のため
- 宗教的な理由のため
単純に酒を飲むことを選択しない人もいます。
酒の強さの見分け方
酒類の強さを見分ける方法は2種類あります。
- 単位ー単位(units)は、飲酒量を把握しやすくするために開発されました。1単位に相当する量は国によって異なります。イギリスでは純アルコール10ml(または8g)が1単位にあたります。
- アルコール度数、またはABV - 酒の中に含まれる純アルコール量を示す数値です。
例
750mlまたは75clのワインを考えます。瓶に度数12%(12% ABV)と書いてあるため、瓶全体の12%分の純アルコールを含むことになります。これは1瓶で9単位に相当します。
一方で100mlまたは10clのウォッカ1瓶はおおむね度数40%であり、40単位に相当します。資料末尾の「アルコール単位の手引き」にて、酒の種類ごとの単位と度数をまとめた表を記載しています。
飲酒の「適量」とは
身体の仕組みは1人1人違うため、アルコールに「摂取しても安全な量」はありません。アルコールがあなたにどう作用するかを正確に予測することはできません。
体への悪影響を抑えるため、飲酒する方はアルコール摂取量を週14単位以内に抑えるよう奨励されています。相当する飲酒量は下記の通りです。
- 度数3%未満のビールを5パイント、または
- 度数12%のワインを小グラス(125ml)10杯
飲む単位数は週の中で分散させ、間に酒を飲まない日を数日設けましょう。
どんな方でも短時間での大量飲酒は避けてください。男性は1日8単位、女性は1日6単位を超えて飲んではいけません。
飲み過ぎを防ぐためには
飲酒量が多すぎると感じるようになり、量を自分でもっとコントロールしたい時は:
- どれだけ飲酒量を減らすかの目標を立てましょう。
- 一緒に過ごす人や環境を変え、もっと飲みたくなるような場面を避けましょう。
- 低アルコールまたはノンアルコールのビールやワインなど、弱い酒を飲みましょう。
- 飲酒しなくてもできることを考えましょう。
- パートナーや友人に話しましょう。一緒に目標を設定し、この資料末尾のアルコールトラッカーを使って達成具合を把握しましょう。
- かかりつけの一般開業医(GP)に相談しましょう。単純なステップですが、これを入れることで飲酒量を減らせる人も多いです。
飲酒量の目標は「具体的」「簡単に測定可能」「達成可能」「現実的」なものにし、いつまでに達成するかの「期限」を設定しましょう。目標を達成しやすくなります。
高齢者特有の問題
年齢を重ねるにつれて身体が変化し、アルコール分解速度が遅くなっていきます。したがって高齢者はアルコールの影響を受けやすくなります。
高齢者の飲酒がより高リスクな理由はいくつかあり、一例は下記の通りです。
- 健康問題 - 高齢者は他の健康問題を抱える可能性が高くなります。そのためアルコールの影響をより受けやすくなります。
- 転倒リスク - 年齢を重ねると、一般的に身体の反応速度やバランス感覚が低下します。飲酒すると体が不安定になりやすくなるため、高齢者の場合は飲酒時に転倒するリスクが高まります。
- 薬剤 - 高齢者によく処方される薬の中にはアルコールと相互作用を起こすものがあり、危険です。例えば血液をサラサラにする薬を服用している人が飲酒した場合、けがをした時の出血リスクが高まります。特定の抗生物質を服用中に飲酒した場合、とても気持ち悪くなる可能性があります。
- もの忘れ - もの忘れが増えたり認知症を発症することによって、飲酒量を忘れてしまう場合があります。その場合、気づかないうちに飲酒量を増やしてしまうかもしれません。
飲むか飲まないかはその人個人が判断することです。背景にはさまざまな要因が存在します。アルコールによる健康面への影響や薬との相互作用が心配な場合、かかりつけの一般開業医(GP)に相談しましょう。
アルコールが脳に影響する仕組み
アルコールは、脳内の化学物質である「神経伝達物質」の働きに影響します。アルコールの影響を受ける主な神経伝達物質はGABAとグルタミン酸です。これらは正反対に作用します。
- GABAは脳と体を「落ち着かせ」ます。アルコールはGABAの作用を強めるため、少量の飲酒なら気分の落ち着きや不安を感じなくなる効果があります。
- グルタミン酸は脳と体を「刺激」します。アルコールはグルタミン酸の作用を弱めるため、飲酒すると意識がぼんやりしてきます。
また、アルコールは脳が適切に働くうえで必要なビタミンや体に必要な栄養素(チアミンやマグネシウムなど)の吸収能力を弱めます。
アルコールがメンタルヘルスにもたらす影響
飲酒はさまざまな形でメンタルヘルスに悪影響を及ぼします。
- 飲酒の量が多かったり頻度が毎日の場合は、長期的に気分への悪影響が考えられます。詳しくはこの資料で後ほど説明します。
- メンタルヘルスで問題を抱えている、またはメンタルヘルス疾患と診断されている場合、飲酒すると体調が大きく悪化するおそれがあります。また飲酒によって自傷行為や自殺のリスクが上昇します。
- 既にメンタルヘルスの問題を抱えている場合、気分よくなるために飲むことがあるかもしれません。ただし、実際は正反対の効果が表れる場合があります。
アルコールがメンタルヘルスに影響する理由
アルコールがメンタルヘルスに悪影響を及ぼす理由はいくつかありますが、一例は次の通りです。
- 脳機能 - アルコールは脳の機能に影響を与え、抑うつ、パニック障害、衝動的な行動のリスクを高めます。
- 二日酔い - 二日酔い状態では気持ち悪さ、不安、イライラを感じることがあります。これが常に続くようだとメンタルヘルスに悪影響を及ぼします。
- 生活上の困難 - 飲酒で問題を抱えると生活がより困難になります。飲酒は人間関係、仕事、性生活に影響を及ぼすおそれがあります。
減酒・断酒をすればメンタルヘルスが良くなるか
一般的に、飲酒量を減らすか飲酒をやめるとメンタルヘルスの向上につながります。飲酒で気持ちが落ち込むようなら、断酒を数週間続けると精神的にも身体的にも調子が良くなり始める可能性があります。しかしながら、アルコールとメンタルヘルスは複雑に関係しています。トラウマを経験し、断酒できるように背後にある困難への支援を必要とする人には特にです。
断酒するのに困難だったことがある、またはアルコールでメンタルヘルスが悪化する場合、かかりつけの一般開業医(GP)に相談しましょう。あなたがメンタルヘルスの問題を抱える理由が他にも存在し、より踏み込んだ支援を要するかもしれません。例として心理療法や服薬などです。
メンタルヘルス疾患を抱えていても飲酒は可能か
すでにメンタルヘルス疾患を抱えている場合、または現在飲酒していないがメンタルヘルスの問題に直面している場合の最善策は「アルコールに手を出さない」ことです。メンタルヘルス疾患を抱える人が飲酒すると気分に悪影響を及ぼし体調を悪化させるおそれがあります。特定の薬と相互作用を起こすおそれもあります。
メンタルヘルスの問題を抱えている、またはメンタルヘルス疾患と診断されたている場合、考えられる飲酒の影響についてかかりつけの一般開業医(GP)に相談しましょう。特定の薬を服用中の場合は飲酒を控えるように言われるかもしれません。
飲酒による短期的な影響
アルコールが良い影響をもたらすこともあります。少量の飲酒なら下記のように感じるかもしれません。
- 楽しい
- 落ち着く
- 饒舌になる
- 自信を持てる
なお、飲酒により下記のような恥ずかしい、または危険な状態になるおそれがあります。
- 眠気を感じる
- 動作がぎこちなくなる
- ろれつが回らない
飲酒量が増えるほど自制心や判断力が低下します。次のような言動が見受けられます。
- 普段はしない行動をとる
- 普段はしない発言をする
- 危険、または無謀な行動をとる
- 飲んでいる間の記憶をなくす
- 翌日に二日酔いになる
アルコールはさまざまな方法で人体に影響します。頻繁に飲まない、または大量に飲まない人でも経験する場合があります。
二日酔い
二日酔いは、飲酒していたのをやめて体内のアルコールが減少することで起こります。飲酒をやめて数時間後から起こる可能性がありますが、朝起きるまで気づかないかもしれません。二日酔いでは次のような症状が出ることがあります。
- 頭が痛い
- 気分が悪い
- よく眠れない
- 怒りっぽくなったり不安になる
このような感覚は、アルコールやアルコール飲料に含まれるその他の化学物質が脱水症状を引き起こし、血糖値を低下させるために起こります。
二日酔いを完全に取り除く方法はありません。もっとも、体調が適切に回復するまでは、水を飲むべきで、迎え酒をすべきではありません。
酒を飲んで二日酔いにならないのは、必ずしも良いことだとは言えません。二日酔いにならないのは、体が大量の飲酒に慣れたことや、アルコール依存症になっている可能性を指すこともあります。
記憶喪失(ブラックアウト)
短い時間に大量に酒を飲んだ結果、飲酒中に何が起こったかを思い出せなくなることがあります。何を言って何をしたか、あるいはどこにいたかさえ覚えていないこともあります。記憶を失っている間に、あとから後悔したり、危険な状況に陥ることになったり、他の人に危害を加えられるようなことをしているかもしれません。
記憶喪失は、脳が新しい記憶を作るはたらきをアルコールが阻害することで発生します。記憶喪失は飲みすぎを示す警告です。記憶喪失はまた、アルコールが脳を損傷させていることや、アルコール依存症の可能性を伝える、早期段階の警告でもあります。
アルコール中毒
アルコール中毒は、身体に危険を及ぼすほど多量のアルコールを飲んだときにおこります。アルコール中毒になると、呼吸が緩慢になり、意識を失ったり興奮したりして、命に関わることがあります。
NHS(国民保健サービス)のウェブサイトには、あなたやあなたの知人のアルコール中毒の可能性を示す兆候のリストがあります。
あなたもしくは知人がアルコール中毒であると思ったら直ちに999番に電話してください。
飲酒による長期的な影響
アルコールと身体
大量のアルコールを飲んだり、長期間頻繁に飲んだりすると、以下のリスクが高くなります:
- 身体的損傷
- 高血圧
- 心不全
- 脳卒中
- 膵炎 - 膵臓が炎症を起こして損傷を受けること
- 肝疾患 - アルコール性肝疾患が段階的に起こります。肝臓が永久的に損傷し、線維化する可能性があります
- 肝臓、口、頭と首、胸、腸などの癌
- インポテンツや早漏といった性機能障害
- 不妊
- 脳の損傷 - 本資料のアルコール関連脳損傷のセクションを参照下さい
アルコール依存
アルコールへの依存は、アルコール依存症として知られています。アルコールに依存することを「アル中」と呼ぶことがあります。このような言葉をスティグマのように感じる人もいます。
英国では成人のおよそ100人に1人はアルコールに依存しています。アルコールに依存していると、以下のような症状が出る場合があります。
- 飲酒への強い衝動がある
- 飲酒量をコントロールするのに苦労している
- 生活に悪影響があっても飲み続ける
一定量のアルコールを飲んだり、常に飲んでいたりしなくても、アルコール依存症になる可能性があります。
アルコール依存症の人たちの中には、以下のような身体症状が表れる人もいます。
- アルコールに対する耐性ができる - 大量のアルコールを定期的に飲んでいれば、時間と共にアルコールの好ましい効果への反応が鈍くなっていきます。かつて得ていた効果と同様のものを得ようと、より大量の、より強い酒を飲む必要が出てくるでしょう。これはアルコールに対して「耐性」がついたことをあらわしています。
- 離脱症状 - アルコールに依存すると、脳内のGABAとグルタミン酸の神経伝達物質間のバランスが変わります。つまり、断酒や減酒を突然行うと、脳が過剰反応するのです。これによって、気持ちが不安になったり、怒りっぽくなったり、体が震えたり汗をかいたりする場合があります。こういった症状を離脱症状といいます。
アルコール離脱症候群
アルコール離脱症候群は、長年大量の飲酒をしていた人が飲酒をやめた時に起こります。
通常、飲酒をやめてから1日~2日以内に始まり、最長3日続きます。
アルコール離脱症候群の人たちは、以下のような身体症状を経験します。
- 体の震え
- 気持ち悪さ
- よく眠れない
- 動悸
- 高血圧
- てんかん
更に、以下のような精神症状もあります。
- 恐怖
- 抑うつ
- 興奮
- 幻覚(そこにないものを見たり、感じたり、聞いたりすること)
アルコール離脱症候群は深刻な状態です。上記のような症状があれば、一般開業医(GP)や他の医療の専門家の助けを求めるべきです。
アルコール離脱症候群の治療方法
アルコール離脱症候群の治療方法は、重症度によって異なります。医学的治療なしに飲酒をやめられる人もいます。しかしながら、離脱症状が中程度か重度であれば、専門家の治療や助けが必要です。
アルコール離脱症候群は、ベンゾジアゼピンという薬で治療できます。アルコール離脱症候群であれば、ベンゾジアゼピンを数日、または離脱症状がおさまるまで投与されるでしょう。
そして、ベンゾジアゼピンの投与量は段階的に減らされます。ベンゾジアゼピンは長く摂取すると依存性があるからです。
アルコール離脱症候群の治療で入院しなければならない人たちもいるでしょう。
振戦せん妄
振戦せん妄(Delirium tremens、DTsとも呼ばれる)は、アルコール離脱に伴う重篤で危険な合併症です。「Delirium」は方向感覚を失った状態を言い、それはしばしば幻覚と妄想を伴います。「Tremens」は、アルコールを絶った時に起こる動揺や体の震えを表します。
振戦せん妄は医学的な緊急事態です。 振戦せん妄の人は、常に死の危険があります。振戦せん妄の症状がある人は、入院して即座に医療のサポートを受けるべきです。
振戦せん妄の症状
振戦せん妄の場合、アルコール離脱症候群の症状に加えて以下の症状があります。
- 自分の周りで起こっている出来事の理解に苦しんでいる
- 自分がどこにいるのか、なぜそこにいるのか、あるいは現在の時刻が分からない
- 小さな動物や昆虫、物音や人の声など、そこにないものを見たり聞いたりする
- 危険の只中にいるように感じる
- 怯えを感じ、あるいは攻撃的に行動する
振戦せん妄はとても危険で、次のようなことを引き起こす可能性があります。
- 脱水
- 化学的不均衡
- 心臓への負担
- 感染症への抵抗力の低下
振戦せん妄の治療方法
振戦せん妄を発症したら、入院が必要です。病院では、アルコール離脱症候群の深刻な症状を緩和する措置がなされます。これは通常はベンゾジアゼピンの投与です。
アルコール幻覚症
アルコール幻覚症とは、酔っていないか、突然断酒したわけではないにもかかわらず、物音、人の声や音楽が聞こえる状態を指します。これは、定期的に飲酒していて、アルコール依存の状態のときに起こります。これは振戦せん妄とは異なります。アルコール幻覚症は飲酒をやめた後でさえも続くことがあります。
アルコール関連脳損傷
アルコール関連脳損傷(ARBD)は、長期間にわたって日常的に大量の酒を飲むことでで発症します。
研究によると、アルコール依存症の人では10人に3人もがARBDに罹患する可能性があると示唆されています。
ARBDに関連した記憶や思考の変化は、次のような時に起こりやすいです。
- 女性の場合、5年以上にわたり週50単位以上の飲酒を続けていること
- 男性の場合、5年以上にわたり週60単位以上の飲酒を続けていること
ARBDは50歳代に最も多く見られますが、どの年齢層でも発症します。深酒をする女性は、記憶や思考の問題を男性よりも若くして抱える傾向があります。
アルコールによる脳への損傷
大量のアルコールを長い年月にわたって飲むと、脳の損傷につながる次のようなことがおきます。
- 神経細胞の損傷 - これは記憶の問題と行動の変化につながります。
- ビタミンの欠乏 - アルコールはビタミンB1や他の栄養素を吸収しにくくします。ビタミンB1が不十分だと脳細胞は損傷を受けます。大量の飲酒をすると適切に食べることを忘れがちになりますが、これは栄養素のさらなる欠乏につながります。
- 脳への血液供給 - 大量の飲酒をすると脳卒中のリスクが増えます。脳卒中は脳への血液供給に損傷を与えます。
- 頭部外傷 - 大量の飲酒をすると、頭を怪我する可能性が高くなります。これは脳への直接的な損傷を引き起こす可能性があります。
- 小脳の損傷 - 小脳は平衡感覚や歩行をつかさどる脳の部分で、飲酒の影響を大きく受けるため、転倒のリスクが増加します。
- 脳の萎縮 - 脳は年齢と共に小さくなり、委縮します。しかしながら、研究によると、大量の飲酒をすることでこの萎縮が進むことが判明しています。
アルコールによる脳への損傷を確認する方法
自身の脳がアルコールによる損傷を受けていると、次のような点に気付くことがあります。
- 怒りっぽくなる
- 注意力が散漫になり、自分の周りのものや自分の考えに気を取られる
- 自分の身の回りのことを適切にしなくなる
- ある期間の記憶がまったくないか、何をしたか覚えていない
- 抑制が効かなくなり、以下のようなことをしてしまう
- 不適切なことを言い、他人を困らせたり脅かしたりする
- 他者に対して、肉体的、情緒的、性的虐待を行なう
これらの変化は、行動や社会的相互作用を制御する脳の前頭葉に対してアルコールが及ぼす影響によって引き起こされます。
ARBDの種類
ARBDには次のものを含むさまざまな種類があります。
- ヴェルニッケ脳症
- コルサコフ症候群
- アルコール性認知症
ヴェルニッケ脳症
ヴェルニッケ脳症は、体内でビタミンB1が欠乏すると発症します。ヴェルニッケ脳症になると、以下の3つのうち1つ以上が突然発生する可能性があります。
- 混乱する(自分の居場所や時間がわからない)
- 足元がふらつく
- 目が激しく左右に動く(「眼球振とう」と呼ばれる)
ほとんどの人(80%)でこれら3つのうち混乱の兆候のみが見受けられます。
ヴェルニッケ脳症は命の危険がありますが、早期に処置すれば治療できます。ヴェルニッケ脳症の治療はビタミンB1の注射です。これは通常、病院では点滴で、家庭では注射で投与されます。
あなたもしくは知人がヴェルニッケ脳症の兆候を表したら直ちに999番に電話してください。
ヴェルニッケ脳症は数日続きます。残念ながら、見過ごされたり、酔っていると勘違いされたりすることがあります。ヴェルニッケ脳症の人を治療せず放置すると、一生続く記憶障害が残る可能性があります。この状態はコルサコフ症候群と呼ばれます。
コルサコフ症候群
コルサコフ症候群は、ヴェルニッケ脳症が治療せずに放置されると発症します。コルサコフ症候群を発症すると、次のような脳損傷の兆候が表れます。
- 人格変化
- 最近起こったことを思い出せない。読んだり、書いたり、集中することはまだできるかもしれません
- 新しいことを学ぶことが困難
- 発症以前に起こったことを思い出せない
- 「作話」 - 記憶のギャップを不正確な情報で埋めようとすること。例えば、違う場所での古い記憶を使うような例があります。他人の作話には気付けても、自身の作話に気付くことができません。
アルコール性認知症
認知症は、時の経過で悪化する、記憶障害や思考、人格の変化を指す総称です。認知症は高齢者に多くみられます。
アルコールは脳細胞を損傷するため、認知症を引き起こす可能性があります。アルコール性認知症は次のものを対象とする問題を引き起こします。
- 記憶
- 問題解決
- 人格の変化
他のタイプの認知症と異なり、アルコール性認知症で言語能力が失われることはありません。ただしこのために、他の人がアルコール性認知症の発症に気づくのが難しくなる可能性があります。アルコール性認知症の症状は、酔っていると勘違いされることがあります。例えば、やる気が落ちていたり、不適切な行動をしているように見られます。
ほとんどのタイプの認知症は時間の経過とともに悪化します。しかし、アルコールに性認知症の人が飲酒をやめると、問題の悪化が止まり、改善する可能性さえあります。
アルコール関連脳損傷から回復することはできますか?
軽度のARBDでは多くの場合、飲酒をやめたあとに記憶力や他の思考能力が大きく改善します。ただし、これには時間がかかることがあります。
より重度のARBD、特にコルサコフ症候群を患っている場合、飲酒をやめてから改善まで2、3年かかる可能性があります。ただし、深刻な問題が残り、長期的なケアが必要となる人もいます。
飲酒をやめたARBD患者は次のようになると想定されています。
- 4人に1人は完全に回復する
- 4人に2人はある程度回復するが、いくつかの問題が残る
- 4人に1人は深刻な問題を抱え続ける
年齢が高くなればなるほど、回復する可能性は低くなります。
ARBDを抱えていて、それが機能能力に影響を及ぼしている場合、給付金やその他の支援を請求できる可能性があります。福利厚生、金銭支援、債務に関するアドバイスについては、私たちのウェブサイトをご覧ください。
飲酒を止めるための支援が必要な場合
自身の飲酒量が心配で、断酒や安全な飲酒を行うための支援が必要な場合は、一般開業医(GP)に相談してください。次のような質問が行われます。
- 飲酒量
- 飲酒の頻度
- 飲酒歴
- 他に薬物使用障害があるかどうか
- その他の精神的または身体的な健康上の問題があるかどうか
これは、どのような支援が必要かを理解するのに役立ちます。
また、一般開業医(GP)の紹介がなくても、地域のアルコールサービスに参加することができます。Frankのウェブサイトで近隣のサービスをお探しください。
セルフヘルプ
一部の人は、専門家の助けがなくても、飲む量を減らしたり、飲むのを止めることができます。
現在は、自身に最適なサポートの発見に役立つ素晴らしいオンラインリソースが用意されています。また、一般開業医(GP)が、断酒や減酒の支援を行っている地域の組織や支援団体について教えてくれる可能性もあります。
アルコールに依存していて、自力での断酒に苦労している場合は、さらなるサポートが提供されることもあります。例えば、地域の依存症患者向けのサービスの紹介などがあります。
心理療法
次のような心理療法が案内されるかもしれません。
- 認知行動療法(CBT)
- 社会行動とネットワーク療法
- さらなる行動療法
これらはあなたが飲酒する理由や、飲酒があなたの行動や社会生活にどのように影響するのかを理解するのに役立ちます。
薬の利用
離脱の医療的支援
深刻なアルコール依存症を持っていると、安全に断酒するための助けが必要な場合があります。アルコールサポートサービスでは、あなたが自宅で断酒できるか、専門家のいるアルコール治療センターに通うべきかを確認できます。
再発予防薬
再び飲み始めるのを避けるために次のような薬剤が利用されます。
- アカンプロサート - アルコールへの欲求を減らすのに役立つ薬です。アカンプロサートは断酒後に服用開始でき、最長6か月服用します。
- ナルトレキソン - アルコールによる効果を止め、それによって人々の飲酒意欲を失わせるために使われる薬です。最長6か月か、それ以上服用することもあります。
- ジスルフィラム - これは、アカンプロサートとナルトレキソンを服用したにもかかわらず効果がなかったか、何らかの理由により他の薬が利用できない場合に提供される可能性があります。
住宅リハビリ
次のような経験をしている場合、住宅リハビリ施設の場所が提供される可能性があります。
- 身体的な健康問題
- 精神的な健康問題
- あなたの住宅や金銭状況などの社会的な問題
これは最長3か月です。住宅リハビリの提供有無は、お住まいの地域でのこれらのサービスの提供有無にも依存します。
急に酒をやめるのは危険ですか?
飲酒が身体的または精神的な健康に影響を及ぼしていると、酒の量を即座に減らすか、完全にやめたくなるかもしれません。しかし、日常的に大量の飲酒をしていたり、長期間にわたって飲酒したりしているような場合、これは非常に危険なことがあります。
突然の断酒は、次のような症状を引き起こす可能性があります。
- アルコール離脱症状に苦しむ
- てんかん発作 - これらは通常、断酒後の最初の48時間に発生します。通常、離脱症状のあとに起こります。
- 重度のアルコール離脱症の発症。例えばヴェルニッケ脳症、コルサコフ症候群
飲酒量は少しずつ減らすことが重要です。特に長期間にわたって大量の酒を飲んでいる場合、支援を活用しながら減酒することが一番安全です。
アルコールに依存している人を助けるにはどうすればいいですか?
アルコールには依存性があり、やめることは難しい場合があります。アルコールに依存している人を知っていて、その人をサポートしようとしている人がいたら、次のステップを考えてみてください。
- 詳しく知る - アルコールへの依存とは何か、またその仕組みを理解することは、その人や、その人とあなたの状況をより良く理解するのに役立ちます。
- 期待値の設定 - 長い間断酒していた人が再開してしまうのは、よくあることです。これは後戻りしたように見えるかもしれませんが、あなたや本人の「失敗」を意味するものではありません。また、本人が未来永劫断酒できないことを意味するわけでもありません。
- 自分ができることとできないことを理解する - その人は断酒または減酒を決断する必要がありますが、その選択を行うにあたってあなたができることはあまりありません。誰かが飲酒によって自分自身や他人を傷つけていることを知っている場合、気持ちを抱えたままでいるのは難しいかもしれません。自分の気持ちを安心して話せる人を見つけましょう。
- 自分のためのサポートを得る - アルコールに依存している人を知っている場合、支援を提供できる地域の組織を一般開業医(GP)が案内できます。いくつかの組織やグループは、特に家族や友人をサポートするために存在しています。
- 安全を確保 – 他人の飲酒によってあなたやあなたの知人が危険にさらされている場合は、信頼できる人に相談してください。緊急の危険がある場合は999番に電話してください。
詳細情報とサポート
酒に関する情報
Alcohol advice, NHS - アルコールに関する情報、単位やカロリーの計算、削減のヒント。
アルコールサポートサービス
お住まいの地域でアルコールサポートサービスを探すには、以下のウェブサイトを利用してください。
Alcohol Change UK - Alcohol Change UKは、Alcohol ConcernとAlcohol Research UKが統合してできた、英国を代表するアルコール慈善団体です。アルコールについての情報や自分の飲酒を管理するための情報を提供しています。
アルコール依存に関する情報
Alcohol-use disorders: diagnosis, assessment and management of harmful drinking (high-risk drinking) and alcohol dependence, NICE - この情報はNational Institute for Health and Care Excellenceが公開しており、アルコール依存の人が受けられる支援を説明しています。
SMART Recovery - SMART Recoveryは、依存に苦しむ人々を支援するための相互扶助ミーティングやオンライントレーニングプログラムを全国規模で提供している慈善団体です。
Alcoholics Anonymous (AA) - AAは、アルコール依存からの回復を支援する自助グループです。英国と英国以外の国の両方でミーティングを提供しています。
With You - With You(旧称Addaction)は、アルコールや薬物使用障害の人々を支援する慈善団体です。イングランドとスコットランドで情報やサービスを提供しているほか、オンラインサポートサービスも提供しています。
Nacoa – Nacoaは、親の飲酒による影響を受けているあらゆる人のために情報、アドバイス、支援を提供している慈善団体です。
友人、家族、ケアラー向けの情報
Alcohol Change UKは友人や家族のための支援サービスの一覧を提供しています。
ARBDに関する情報
- Alcohol-related brain damage: the road to recovery, Alcohol Change UK - アルコール関連脳損傷 (ARBD) を持つ人々の家族、ケアラー、友人のためのハンドブックです。
- ARBD Network - 教育と情報を通じて、医療従事者と一般の人々との間でアルコール関連脳損傷の意識を高めるためのネットワークです。
家庭内暴力に関するリソース
あなたやあなたの知り合いが、誰かの飲酒が原因で家庭内暴力を受けている場合、あるいはご自身が飲酒を原因として虐待行為をしてしまっていると考えられる場合に役に立つリソースをいくつかご紹介します。
- Domestic abuse: how to get help, Gov.uk – このウェブサイトでは英国全体を対象として、家庭内暴力の影響を受けている人々向けの役立つリソースを提供しています。
- Respect Phoneline – Respectは、虐待行為に加担してしまっていると考えている人のための慈善団体です。
- Reporting child abuse, NSPCC – 虐待やネグレクトを受けていると思われる子どもがいる場合、NSPCCがアドバイスを提供できます。
アルコール単位の手引き
ビール、サイダー、低アルコール飲料
強さ(ABV) | 半パイント | 1パイント | ボトル/缶(330ml) | ボトル/缶(500ml) | |
---|---|---|---|---|---|
中程度の強さのビール、ラガー、サイダー | 3-4% | 1単位 | 2単位 | 1.5単位 | 2単位 |
通常の強さのビール、ラガー、サイダー | 4-5% | 1.5単位 | 3単位 | 1.7単位 | 2.5単位 |
強いビール、ラガー、サイダー | 7.5-9% | 2.5単位 | 5単位 | 3単位 | 4.5単位 |
低アルコール飲料 | 5% | - | - | 1.7単位 | - |
ワイン、蒸留酒
強さ(ABV) | シングル(25ml) | ダブル(50ml) | ワイングラス小(125ml) | ワイングラス大(250ml) | ボトル(750ml) | |
ワイン | 12-14% | - | - | 1.5-1.8単位 | 3-3.5単位 | 9-10.5単位 |
酒精強化ワイン(シェリー、マティーニ、ポート) | 15-20% | - | 1単位 | - | - | 14単位 |
スピリッツ(ウイスキー、ウォッカ、ジン) | 40% | 1単位 | 2単位 | - | - | 30単位 |
アルコールトラッカー
私たちのほとんどは自分の飲酒量を過小評価しています。実際の状況を確認するには、1週間の飲酒量を日記に記録することをおすすめします。
これにより、自分がどれくらい飲んでいるかをより明確に把握できます。飲酒量の増加につながる時間、場所、人々など、リスクの高いシチュエーションを理解するのにも役立ちます。
曜日 | 飲酒量 | タイミング | 場所 | 相手 | 単位 | 合計 |
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月曜日 | ||||||
火曜日 | ||||||
水曜日 | ||||||
木曜日 | ||||||
金曜日 | ||||||
土曜日 | ||||||
日曜日 | ||||||
週の合計 |
著作権
この情報はRoyal College of PsychiatristsのPublic Engagement Editorial Board(PEEB)が制作しました。執筆時点での利用可能な最良のエビデンスを反映しています。
専門家執筆者: Jim Bolton博士、Tony Rao博士、Wendy Burn教授、Julia Sinclair教授
このリソースの開発に協力してくださったサービス ユーザーの Diane Goslar氏に特別な感謝を捧げます。
ご要望があれば、引用文献をお送りします。
© Royal College of Psychiatrists
This translation was produced by CLEAR Global (Apr 2024)