拒食症と過食症
Anorexia and Bulimia
免責事項
このリーフレットについて
このリーフレットが、次のような方に役立つことを願っています:- 体重や体のイメージのことがいつも頭から離れない方
- 食生活やダイエットに不安がある方
- 過激な運動や食べ吐きなどの方法を使って体重を減らすことにばかり熱心になっている方
- 拒食症か過食症かもしれないとお思いの方
- 激やせして周囲から心配されている方
- このような問題をかかえている友人や親戚、お子さんをお持ちの方
はじめに
人にはそれぞれ異なった食習慣があり、「健康的な食べ方」は数え切れないほどあります。しかし、太ることを恐れるあまりに無茶な食べ方をして、結果的に健康を害してしまう場合があります。これを「摂食障害」といい、次のような場合です。- 食べ過ぎる。
- 食べる量が少なすぎる。
- 体によくない方法でカロリー制限する。
実のところ、「摂食障害」はたいてい、食べ方の問題だけではありません。摂食障害をもつ人は、どうやってカロリーを摂らないですむか、どうやっていったん摂ったカロリーを「燃やし」たり体の外に出すか、常に気にしています。また、体重や外見を「いつも」チェックして、体重が増えていないことを確かめています。
このリーフレットでは拒食症(神経性無食欲症)と過食症(神経性大食症)という2つの摂食障害を取りあげ、それぞれ別々に説明します。
- 拒食症と過食症の症状は重なっていることがよくあります。
- 過食症から拒食症に移行することがあります。あるいは、拒食症の症状から始まり、あとから過食症の症状が現われることがあります。
どういう人が摂食障害になりますか?
女性は男性の10倍も拒食症や過食症になる傾向があります。しかし、摂食障害は男性全般にも増えてきています。男性は女性と比べると、過剰な運動をして摂食障害になりがちで、ものすごくやせるよりも筋肉質になろうとします。拒食症(神経性無食欲症)
どのような兆候がありますか?次のような兆候があります。
- 自分の体重が気になって仕方がない。
- 食べる量がだんだん少なくなる。
- カロリーを消費しようと、もっと運動をする。
- 年齢や身長から見て標準体重以下であっても、もっと体重を減らそうとする。
- 体重を減らすために、たばこを多く吸ったりガムを噛んだりする。
- 体重や体型、鏡に映る姿を何度も何度もチェックする。
- 食べることが関わる社交の場に出なくなる。
- 性行為に興味がなくなる。
- 女性は、生理が不順になったり止まったりする。
- 男性は、勃起や夢精がなくなり、睾丸が縮小する。
人によっては、強迫症状が見られるようになります。厳密に決めた日課や時間にこだわらずにいられない、「汚染」を恐れる、常に勉強や仕事をしていないといけない、お金を適切に使えない、といった症状が含まれます。
いつから始まりますか?
どの年代の人でも拒食症になる可能性があることがわかっています。ただし、だいたい10代です。
- 15歳の女子では、約150人に一人が発症します。
- 15歳の男子では、約1,000人に一人が発症します。
どのようなことが起こりますか?
- 毎日、カロリーをほとんど摂らなくなります。フルーツや野菜、サラダのような「健康的なもの」は食べますが、それだけでは身体に必要なエネルギーは満たせません。
- 体重を減らすために運動をしたり、ダイエット薬を服用したり、今まで以上にたばこを吸ったりします。
- 自分自身は食べませんが、他の人のために食べ物を買ったり料理したりします。
- いつもお腹が空いていて、実は食べ物のことが頭から離れません。
- 太ることがどんどん怖くなり、標準体重以下に保つことに頑なにこだわります。
- あなたが痩せてきたことや体重が減ったことに、まず家族が気付くでしょう。
- 食事の量や体重の減り具合について、他の人に嘘をつくようになります。
- 食べるはずではなかったものを食べてしまった時には、わざと食べ吐きをします。とくに、食べることのコントロールがきかなくなり、気がつくとむちゃ食いしていた時はそうなります。これは「過食症」ではなく、「拒食症、むちゃ食い - 排泄(binge-purge)型」と呼ばれます。定義上、拒食症を持つ人の体重は正常範囲内に留まります。
過食症(神経性大食症)
どのような兆候がありますか?次のような兆候があります。
- 自分の体重が気になって仕方がない。
- むちゃ食いをする。(下記参照)
- カロリーを摂らなかったことにするために、食べた物をわざと吐き戻したり下剤を使う。
- 生理不順になる。
- 疲れやすい。
- 罪悪感に陥る。
- ダイエットの甲斐なく、標準体重のままでいる。
いつから始まりますか?
過食症はだいたい10代半ばから始まります。しかし、たとえ仕事や社会生活に支障をきたすようになっても過食症を隠し通すことができるため、20 代前半から半ばになって初めて助けを求めるようになるものです。たいていの人は、自分の生活が変わった時、たとえば新たな人間関係の始まりや初めて誰かと一緒に住むようになった時、助けを求めます。
100人に約4人の女性が人生のどこかで過食症に陥りますが、男性はかなり少数です。
むちゃ食い
冷蔵庫をあさって食べたり、普段なら控えているはずの高カロリーの食べ物をたくさん買ってきます。たいていは、他の人に隠れてすばやく全部食べてしまいます。たった数時間で、山ほどのビスケットやチョコレート、ケーキを平らげてしまうでしょう。むちゃ食いの欲求から、他の人の食べ物を盗み食いしたり、万引きまでしてしまうかもしれません。きちんと予定していた食事からむちゃ食いに至ることもあります。食べるものを制限していたために通常の食事では満足できず、食べることがやめられなくなります。
それからあなたは、お腹が一杯で苦しくなり、おそらく罪悪感から落ち込むでしょう。無理やり食べた物を吐き戻そうとしたり、下剤を使って排泄を試みたりします。とても不快でぐったりしてしまいますが、むちゃ食いをしては吐き戻したり、下剤で排泄することの繰り返しから抜け出せなくなります。
むちゃ食い障害
これは最近になり認知されるようになりました。ダイエットやむちゃ食いもしますが、吐き戻しません。精神的には辛いですが、過食症ほど悪影響はなく、治療効果が現れやすいです。この症状がある人は太り過ぎてくる傾向があります。
拒食症と過食症はどのような害がありますか?
充分なカロリーを摂らないと、次のようなことが起こるでしょう。精神的な症状
- 眠れなくなる。
- 食べ物やカロリー以外のことに集中できなくなり、頭が回らなくなる。
- 気分が落ち込む。
- 他の人に関心がなくなる。
- 食べ物や食事のこと(まれに、洗濯や掃除、片付けなどの他のこと)に執着する。
身体的な症状
- 胃が小さくなってしまい、食べられなくなる。
- 新陳代謝が衰えているため、疲れやすくなったり、病弱になったり、寒気を感じたりする。
- 便秘になる。
- 髪の毛や肌の変化に気づく。髪の毛が抜ける一方で、他の部分の体毛が濃くなることがあります。肌が乾燥し、床ずれができたりします。
- 身長の伸びが止まる。あるいは「背中が曲がって」身長が縮む。
- 骨がもろくなり、骨折しやすくなる。
- 妊娠できなくなる。
- 肝臓を壊す(特にお酒を飲む場合)。
- 極端な場合、死に至る恐れがある。精神疾患の中で、拒食症は死に至る率が一番高い病気です。
- 歯のエナメル質がなくなる(嘔吐物の胃酸で溶けてしまう)。
- 顔がむくむ。(頬にある唾液腺が腫れる)
- 不整脈(動悸)がする(嘔吐により血中塩類のバランスが崩れる)。
- 力が出ない。
- いつも疲れた感じがする。
- 体重の変動が激しい(下記参照)。
- 腎臓を壊す。
- けいれん発作を起こす。
- 妊娠できなくなる。
- 腹痛がずっと続く。
- 指がむくむ。
- 下剤なしでは排泄ができなくなる(いつも下剤を使うことで腸の筋肉が衰えてしまう)。
- 体重の変動が激しくなる。下剤を使って排泄することで、体内の水分を大量に失うが、後で水分補給するので元に戻る(下剤を使っても、カロリーまで取り除くことはできない)。
摂食障害の原因は何ですか?
明確な答えはありませんが、次にように説明ができます。- 社会からのプレッシャー:私たちの行動は、置かれている社会環境から強烈な影響を受けます。痩せていることに価値を見出さない社会では、摂食障害はほとんど見られませんが、バレエ学校のような痩せていることが重視されるところでは、摂食障害がより多く見られます。西洋文化では「痩せていることが美しい」のです。テレビや新聞、雑誌では、偶像視された作りもののようなスリムな人たちの写真が溢れています。そのため、いつしか多くの人がダイエットを試みるようになります。一部の人たちは極端なダイエットにより、拒食症に陥ってしまうのです。
- 「オフ」スイッチがない:いくらダイエットをしても、大抵の場合、きちんと食べなければならない時期を身体が教えてくれます。拒食症の人には、このような体内「スイッチ」がないこともあり、危険な状態にあっても体重を落とし続けられるのでしょう。
- コントロール:ダイエットはとてもやりがいのあることもあります。体重計に乗り1~2キロ減っていると達成感があり、このように目に見える形で自分自身をコントロールできると気分がいいものです。人生の中で、唯一自分でコントロールできるのは体重だけなのかもしれません。
- 思春期:拒食症は、男性では陰毛や髭、女性では胸の発育や月経などという身体の成熟を遅らせることがあります。したがって、成長に伴う変化、特に性的に成熟していくことによる変化から逃れるのには好都合なのかもしれません。
- 家族:食べることは、人と一緒に生活する中で重要な一部分です。食べ物を受け入れれば相手が喜ぶし、断れば相手を心配させてしまうでしょう。とりわけ、家族の間ではそうです。食べ物を「いらない」と言うことが、唯一の感情表現だったり、家族の問題に対する主張だったりするのかもしれません。いっぽうで、愛情あふれる家族はよく、摂食障害の結果起こることから本人を守ろうとします。その結果、摂食障害が長引くことがあります。
- 遺伝子:摂食障害は、一緒に暮らしていなくても、家族内で発症するという科学的根拠がたくさんあります。特定の遺伝子をもっていると、摂食障害だけでなく、関連した状態・病気になりやすくなります。
- うつ状態:落ち込んだ時や、あるいはただ退屈なだけも、私たちの多くは安らぎのために何かを口にしてしまうものです。過食症の人は気分がふさぎ込んでいることが多く、憂さ晴らしの方法の一つとしてむちゃ食いを始めてしまうかもしれません。残念ながら、吐き戻したり下剤を使っても、いやな気分のままでしょう。
- 自尊心の低さ:拒食症と過食症の人はたいてい自分のことを大事に考えておらず、他の人よりも劣っていると思いがちです。減量することは、自信や自尊心を得るための方法なのかもしれません。
- 情緒的な悩み:嫌なことがあったり人生に変化があると、人は様々な反応を示します。拒食症と過食症は次のようなことに関連しています。
- 人生のいろいろな悩み
- 性的虐待
- 身体的疾患
- 死や人との別れなど、心が乱れるような出来事
- 結婚や親元を離れるなど、重大な出来事
- 悪循環:摂食障害は、元々のストレスや原因がなくなったとしても続くことがあります。ひとたび胃が小さくなってしまうと、食べた時に不快になり食べるのが怖くなります。
- 身体的な原因:摂食障害には、まだ知られていない身体的な原因があるのではと指摘する医師もいます。
- 特定の疾患や治療:摂食障害を持つ人の中には比較的高い確率で、糖尿病や嚢胞性線維症、またはその他の疾患を持つ人がいます。こういった病気を持っていると食生活の管理が必要で、適切な治療を続けないと体重が減ってしまいます。体重を減らすために健康をなおざりにしたくなることもあるでしょうが、ひじょうに危険です。
男性の場合は違いますか?
- 摂食障害は、男性全般にも増えているようです。
- 摂食障害は、低体重(または低体脂肪)が望ましい職業、たとえば、ボディービル、レスリング、ダンス、水泳、陸上競技の世界によく見られます。
- 同性愛者の男性や少年は摂食障害になりやすいようです。
- 男性は今、摂食障害を隠すことなく、オープンにすることで助けを求めているようです。
特別支援が必要な人や小さな子ども
学習障害や自閉症、その他の発達障害により、食事が難しくなることがあります。たとえば、自閉症の人は食べ物の色や歯ごたえが気に入らず、食べようとしないことがあります。思春期前の小さな子どもは、やせ願望ではなく、食べ物そのものや好き嫌い、反抗心から食べようとしないのが問題でしょう。これらの問題の解決法は、拒食症や過食症の場合とかなり異なります。私は摂食障害なのでしょうか?
医師は「SCOFF」と呼ばれるアンケート形式で質問をします。- 気持ちが悪くなるほど(Sick)満腹になったことで、無理に吐き戻そうとしますか?
- 食事の量をコントロール(Control)できなくなり、不安ですか?
- この3ヶ月間で6キロ以上(about One stone)体重が減りましたか?
- 他の人があなたのことを痩せていると言っても、自分では太っている(Fat)と思いますか?
- 食べ物(Food)があなたの生活のすべてだと思いますか?
自分でできること
- 過食症は、治療者(セラピスト)の指導に従いながら、セルフ・ヘルプ用のマニュアルを用いて治療することもできるでしょう。
- 拒食症は、外来やセラピストのもとで、より計画的な取り組みが必要です。あなたに最適な方法を見つけられるように、選択肢が広がるような多くの情報を集めるとよいでしょう。
やってみるといいこと
- 決まった時間に朝食、昼食、夕食をとりましょう。体重がとても少ない場合は、朝、昼、夜に間食をしましょう。
- 健康的な食べ方に向けて、初めの一歩を踏み出すことに集中しましょう。朝食に気が進まないなら、朝は数分だけテーブルに座り、水を飲むだけでもかまいません。慣れてきたら、ほんの少しだけ、トーストを半分だけでも口にしましょう。これを毎日の習慣にするとよいでしょう。
- いつ何を食べたか、どんな事を考え、何を思ったか、毎日のメモに残してみましょう。感じたことや考えたことと食べ方がどのように関わり合っているかを知ることができるでしょう。
- 食べる物、食べない物について、自らにも周りの人にも正直になりましょう。隠すことは、摂食障害に関連した問題の中で最も、あなたが孤立してしまう原因になります。
- 何事も完璧でなくてもいい、と自分に言い聞かせましょう。時には自分自身を楽にしてあげましょう。
- たとえ痩せたとしても、短期的には気分がよくなるかもしれませんが、もっと長い目で見ると、より心配になり気分が落ち込むかもしれないことを自覚しましょう。
- 2つのリストを作りましょう。一つは摂食障害で何を得たか、もう一つは何を失ったかを書くのです。セルフ・ヘルプに関する本を参考にしましょう。
- 自分の身体をいたわりましょう。痛めつけることのないように。
- あなたにとってのベスト体重を知り、なぜそうなのかを把握しましょう。
- この病気を克服した人たちの経験談を読みましょう。セルフ・ヘルプに関する本やインターネットで見つけられます。
- セルフ・ヘルプ・グループへの参加を検討しましょう。かかりつけ医が勧めるグループがあるかもしれません。またはbeat(下記参照)に連絡してみましょう。
- 減量やスリムな体型を勧めるようなウェブサイトを見ないようしましょう。これらは、あなたの健康を蝕んでいきますが、あなたの調子が本当に悪くなっても、何も助けてくれません。
やってはいけないこと
- 一週間に一度以上、体重を測ってはいけません。
- 自分の身体をチェックしたり、自分の姿を鏡で見たりするのに時間をかけてはいけません。完璧な人はいません。自分の姿を見れば見るほど、もっと嫌なところを見つけてしまうでしょう。十分に魅力的な人でさえも、まじまじと自分の姿を見ているうちに、スタイルに自信がなくなってくるものです。
- 家族や友人から痩せすぎを指摘されるのが嫌でも、彼らとの関係を絶ってはいけません。家族や友人が命綱になるかもしれないのです。
助けを得られない場合や食習慣が変えられない場合、どうなりますか?
深刻な摂食障害を持つ人はたいてい、最終的には何らかの治療を受けています。ですから、放置した場合にどうなるかはよく分かっていません。しかし、深刻な摂食障害を持つ人が自然治癒することはないようです。拒食症の人は死に至ることもありますが、吐き戻しをしたり、下剤を使ったり、お酒を飲んだりしなければ、その可能性は低いようです。低体重の時に運動をするのは危険です。寒い季節に野外で運動するのはとりわけ危険です。専門家による治療
- あなたのかかりつけ医が専門のカウンセラーや精神科医、心理療法士を紹介してくれます。
- プライベート(訳注:自費負担による診療)で診療をおこなっているセラピストやセルフ・ヘルプ・グループ、クリニックを選ぶこともできますが、その際も、かかりつけ医に現状を知らせておくとよいでしょう。
- きちんとした健康診断を受けた方がよいでしょう。摂食障害により身体のどこかに問題があるかもしれません。まれに、自覚症状のない病気が隠れていることがあります。
- 最も効果的な治療は、おそらくあなたの症状や年齢、置かれている状況によって異なります。
拒食症の場合
- 精神科医もしくは心理療法士はまず、症状がいつ頃からのものか、どのように進行したか知るために、あなたと話をしなければなりません。体重を測ったり、体重の減り方によっては、身体的なチェックや血液検査が必要かもしれません。あなたが同意した上で、精神科医はあなたの家族(あるいは友人)と話をし、解決への手がかりを見つけようとします。あなたが家族に知られたくないならば、たとえ未成年でも、守秘を主張する権利があります。家庭内で虐待やストレスがある場合は、その方が望ましいかもしれません。
- あなたがまだ親元にいる場合、ご両親はまず、あなたがどんな物を食べているのかチェックするでしょう。あなたが家族と一緒に規則正しく食事をしているか、十分なカロリーを摂っているかみるはずです。体重チェックやアドバイスのため、あなたは定期的にセラピストに会うことになるでしょう。
- 拒食症に向き合うことは、すべての関係者にとってストレスが大きいもので、あなたのご家族もサポートが必要でしょう。ご家族全員が治療セッションへ参加する必要はないですが(未成年の場合、参加してもらう方がよいかもしれませんが)、あなたの家族も助けを借りながら問題を把握し、取り組んでいけるのです。
- あなたの気分を害するようなこと、たとえば、あなたの異性との付き合い方や学校について、自意識や家族のいろいろな問題について、話し合う機会があるでしょう。
- 始めのうちはおそらく、標準体重になりたくないけども、よい気分にはなりたいと思うでしょう。気分がよくなるためには、あなたは健康的な体重に戻る必要があります。次のようなことを知っておくとよいでしょう。
- 自分のベスト体重はどれくらいか?
- ベスト体重に戻るのに、一日にどれくらいのカロリーが必要か?
- 太っていないとどうやって自覚できるか?
- 食べ方をコントロールできるとどうやって自覚できるか?
心理療法またはカウンセリング
- これは、毎週約一時間ずつ、あなたの考え方や感じ方についてセラピストと話をする治療法です。症状がどのように始まったのか、少しでも考え方や感じ方を変えるにはどうすればいいかが分かるようになります。触れたくないような話題もあるかもしれませんが、よいセラピストなら、あなたが悩みを乗り越えられるように助けてくれるでしょう。自分自身の価値を認め、自尊心を取り戻すのに効果的です。
- 心理療法に取り組むことをストレスと感じずに、恩恵を得られるほど回復してきたら、拒食症に焦点を当てた認知行動療法や対人関係療法がよく用いられます。低体重の時、または体重が減っている時に心理療法を受けると、治療によるストレスによって、状況が改善するよりも悪化するようです。
- 時々、同じような症状を持つ人たちと小グループで治療が行われることもあります。
- あなたが同意の上で、ご家族も参加できます。拒食症のための家族療法の中では「モーズレイ(Maudsley)・モデル」がもっとも多く研究されています。配偶者(パートナー)がいる人は、カップルで治療を受けることもできます。あなたとは別々に身内の人や介護者はセラピストと面談することもできます。あなたに何が起こりどう向き合っていくか、この状況をどう対処するかの理解を深めていきます。
- このような治療は数ヶ月から数年かかります。
- このような段階的治療がうまくいかなかったり、危険なほど低体重な場合にのみ、医師が入院を勧めるでしょう。
病院での治療
これもあなたの食事をコントロールし、症状について語る治療ですが、より管理的で計画的に行われます。
- 貧血の有無、感染症のリスクを調べるために血液検査をします。
- 少しずつでも体重が増えているか確認するために、定期的に体重を測ります。
- 心臓や肺、骨に異常がないか調べるため、他にも身体的な検査が必要になります。
食事指導と援助
- 栄養士が健康的な食事について、たとえばどれくらい食べるか、健康のために必要なすべての栄養をどのように確認するか、あなたと話し合います。
- 体にとって不可欠な栄養素が不足しているようなら、ビタミン剤や微量元素のサプリメントをしばらくの間必要とする場合もあります。
- ベスト体重に戻るには、たくさん食べることが唯一の方法ですが、最初は大変かもしれません。スタッフは以下のことを助けてくれます。
- 体重を増やすため、目標を設定すること。
- 規則正しく食べること。
- 不安に立ち向かうこと。
薬物療法
拒食症に向かい合っている間に経験する不安を減らすために、医師が薬を処方することもあります。とくに、摂食障害の人がいうところの「反すう思考(訳注:物事を長い間繰り返し考えること)」を減らすためです。もっともよく用いられてきたのはオランザピンという薬で、若い人や低体重の人に安全なためです。ジアゼパムおよびそれと同類の薬よりも効果があり、習慣性が生じる可能性がより低いです。
体重が増えたからといって回復したわけではありませんが、体重が増えなければ回復しません。極度の飢餓状態にある人は、たいてい集中力がなくなったり考え(特に感情面)がはっきりしなくなります。
強制治療
まれに健康状態がとても悪く、次のような場合にのみ強制治療が行われます。
- 自分自身について正しい判断ができない場合
- 深刻な危害から保護する必要がある場合
治療はどれくらい効果がありますか?
- 平均して6~7年は思わしくない症状が続きますが、半分以上が回復しています。
- 20年来の重症の拒食症であっても、完全に回復することがあります。
- かつては、入院治療を受けていた重度の拒食症の5人に一人が亡くなっていました。途中で治療を止めさえしなければ、最新医療のおかげで死亡率はかなり低くなっています。
- 心臓や他の臓器に異常がない限り、ひとたび十分に食べられるようになれば、絶食による合併症は徐々によくなります。
過食症の場合
心理療法2種類の心理療法が過食症に効果があると報告されています。どちらも週一回、おおむね20回以上の治療が必要です。
認知行動療法(Cognitive Behavioural Therapy; CBT)
この治療は通常、セラピストと一対一か、セルフ・ヘルプ用の本を使うか、グループ単位か、あるいはCDを使って行うなどあります。CBTはあなたの考えや感じ方を詳しくみていくのに効果的です。あなたのむちゃ食いのきっかけを見つけるのに、食習慣の日記をつけることも必要かもしれません。そうすれば、その状況や気持ちに対して、もっとよく考え、上手に対処できるようになるでしょう。拒食症の治療と同様、あなたが自分の価値を取り戻せるようにセラピストがサポートしてくれます。
対人関係療法(Interpersonal Therapy; IPT)
この治療法もたいていセラピストと一対一で行いますが、あなたと周りの人との関係をより重視します。あなたは友達を失ったかもしれません、愛する人が亡くなったかもしれません、引越のような人生で大きな変化を経験したかもしれません。この治療法により、頼りになる人間関係が再建できるでしょう。あなたにとって人間関係は、食べることよりも、情緒を安定させるのにずっと大事なものです。
食事のアドバイス
これは規則正しい食事に戻すのに効果的で、さらに絶食や吐き戻したりせずに安定した体重を維持できるようになるでしょう。栄養士が健康的な食事についてアドバイスしてくれます。Getting Better BITE by BITE(下記の「参考資料」を参照)のようなガイド本が役立つでしょう。
薬物療法
うつ状態でなくてもフルオキセチン(商品名:プロザックー日本では未発売)のような抗うつ薬を高用量で服用すると、むちゃ食いを抑えることができます。服薬を始めてから2~3週間で症状が軽減し、心理療法への「弾み」になるでしょう。残念ながら、他の治療法を併用しないと効果は長続きしません。
治療はどれくらい効果がありますか?
- むちゃ食いや下剤の使用が少なくとも半減して、約半数の人達が克服しています。完治には至りませんが、摂食障害に煩わされることが軽減され、以前のように自分の生活をいくらかコントロールできるようになります。
- 薬物やお酒、自傷行為などの問題もある場合、結果は思わしくありません。
- CBTやIPTは一年間かけてみると、ほぼ同様の効果がありますが、CBTの方がやや早く効果が見られるでしょう。
- 薬物治療と心理療法を組み合わせると、どちらか一方だけの治療よりずっと効果的との報告があります。
- 通常、数ヶ月または数年かけて、ゆっくり回復します。
アドバイス
beat (旧称the Eating Disorders Association)
相談窓口:0845 634 1414 (月~金曜日:午前10:30~午後8:30、土曜日:午後1:00~4:30)
beat 青少年向け相談窓口:0845 634 7650 (月~金曜日:午後4:00~6:30、土曜日:午後1:00~4:30)
beatは摂食障害の人たちへの偏見をなくす運動や、必要なヘルプやサポートを提供する団体です。
Bodywhys – The Eating Disorders Association of Ireland(アイルランド摂食障害協会)
電話相談窓口:
1890 200 444
メールアドレス: info@bodywhys.ie
DWED (Diabetics with eating disorders website:摂食障害を持つ糖尿病の人のためのウェブサイト)
Eating Disorder Hope
このアメリカのウェブサイトでは、摂食障害に悩む人たちや治療関係者、家族のために、様々な情報や治療の選択肢、回復のための手段や支援を提供しています。
Mental Health Ireland
メールアドレス:information@mentalhealthireland.ie
精神疾患のある方を支援し、こころの健康を肯定的にとらえてもらう活動をしています。
NHS Direct
電話: 0845 4647 (24時間受付)
健康に関するあらゆる話題について、看護師がアドバイスします。
Healthtalk.org
摂食障害を持つ若者に向けたセクションがあります。
認知行動療法に対するオンライン支援
参考資料
‘Breaking free from anorexia nervosa: a survival guide for families, friends and sufferers’、Janet Treasure著 (Psychology Press).
‘Anorexia nervosa and bulimia: how to help’、M. Duker/R. Slade共著 (Open University Press)
‘Eating Disorders: A parents' guide’、Rachel Bryant-Waugh/Brian Lask 共著 (Penguin Books).
Skills-based learning for caring for a loved one with an Eating Disorder: The New Maudsley
Method. Janet Treasure/ Grainne Smith/Anna Crane 共著.
‘Bulimia Nervosa and Binge eating: A guide to recovery’、P. J. Cooper/Christopher Fairbairn 共著 (Constable and Robinson).
‘Overcoming binge eating’、Christopher Fairburn 著 (Guildford Press).
‘Getting better BITE by BITE: A survival kit for sufferers of bulimia nervosa and binge eating disorders’、Janet Treasure/Ulrike Schmidt 共著 (Hove Psychology Press).
‘Anorexia Nervosa and Related Eating Disorders (ANRED)’
セルフ・ヘルプのヒント : http://www.anred.com/slf_hlp.html
参考文献
- Agras, W. S.,Walsh, B.T., Fairburn, C. G., et al (2000) A multicentre comparison of cognitive-behavioural therapy and interpersonal psychotherapy for bulimia nervosa. Archives of General Psychiatry, 57, 459-466.
- Bacaltchuk J., Hay P., Trefiglio R. Antidepressants versus psychological treatments and their combination for bulimia nervosa (Cochrane Review). In: The Cochrane Library, Issue 2 2003. Oxford: Update Software.
- Bissada H. et al. Olanzapine in the treatment of low body weight and obsessive thinking in women with anorexia nervosa: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Am J Psychiatry 2008 Jun 16.
- Eisler, I., Dare, C., Russell, G. F. M., et al (1997) Family and individual therapy in anorexia nervosa. Archives of General Psychiatry, 54, 1025-1030.
- Eisler, I., Dare, C., Hodes, M., et al (2000) Family therapy for anorexia nervosa in adolescents: the results of a controlled comparison of two family interventions. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 41,727-736.
- Fairburn, C. G., Norman, P.A., Welch, S. L., et al (1995) A prospective study of outcome in bulimia nervosa and the long-term effects of three psychological treatments. Archives of General Psychiatry, 52, 304-312.
- Hay, P. J., & Bacaltchuk, J. (2001) Psychotherapy for bulimia nervosa and bingeing (Cochrane Review) In: The Cochrane Library, Issue 1.
- Lowe, B., Zipfel, S., Buchholz, C., Dupont, Y., Reas, D.L. & Herzog, W. (2001). Long-term outcome of anorexia nervosa in a prospective 21-year follow-up study. Psychological Medicine, 31, 881-890.
- Luck A.J., Morgan J.F., Reid F. et al. (2002) The SCOFF questionnaire and clinical interview for eating disorders in general practice: comparative study. BMJ, 325, 755-756.
- Milos, G., Spindler A., Schnyder, U. & Fairburn, C.G. Instability of eating disorder diagnoses: prospective study. British Journal of Psychiatry, 187, 573-578.
- Theander, S. (1985) Outcome and prognosis in anorexia nervosa and bulimia. Some results of previous investigations compared with those of a Swedish long-term study. Journal of Psychiatric Research, 19, 493-508.
- Senior R; Barnes J; Emberson J.R. and Golding J. on behalf of the ALSPAC Study Team (2005) Early experiences and their relationship to maternal eating disorder symptoms, both lifetime and during pregnancy. British Journal of Psychiatry, 187, 268-273.
Translated by Mika Yamada-Reynolds, Akiko Tatsuta and Dr Nozomi Akanuma. June 2013.