双極性障害
Bipolar disorder
Below is a Japanese translation of our information resource on bipolar disorder. You can also read our other Japanese translations.
免責事項
こちらのリーフレットは双極性障害についてより詳しく知りたい方のために作られました(双極性感情障害と呼ばれることもあります)。特に、双極性障害の方とその友人、親族の方に向けて書かれています。
このリーフレットには、以下の内容が記載されています。
- 双極性障害の兆候と症状。
- 直面する可能性のある問題例。
- 対処方法例。
- 根拠に基づいた治療法。
双極性障害とは?
以前は「躁うつ病」と呼ばれていました。この言葉が示すように、ムードスィングが激しくなります。その感情の起伏の多くは約数週間から数ヶ月続きます、これは私たちが通常経験する感情の起伏をはるかに凌ぐものです。その内容は次のようなものです1。
- 憂うつまたは「抑うつ」 – 激しい憂うつ感、落ち込み、絶望感まで感じます。
- 高揚感または「躁」– 非常に高い幸福感、高揚感を感じ、過度に活動的になります。自分自身や自分の能力について、極めて誇大的で妄想的な考えを持つようになるかもしれません。
- 軽躁病 – 気分は高揚しているものの、躁病ほど極端ではありません。
- 混合状態 – 躁病とうつ病が混在している状態です。例えば、意気消沈している一方で、躁の落ち着きのなさや過活動が見られる状態です。
これらの感情の状態の詳細は以下の通りです。
双極性障害はよくある病気ですか?
成人の約50人に1人が、人生におけるどこかの時点で双極性障害になると言われています。通常、15歳から25歳の間に発症しますが、まれに50歳以降1に発症することもあります。
双極性障害にはどのようなタイプがあるのでしょうか?
以下のようなタイプがあります2。
双極性障害I型
- これまでに少なくとも1回、1週間以上(多くはこれよりはるかに長い期間)続く高揚感または躁病エピソードがある方。
- 躁病エピソードしかない場合もありますが、双極性I型は深いうつ状態の時期もある方がほとんどです。
- 未治療の場合、躁病エピソードは通常3ヶ月から6ヶ月続きます。
- うつ病エピソードは比較的長く、未治療で6ヶ月から12ヶ月続きます。
双極性障害II型
- 重篤なうつ病が1回以上あるけれども、軽い躁病エピソードでしかなく、 これは「軽躁病」と呼ばれています。
高速サイクル
- 12ヶ月の間に4回以上の感情の起伏やエピソードがある方。これは双極性障害の10人に1人の割合で起こり、I型とII型のどちらでも起こる可能性があります。
気分循環性障害
- ムードスィングは基本的に双極性障害ほど激しくはありませんが、長く続くことがあります。これが完全な双極性障害に発展することもあります。
双極性障害の原因は?
双極性障害、重篤なうつ病、統合失調症を発症するかどうかには、同様の遺伝的な「危険因子」が関与しています。また環境リスク要因もあり、これらは遺伝的危険因子と相互作用して、これらの状態を発症するリスクを増減させる可能性があります。
たとえば、躁うつ病を発症する可能性が高いことを意味する遺伝的危険因子がある場合があります。しかし、安定した前向きな環境で成長したり生活したりすることにより、深刻なメンタルヘルス疾患を発症するリスクが低下する可能性があります。
うつ病のような深刻な精神疾患の親を持つことは、深刻なメンタルヘルス疾患を発症する最も知られている強力な危険因子です。深刻なメンタルヘルス疾患のある親を持つ子供は、3 分の 1 の確率で深刻な精神疾患を発症する可能性があります。
躁うつ病を発症する原因を考えるときは、さまざまな要因が関係していること、うつ病の原因となる危険因子は 1 つだけではないことを覚えておくことが重要です3。
双極性障害はどのような感じになるのですか?
うつ病
誰しもが時折、うつ病のような気分を味わうことがあります4。それによって生活上の問題を認識し、それに対応することができます。しかし、重度のうつ病や双極性障害のうつ状態ではこれらの感情がより深刻なものとなります5 6。このような状態が長く続くと、通常の生活に支障が出たり、不可能になったりします5。抑うつ状態にあると、以下のうちのいくつか、あるいはすべての状態に気付くようになります。
感情の変化
- 不幸せな感情が消えない。
- 理由もなく涙を流したくなるような気持ち。
- 物事に興味を持てなくなる。
- 何も楽しむことができない。
- 落ち着きがなく、動揺しやすい。
- 自尊心がなくなる。
- 役立たず、不甲斐ない、絶望的な気分になる。
- いつもよりに短気になる。
- 自殺を考える。
思考困難
- 前向きに考えたり、希望を持って考えたりすることができない。
- 簡単な決断でも難しく感じる。
- うまく集中できない。
身体症状
- 食欲の低下と体重の低下。
- 眠れない。
- 早朝に目が覚めて、再び眠ることができない。
- 強い倦怠感がある。
- 便秘になる。
- 性欲の低下。
行動
- 日常の家事でさえも、物事を始めたり、終わらせたりするのが困難になる 。
- よく泣く、あるいは泣きたいのに泣けない。
- 他人を避けてしまう。
躁病
思考や判断に影響を与えるほど、極度に元気で、エネルギッシュで、楽観的な気分になります。自分自身に対して奇怪なことを信じ、誤った判断を下し、困惑、悪影響を及ぼす振る舞いをしたり、時には危険な振る舞いさえするようになることもあります。
うつ病と同様に、日常生活に支障が出たり、あるいは不可能になることがあります。躁病期は人間関係および仕事に悪影響を及ぼすおそれがあります。
症状がそれほど過度ではないときには、「軽躁病」と呼ばれます。それでもあなたの判断や人とのかかわり方に影響を与えることがあります1。
もしあなたが躁病の場合は、自分が以下の状態であることに気がつくでしょう。
感情
- とても楽しくて興奮している。
- とてもいら立っている(多くの場合、自分の極めて楽観的な見方に他者が共感しなかったり、望んでいるように加わってくれなかったりするため)。
- 通常よりも自分が重要な人物だと感じる。
思考
- 新しく面白い考えに満ちている。
- 一つの考えからすぐに別の考えに移り、考えていることや説明しようとしていることが分からなくなる。
- 他者には聞こえない声が聞こえる。
身体
- 活力にあふれていて、いつもよりも活動的
- 眠ることができない、または眠りたくないと思う
- 性欲が高まる。
行動
- 誇大で非現実的な計画を練る。
- 非常に活動的で素早く動き回る。
- いつもの自分とは変わった行動をする。
- 非常に早く話す。他者はあなたの話を理解するのが難しいと感じることもある。
- 衝動的に奇妙な決断をしてしまい、時々悲惨な結果となる。
- 不注意な出費をする。
- 他人に慣れ慣れしくなる、または見境もなく批判的になる。
- 全般的に抑制が効かなくなる。
あなたが初回の躁病エピソードにあるとき、友人、家族あるいは同僚が気づいていても、あなたは問題を認識することができません。誰かがそのことを指摘しようとすると、あなたはむしろ気分を害します。日々の問題や他者の感情が次第に理解できなくなります。
精神病症状
躁病またはうつ病エピソードが極めて深刻になった場合は、妄想観念が出ることがあります1。
- 躁病エピソード-重要な使命に関わっているとか、特別な力や能力があるなどと、自分自身についての誇大な思い込みをもつ傾向があります。
- うつ病エピソード-自分は誰よりも罪深く、最悪な人間であり、または自分が存在すらしていないなどと考えます。
これらの通常とは異なる信念に加え、幻覚を経験することがあるかもしれません。何かが聞こえたり、臭いがしたり、何かを感じたりあるいは見たりしても、そこにはその感覚を説明できるもの(あるいは人)は存在しません。
エピソードが収まってから次のエピソードまでの間
双極性障害がある場合、ムードスィングの間に完全に回復したと感じる人がいますが、多くはそうではありません。(他の人から)気分が良さそうにみえる時でも、抑うつ状態にあり、思考の問題が続いていることがあります。
双極性障害のエピソードがある場合、しばらくの間、車の運転を中断しなければなりません。双極性障害であることを運転免許庁(DVLA)など、運転免許証の発行機関に伝えなければなりません。運転免許庁(DVLA)のホームページに情報があります。
双極性障害の治療
何科の医師にかかったら良いですか?
特にうつ病エピソードがある場合は、まずは一般開業医(GP)に見てもらうといいでしょう。しかし、双極性障害と診断された場合、一般開業医(GP)は専門の精神科医を紹介してくれるはずです。NICE(英国国立医療技術評価機構)のガイダンスでは気分安定剤は、たとえ一般開業医(GP)が治療を引き継いだとしても、専門医が投与を開始しなければなりません7。
精神科医にかかると、他のCMHT(地域精神保健チーム)の人たちも関わってくるかもしれません。チームは、精神面でのサポート、情報提供、心理的な介入や、現実の問題を整理するための手助けをしてくれます。
服用する薬剤が決まり、効果があると認められれば、一般開業医(GP)が治療のほとんどを引き継ぐことができますが、通常は精神科医や地域精神保健チーム(CMHT)と連絡が取れる状態を求められるでしょう。
双極性障害の薬剤
ムードスィングを抑えて、完全な躁病やうつ病のエピソードを起こさないよう役立つ方法がいくつかあります。その方法は後述しますが、次のような目的での薬剤による治療が多くの場合必要です。
- 気分を安定させる(予防)
- 躁病またはうつ病エピソードを治療する。
気分を安定させるための薬剤
気分安定剤はいくつかあり、てんかんの治療に使用されたり、統合失調症に効果があるといわれています8。担当の精神科医は、ムードスィングを効果的に抑制するために、複数の薬剤を使用する必要があるかもしれません9。
リチウム
リチウムは気分安定剤として数十年間使用されています。しかし、それがどのような作用で効果があるのかは、まだ分かっていません。現在においてもなお双極性障害の長期的な治療での第一選択薬で、躁病およびうつ病エピソードの両方を治療するために使用されます。
リチウムを用いる治療の開始は、精神科医が担当しなければなりません。体内のリチウム値を適正なレベルにすることは難しく、値が低すぎれば効果がなく、値が高すぎれば中毒を生じます。そのため、適正な用量を服用していることを確認するために、最初の数週間は血液検査を定期的に受ける必要があります1 10。ひとたび用量が安定すれば、一般開業医(GP)があなたに合った量のリチウムを処方し、定期的な血液検査をおこないます。
血液中のリチウム量は体内の水分量に非常に敏感です。脱水症状に陥った場合、体内のリチウム値は上昇し、副作用、あるいはさらに中毒症状が起こりやすくなります1。そのため、以下のことが重要となります。
- 水分を十分に取ること。気温が高い時、あるいは活動中にはより多くの水を飲むこと
- お茶やコーヒーには注意すること。これらの飲み物は尿中に排出される水分量を増加させます。
リチウムの効果が十分に現れるまでには、3ヶ月かそれ以上かかります。この期間に気分変動が続いたとしても、リチウムの服用を続けることが大切です。
副作用
リチウムによる治療を始めてから数週間で副作用が出現します。いらいらする不快な症状ですが、時間が経つにつれてそれらの症状はたいてい消えていくか、あるいは改善します。
副作用には以下の症状が含まれます。
- 喉の渇き。
- 普段よりも尿の量(と頻度)が多くなる。
- 体重増加。
まれに見られる副作用は以下の通りです。
- 視界がぼやける。
- 軽度の筋力低下。
- 不定期に起こる下痢。
- 手の細かい震え。
- やや体調が悪いと感じる。
通常、これらの症状はリチウムの用量を減らすことで改善します。
下記の症状が起こる場合、リチウム値が高すぎるかもしれません。気づいたら、ただちに医師に連絡してください。
- 強い喉の渇き。
- ひどい下痢または嘔吐。
- 手足の明らかな震え。
- 筋肉のけいれん。
- 意識がぼんやりしたり混乱したりする。
血液検査・尿検査
最初は数週間ごとに血液検査を受け、血液中のリチウム値が適切か確認する必要があります。リチウムを服用している間は血液検査を受けなければいけませんが、最初の数カ月が過ぎたら検査の頻度を減らすことができます。
リチウムを長期にわたって服用すると、腎臓または甲状腺に影響を与えるおそれがあります。これらの臓器が適切に機能していることを確認するために、数ヶ月ごとに血液検査・尿検査を受けることが賢明です。もし何か問題があればリチウムの服用を止めて、代わりの治療法を考える場合があります。
自己管理5
- バランスの取れた食事をすること。
- 糖分が含まれない飲み物を定期的に飲むこと。体内の塩分と水分のバランスを保つのに役立ちます。糖分の多いコーラやソフトドリンクは避けましょう。
- 規則正しく食事をすること。これも体内の水分バランスを保つのに役立ちます。
- お茶、コーヒー、コーラに含まれるカフェインに注意すること。カフェインは利尿作用があるため、体内のリチウム量が乱れることがあります。
その他の気分安定剤
リチウム以外にも有効な薬剤があります。躁病とうつ病のどちらに使うか、気分の変動を防ぐ目的か、また抗うつ薬をすでに服用しているかによって、これらの薬が使い分けられます。
- 抗てんかん薬:
- 抗てんかん薬のバルプロ酸ナトリウムは、リチウムと同等の効果があると考えられています。しかし、科学的根拠はまだ十分ではありません。妊娠中に服用すると胎児に悪影響を与えるおそれがあるため、妊娠する可能のある人に処方すべきではありません。
- カルバマゼピンやラモトリジンも、人によっては効果があります。
- 抗精神病薬:ハロペリドール、オランザピン、クエチアピン、リスペリドンなど。
気分安定剤の服用を開始する時期
1回のエピソードがあっただけでは、再発の可能性を予測することは困難です。躁病エピソードが極めて重症で悪影響が大きいものでなければ、この段階で気分安定剤を開始することは望まれないかもしれません。
2回目のエピソードを経験した場合は、さらにエピソードが起こる可能性が極めて高くなります。そのため、通常この時点で気分安定剤を強く勧められます。
気分安定剤はどれくらい長く続ければよいでしょうか?
双極性障害のエピソードが一回起こった後。
- 躁うつ病のエピソードの後少なくとも2年間。
- 以下のことが当てはまる場合は5年間の服用が必要です。
- 過去に再発を頻繁に経験した
- 精神病症状を伴うエピソードがある
- アルコールまたは薬物乱用
- 家庭または職場での継続的なストレス。
もし服用を中止する場合は医師に相談してください。通常、双極性障害の薬剤をやめてから2年間は、再発の兆候がないか確認するため精神科医に通い続けることが望ましいとされています。
厄介な気分変動が続く場合は、より長く薬剤による治療を継続する必要があります。
最善の薬剤は何ですか?
医師と話し合う必要がありますが、一般的原則は以下の通りです。
- 通常はリチウムが第1候補です。バルプロ酸ナトリウムが第2候補ですが、リチウムと一緒に処方されることもあります。リチウムやバルプロ酸ナトリウムが効かない場合は、オランザピンを試すことがあります。
- また、特に躁病エピソードの間に抑うつ状態が続く場合には、クエチアピンが使用されることがあります8。
- 双極性Ⅱ型障害、および双極性障害によるうつ病には、ラモトリジンが提案されるかもしれませんが、躁病の治療薬としては使用されません。
- 時には、多剤併用療法が必要になる場合もあります。
多くは、特定の薬剤が本人にどれほど効果があるかに左右されます。ある人に適する方法が別の人には適さないこともあります。
薬剤による治療を受けないとどうなりますか?
リチウムは再発率を30~40%まで減少させますが8、これまでに躁病エピソードの回数が多いほど、今後も起こる可能性が高まります。
過去の躁病エピソードの回数 | 翌年に躁病発作が起こる可能性 | |
---|---|---|
リチウム服用なし | リチウム服用あり | |
1-2回 | 10% (100人中10人) | 6-7% (100人中6-7人) |
3-4回 | 20% (100人中20人) | 12% (100人中12人) |
5回以上 | 40% (100人中40人) | 26% (100人中26人) |
年齢を重ねても、発作の再発率はほとんど変わりません。長期間調子が良くても、依然として発作が再発する危険性があります。
妊娠と双極性障害の治療
精神科医と妊娠の計画について話し合ってください。妊娠中および出産後数カ月間の気分の管理方法について、前もって準備することができます。妊娠中または妊娠を予定する場合、リチウムとバルプロ酸ナトリウムは処方されるべきではありません。
リチウム服用中に妊娠した場合は、服用を中止するかどうかを精神科医と話し合いましょう。他の気分安定剤に比べ、リチウムは妊娠中に服用しても安全ですが、胎児に心臓の異常をもたらす大きな危険性があります。あなたが抑うつ状態となる、あるいは躁病になる危険性にも考慮しつつ、胎児への危険性を慎重に検討する必要があります。
胎児への危険性は妊娠3カ月目までの期間が最大となります。妊娠26週目以降のリチウム服用は安全ですが、リチウムを服用している場合は授乳をしてはいけません。乳児に悪影響を与えるおそれがあります12。
心理療法を始める可能性を話し合う価値はあるでしょう。
妊娠中はすべての関係者(産科医、助産師、保健師、一般開業医(GP)、精神科医、そして地域精神科専門看護師)が互いに連絡を取り合う必要があります。
双極性障害の心理療法
うつ病エピソードの最中、または躁病およびうつ病エピソードの間の期間には、心理療法が役立ちます1 5 11。心理療法には含まれるものは以下の通りです。
- 心理教育。双極性障害についてもっと知る。
- 気分の観察。気分が変動し始めたタイミングに気付くことができるようになります。
- 一般的なストレス対処能力を向上させるための支援。
- うつ病発作中、および発作中に行う認知行動療法 (CBT: Cognitive Behavioural Therapy) 。治療は通常3~4カ月間にわたり、1時間のセッションを約16~20回行います。
- 対人関係療法(IPT: Interpersonal Therapy)
- カップル療法
- 家族会議
躁病およびうつ病エピソードを治療する
うつ病の発作
- うつ病が少なくとも中程度に深刻な場合、医師は次のことを提案するかもしれません。
- フルオキセチン(SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)抗うつ薬)とオランザピン(気分安定剤として作用する抗精神病薬)
- クエチアピン
- 上記の選択が役に立たなかった場合は、他のオプション。
- リチウムまたはバルプロ酸ナトリウムをすでに服用している場合は、クエチアピンを追加すると役立つことがあります。
- 最近躁病エピソードを経験したか、急速な周期性障害を持っている場合、抗うつ薬は躁病のパニック発作を引き起こす可能性があります。抗うつ薬を使わずに、気分安定剤の用量を増やす方が安全かもしれません。
- 抗うつ薬は気分を改善するのに2週間から6週間かかりますが、睡眠と食欲が最初に改善することがよくあります。抗うつ薬は、うつ病が改善した後も4週間継続する必要があります。その後、あなたと主治医は、投薬を継続する方法や、対話療法を試すかどうかについて話し合うことができます。抗うつ薬を中止する場合は、完全に中止する前にゆっくりと減らす必要があります。
- うつ病エピソードを繰り返したものの、抗うつ薬で躁病に切り替えたことがない場合は、気分安定剤と抗うつ薬の両方を継続して、さらなる発作を防ぐことができます。
- 躁病エピソードを経験したことがある場合は、抗うつ薬を長期間服用しないでください。
躁病および混合性うつ病エピソード
抗うつ薬はすべて中止する必要があります。躁病エピソードの治療には、ハロペリドール、オランザピン、クエチアピン、またはリスペリドンを使用できます。これらがうまくいかない場合は、リチウムを追加できます。
治療を開始すると、通常は数日以内に症状が改善しますが、完全に回復するには数週間かかる場合があります。この種の薬剤を服用しながら運転したい場合は、医師に確認してください。
その他の援助
たとえば、気分が高揚している時期に高額出費をしてしまうなどの問題がおきたら、銀行や債権者とあなたとの交渉を、メンタルヘルスチームが援助するべきです。そのような問題が過去に起きたならば、信頼できる介護者または親せきにあなたの責任を委任することを検討する価値があるかもしれません。
ムードスィングの管理
自己モニタリング
気分が制御不能になっている兆候を認識して、早期に助けを得る方法を学びましょう。本格的な発作と入院の両方を回避できる場合があります。自分の気分を記録する日記をつけると、生活の中で役立つものとそうでないものを特定することに役立ちます。
知識
病気についてできる限り多くのことを調べてください。この案内書の最後に詳細な情報源があります。サポートグループと介護組織について参照してください。
ストレス
特にストレスの多い状況を避けるようにしてください。そうでないと躁病またはうつ病エピソードを引き起こす可能性があります。すべてのストレスを避けることは不可能です。CDやDVDでリラクゼーション・トレーニングを行ったり、リラクゼーション・グループに参加したり、臨床心理士に助言を求めることができます。
人間関係
うつ病や躁病は、友人や家族に多大な負担をかける可能性があります。発作の後で、関係を再構築する必要があることに気付くかもしれません。
信頼できる人が少なくとも1人いると便利です。元気になったら、大切な人に病気のことを説明してみてください。あなたに何が起こるか、そしてあなたのために何ができるかを理解してもらう必要があります。
活動内容
生活と仕事、余暇、家族や友人との関係のバランスを取るようにしてください。忙しすぎると、躁病エピソードを引き起こす可能性があります。
緊張から解放されて気を休める時間を十分に確保してください。失業しているならば、何かしら習い事を始めたり、メンタルヘルス疾患とは関係のないボランティア活動を行うことを検討してみてください。
エクササイズ
週に3回、適度に激しい運動を20分程度行うと、気分が良くなるようです。
遊び
あなたがやっていて楽しいと思うこと、人生に意味を与えることを、定期的に行うようにしてください。
薬の服用を続けてください。
医師が安全だと判断する前に薬剤を止めたいと思うかもしれませんが、これは別の気分変動につながる可能性があります。体調が良くなったら、主治医や家族と話し合ってください。
双極性障害の治療方法について意見をお聞かせください
双極性障害で入院した場合は、主治医や家族と一緒に次のことを書き留めると良いでしょう。
- 病気が再発した場合にどのように治療を受けたいかを説明するための「事前説明書」(健康やケアにとって重要と思われる情報を含めることができます。)
- 受けたくない特定の治療がある場合の「事前決定」。
一般開業医(GP)には何が期待できますか?(イングランドとウェールズのみ)
躁うつ病のためにリチウムまたはその他の薬剤を服用している場合、一般開業医(GP)から年1回、健康診断を受けることになっています1。診断される項目は次の通り。
- 血圧。
- 体重と体格指数 (BMI)。
- 喫煙とアルコールの使用。
- 血糖値。
- 脂質レベル。40 歳以上のすべての患者が対象。
- リチウムを服用している場合は、以下が必須検査項目となります。
- 3~6カ月ごとのリチウムレベルチェック。
- 6カ月ごとの甲状腺機能と腎機能の血液検査。問題がある場合は、これらの血液検査をより頻繁に行う必要がある場合があります。
家族や友人のための情報
躁病やうつ病は、患者の家族や友人にとって苦悩に感じられるでしょう。疲労困憊する方もいることでしょう。
気分変動発作への対処
うつ病
非常に落ち込んでいる人に何を言うべきかを理解するのは、難しいものです。彼らはすべてを否定的な見方で見ており、あなたに何をしてほしいかを言うことができないかもしれません。彼らは、内向的になり、些細なことで腹をたてると同時に、あなたの助けとサポートを必要としていることもあるのです。彼らは不安を抱えていても、助言を受け容れるつもりがない、もしくは受け容れられないことがあります。辛抱強く理解するようにつとめましょう。
躁病
躁病のムードスィングが始まると、躁病の人はハッピーでエネルギッシュで外向的になります。パーティーやディスカッションでは「盛り上げ役」です。しかし、そのような状態で感情が高ぶり、気分が一層高揚します。そのような状態から注意を他にそらすように努力してください。他者の助けを得るように説得することも良いでしょう。病気やセルフヘルプの情報を得るよう説得することもできるかもしれません。
実用的な手助けはとても大切で、とても喜ばれます。あなたの親せきや友達が適切に患者の面倒を見ることができるよう配慮してください。例えば、請求書を支払うなど実用的で日常の雑務が手抜かりなく対処されるように。
あなたの愛する人たちが健全でいられるよう手助けしてください
気分変動発作の合間に、双極性障害についてもっと知りましょう。友人や愛する人と一般開業医(GP)または精神科医の予約を取りに行くのもいいかもしれません。
地元の精神科医は、ご家族に援助や家族集会や双極性障害の情報を提供してくれるはずです。
あなた自身が健康でいてください
ご自分が充足する場所と時間を確保してください。自分のためだけに使う時間、または必要な助けを与えてくれる友人と過ごす時間をきちんと確保してください。親せきや友人が病院へ行かなくてはならなくなったら、誰かほかの人と分担して面会してあげてください。あなたが疲労をためなければ、友人や親せきをより良く援助できます。
緊急時の対応
- 躁病が酷いと、敵意を持ったり、猜疑心が強くなったり、言動が激しくなります。
- 重篤なうつ病のときは、自殺を考え始めるかもしれません。
もし誰かが、次のような状態の時。
- 飲食をせず深刻な自己放任状態になっている
- 自分自身をまたは他人を危険にさらす行動をとる
- 自傷や自殺について話す
直ちに医療の援助を求めてください。 メンタルヘルストラストや救急救護隊の救急電話番号が探せばあるかもしれません。救急救命室は1日24時間可能な精神科医が所属しています。
そのような緊急の時でも電話できる信頼にたる専門家の名前(と電話番号)を控えておいてください。病院への短期入院が必要になるかもしれません。
双極性障害者の子どもの世話
自分が躁病になったりうつ病になったりすると、しばらくの間、お子さんの面倒をみるのが難しくなります。あなたが体調を崩している間、パートナーや家族のみなさんがお子さんの面倒をみる必要があるでしょう。体調が良いうちに、あらかじめ計画を立てておくとよいでしょう。
あなたのお子さんは、あなたの体調が悪いことで、不安になったりうろたえているかもしれません。苦悩を言葉で表せない乳幼児は、ぐずったり、しがみついて離れたがらない傾向があるようです。年長の子どもは不安を別の方法で表します。
周りの大人たちが機敏で、理解があり、子どもの質問や問題に冷静かつ一貫して協力的に対応すれば、子どもはそれが役に立つと思うはずです。親がなぜ普段と異なる行動をするのか、子どもが理解できるよう周りの大人が援助することができます。子どもたちが理解できる言葉で、冷静に、事実に基づいて、子どもの質問に応えてあげることが大事です。普段の日課を守れれば、子どもは気分が良くなるはずです。
双極性障害を子どもに説明する
年長の子どもたちは、自分も親と同じ病気になるのではないかと不安になることがあります。子どもたちが自責の念に囚われず、自分の時間、自分への支援が得られるのだ、という安心感が必要です。年長の子どもが病気の親の世話をするようになったら、特別な理解と実際的な支援が必要になります。
サポートグループと介護組織
バイポーラ―UK(Bipolar UK)
Bipolar UKは、双極性障害を持つ人々とその友人や介護者にサポートと助言、そして情報を提供します。
仲間支援ライン(Peer support line): 07591375544 (留守番電話で返信)
バイポーラー・フェローシップ・スコットランド(Bipolar Fellowship Scotland)
Bipolar Fellowship Scotlandは、双極性障害を持つ人々とその世話をしているすべて人々に情報と支援、助言を提供します。同団体はスコットランドで自助を促進し、病気と組織について啓蒙教育をしています。
電話: 0141 560 2050
サイド・バイ・サイド マインド・オンライン・コミュニティー(Side by Side - MIND online community)
Side by Sideは、メンタルヘルスについて家庭で話しているようにサポートするオンライン・コミュニティーで、あなたが経験している事を理解してくれる他者とつなぎます。
マインド・ヘルプラインズ(MIND Helplines)
MINDはメンタルヘルスを話し合うヘルプラインを提供しています。
サマリタンズ(Samaritans)
Samaritansは、不安を抱える人、怒りを持つ人、自殺願望のある人に、プライバシー厳守の中立的サポートを電話とeメールで1日24時間提供します。
電話:116 123
eメール:jo@samaritans.org
参考文献
- Fast A. J., Preston J. D.Loving someone with bipolar disorder: understanding and helping your partner.New Harbinger Publications; 2012.
- Geddes, J.(2003) Bipolar disorder.Evidence Based Mental Health, 6 (4):101-2.
- Goodwin, G.M.(2009) Evidence-based guidelines for treating Bipolar disorder: revised third edition - recommendations from The British Association for Psychopharmacology.Journal of Psychopharmacology, 30(6); 495-553.
- Kay Redfield Jamison.An unquiet mind.Alfred A. Knopf; 1995.
一般向けNICE情報
- 双極性障害のNICE品質基準
- NICE CG185:Bipolar Disorder: the assessment and management of bipolar disorder in adults, children and adolescents, in primary and secondary care (2014)
- Morriss, R.(2004)The early warning symptom intervention for patients with bipolar affective disorder.Advances in Psychiatric Treatment, 10:18 - 26.
- Persaud R., Royal College of PsychiatristsThe Mind:A User's Guide.Bantam; 2007.
クレジット
Produced by the RCPsych Public Engagement Editorial Board
シリーズ エディター: フィル・ティム博士(Dr Phil Timms)
シリーズ マネージャー: トーマス・ケネディー(Thomas Kennedy)
© August 2020 Royal College of Psychiatrists
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This translation was produced by CLEAR Global (May 2023)