外傷体験を理解し、克服する

Coping after a traumatic event


 

 

はじめに

突然の病気、事故、暴力あるいは自然災害-これらの出来事すべてが外傷的経験(トラウマ)に当てはまり、混乱や苦痛が生じる場合があります。このような経験は、強い影響力を持つため、感情が不安定になることがあります。たいていは時が経てば専門家の助けがなくても落ち着きます。

このリーフレットは、以下の場合に役立つでしょう:
  • 外傷となる経験をしたことがあり、自分がどのように感じているかについてもっと理解したい。
  • 外傷となる経験をした人を知っていて、その人がどのように感じているかもっとよく理解したい。
  • 外傷後に起こる感情の種類や、時間が経つにつれて予想されることを記述してあります。外傷の対処法や、その出来事を受け入れるいくつかの方法についても述べています。
外傷となる出来事は、自分自身や他者に危害や危険を及ぼす可能性が高い状況にいる場合に生じます。このような状況では、人はたいてい恐怖や多くのストレスを感じます。また、自分ではどうすることもできないと感じてしまいます。

外傷となる出来事とは?

外傷となる出来事には、次のようなものが挙げられます:
  • 重大な事故
  • 生死に関わる病気であると伝えられた
  • 死別
  • 身体的攻撃、性的暴行、強盗もしくは路上強盗のような個人に対する激しい暴力
  • 軍事戦闘
  • 自然災害や人災
  • テロ攻撃
  • 人質になる
  • 捕虜になる

外傷の直後にはどうなりますか?

外傷となる出来事にあった直後には、人はショックを受けたり、無感覚になったり、起こったことを受け入れられないことがよくあります。

ショック-ショック状態の時には、以下のように感じます:
  • 唖然、茫然とする、あるいは感覚が麻痺する。
  • 自分の感情、または周囲で起こっていることから切り離されたように感じる。
否認-否認の状態にある時、人は起こったことを受け入れず、何もなかったかのように行動します。周囲の人たちは、あなたがしっかりとしているとか、起こったことを気にしていないのだと思うかもしれません。

数時間あるいは数日を過ぎると、ショックや否認の感情は次第に弱まり、別の思考や感情に変わっていきます。

次に何が起こりますか?

反応は人それぞれで、起こったことを受け入れるのに要する時間も異なります。それでも、あなたは自分の感情の強さに驚くかもしれません。入り交った感情を経験するのは当然のことです。以下のように感じるでしょう:
  • 恐怖-同じことが再び起こるのではないか、もしくは感情のコントロールを失って、取り乱すかもしれない。
  • 無力感-非常に悪いことが起こってしまい、それについて何もできなかった。自分は無力で弱く、押しつぶされそうに感じます。
  • 怒り-起こった出来事や、それに責任がある人に対して。
  • 罪悪感-苦しんだり亡くなったりした人がいるのに、自分は生き残ってしまった。それを防ぐために自分にできることがあったかもしれないと考えるかもしれません。
  • 哀しみ-特に誰かが負傷したり亡くなったりする。とりわけ自分の知っている人の場合。
  • 恥または困惑-自分ではコントロールできない強い感情。特に他者の援助が必要な場合に感じることが多いです。
  • 安心-危険が終わりその危険が過ぎ去ってしまったことに対して。
  • 希望-生活が普段の状態に戻ることに対して。外傷のすぐあとには、人は物事についてよりポジティブに感じ始めます。

他にどんなことに気付きますか?

強い感情はあなたの体の健康に影響を及ぼします。外傷体験から数週間経つと、あなたは以下のことに気付くかもしれません:
  • 眠れない
  • 非常に疲れている
  • 多くの夢や悪夢を見る
  • 集中力がない
  • 記憶力に問題がある
  • 考えがまとまらない
  • 頭痛がする
  • 食欲に変化が生じる
  • 性欲や性的衝動に変化が生じる
  • 体があちこち痛い
  • 心臓の鼓動が速くなっているのを感じる

何をすべきでしょうか?

  • じっくり時間をかける
起こってしまったことを受け入れ、それとともに生きることを学ぶには、数週間あるいは数カ月かかります。失ってしまったもの(人)を深く悲しむ必要があるかもしれません。
  • 起こったことの真相を知る
起こっていたかもしれないことについて思いを巡らすよりも、起こったことの現実に直面する方がよいのです。

  • 同じような経験をした人と関わりを持つ
もし葬儀や追悼式に行くことがあれば、これらの機会は起こってしまったことを受け入れるのに役立つかもしれません。同じ経験をしてきた他者と時間を過ごすことが役に立つことがあります。

  • 援助を求める
起こったことについて話すとホッとすることがあります。友人や家族に話をする時間を割いてくれるよう、頼む必要があるかもしれません。恐らく最初は、友人、家族は何を言うべきか、何をすべきかわからないでしょう。

  • 自分のための時間を取る
時には一人になりたい、あるいは親しい人とだけ一緒に居たいと思うかも知れません。

  • 話し合う
少しずつ、外傷体験について考え、それを誰かと話してみてください。話しながら泣いてしまうことを心配しないでください。当然なことですし、回復の助けになります。あなたが苦痛を感じないペースで進めていきましょう。

  • 日常に戻る
たとえあまり食べる気がしなくても、規則正しい、バランスのよい食事を取るように努めます。運動はいいことですが、徐々に始めてください。

  • 他の人達と「普通の」ことをする
時には他の人達と一緒に居たくなりますが、起こった出来事については話したくないでしょう。これも回復していく過程の一部になります。

  • 気を付ける
外傷の後は、人は事故を起こしやすくなります。家の周りや運転時には注意しましょう。

すべきではないことは?

  • 感情を抑えない
強い感情は自然のものです。それを恥ずかしいと思わないでください。感情を抑えるとさらに悪いふうに感じ、健康を害すことがあります。起こったことについて話してみましょう。泣いてしまっても心配しないことです。

  • 引き受け過ぎないこと
忙しくしていると出来事から気を逸らすことができますが、それを乗り越えるためには考える時間が必要です。そうすることで受け入れられるようになります。時間をかけて、かつての日常に戻るようにしましょう。

  • お酒や薬物に頼らない
お酒や薬物は、痛ましい記憶を少しの間消し去ることができるかもしれませんが、出来事を受け入れられるようにはなりません。またうつ病や他の健康問題を引き起こすこともあります。

  • 生活に大きな変化はつけない
大きな決断はすべて先送りにするよう努めましょう。最適な判断ができる状態でないため、後で後悔する選択をしてしまうかもしれません。信頼している人からアドバイスをもらってください。

いつ専門家の助けを借りるべきですか?

家族や友人は、恐らくこの困難な時期を支えてあげることができるでしょう。多くの人は1カ月もすると、外傷となる出来事の後に経験する感情が次第に弱まっていくのが分かります。

しかし、感情が手に負えない場合やあまりにも長く続いている場合には、専門家に相談する必要があります。

以下の場合には、かかりつけ医に助けを求めるべきでしょう:
  • 感情を分かち合ってくれる人が誰もいない。
  • 自分の感情に対処できず、哀しみ、不安または緊張感に圧倒されるように感じる。
  • 6週間経っても普段の状態に戻っていないと感じる。
  • 悪夢を見て眠れない。
  • 親しい人とうまくやっていけない。
  • 他の人達を避けることが増えている。
  • 仕事に支障がでている。
  • 助けを求めるように周囲の人から勧められる。
  • 事故を起こす。
  • 感情に対処するため、過度の飲酒、喫煙、もしくは薬物を使用している。

外傷後ストレス障害とは何ですか?

外傷となる出来事に続いて、外傷後ストレス障害(Post-traumatic Stress Disorder; PTSD)と呼ばれる病気を経験する人もいます。PTSDを発症した人に最もよくみられる症状には、以下のようなものがあります:
  • 鮮明で悲惨な記憶、または夢を通して外傷を追体験する。
  • 外傷となった出来事を思い出させる状況を避ける。
  • 通常持っている様々な感情がまるでないかのように無感覚になる。
  • 「神経が張りつめた」状態にある-警戒している。
PTSDと思われる症状がある場合は、専門家の助けを求めるべきです。

どのような専門的治療がありますか?

かかりつけ医は、外傷の治療を専門としている人に相談するよう勧めるかもしれません。そのような専門家は、カウンセリングや心理療法のような対話療法を用いるでしょう。例えば、認知行動療法と呼ばれる対話療法は効果的であると証明されています。

あなたと同様の外傷を経験してきた人達のためのサポートグループがあるかもしれません。同じような感情や経験をした人たちからの話は役に立つでしょう。

かかりつけ医に薬を処方してもらえますか?

外傷後、薬物療法が役に立つ場合があります。それでも、定期的に医師の診察を受け、治療の効果を見てもらうことは重要です。

精神安定剤
外傷後に生じる不安を軽減させる薬があります。一般的に「精神安定剤」と呼ばれ、ジアゼパム(バリウム)、ロラゼパム(アティバン)、テマゼパム(Temazepam;日本では未発売)などが挙げられます。このような薬は、睡眠導入効果もあります。

精神安定剤は短期間であれば不安や睡眠障害の改善に有効ですが、1-2週間以上服用すると、次のようなことが起こります:
  • 体が薬に慣れて、効果がなくなる。
  • 同じ効果を得るために、服用量を増やさなければならなくなる。
  • 薬に依存してしまう可能性がある。
抗うつ薬
外傷後、うつ病になることがあります。うつは通常の悲しみとは違い、身体的健康に影響し、長期間に及ぶため、より一層悪い状態です。うつ病は、抗うつ薬、あるいは、カウンセリングや心理療法のような対話療法のどちらかで治療することができます。


役立つリンク集

  • UK Trauma Group には外傷後ストレス反応について、一般の方と医療従事者に役立つ情報の資料へのリ ンクがあります。
  • David Baldwin's Trauma Pages website

さらに詳しく知るための資料

Overcoming Traumatic Stress (著者:Claudia Herbert、Ann Westmore。出版社:Constable & Robinson)このセルフ・ヘルプの本は、認知行動療法に基づいています。実践的なアドバイスと実践での練習で、外傷ストレスに対処し、克服するための新しい効果的な方法の見つけ方を教えてくれます。

参考文献

  • Bisson J.I., Roberts N. & Macho G. (2003). The Cardiff traumatic stress initiative: an evidence-based approach to early psychological intervention following traumatic events. Psychiatric Bulletin, 27, 145-147.
  • Bisson J.I., Bolton J., Mackway-Jones K. and Guthrie E. (2007) Major disaster planning, inHandbook of Liaison Psychiatry, Eds. Lloyd G.G. and Guthrie E. Cambridge University Press.
  • Bonanno, G.A. (2004). Loss, trauma, and human resilience. Have we underestimated the human capacity to thirve after extremely aversive events? American Psychologist, 59, 20-28.
  • Galea, S., Ahern, J., Resnick, H., Kilpatrick, D., Bucuvalas, M., Gold, J., & Vlahov, D. (2002). Psychological sequelae of the September 11 terrorist attacks in New York City. New England Journal of Medicine, 346, 982-987.
  • Mellman T.A., Bustamante V., David D., et al. (2002). Hypnotic medication in the aftermath of trauma. Journal of Clinical Psychiatry, 63, 1183-1184.
  • National Collaborating Centre for Mental Health (2005). Post-traumatic stress disorder: the management of PTSD in adults and children in primary and secondary care. London?Leicester: Gaskell and the British Psychological Society.

Translated by Naoko Ogura, Kei Matsuura and Dr Nozomi Akanuma. August 2013.

© [2013] Royal College of Psychiatrists. This leaflet may be downloaded, printed out, photocopied and distributed free of charge as long as the Royal College of Psychiatrists is properly credited and no profit is gained from its use. Permission to reproduce it in any other way must be obtained from the Head of Publications. The College does not allow reposting of its leaflets on other sites, but allows them to be linked to directly.

Get in contact to receive further information regarding a career in psychiatry