統合失調症

Schizophrenia

このリーフレットについて

このリーフレットは、次のような方のためのものです:
  • 統合失調症と診断されている
  • 自分は統合失調症かもしれないと思う
  • 統合失調症と診断された人が周囲にいる
  • 統合失調症についてもっと知りたい

リーフレットの内容

  • 統合失調症に罹るとどうなるのか
  • 統合失調症の発症の原因
  • 統合失調症の治療
  • 統合失調症の症状と付き合うためには
  • 統合失調症と診断された方の家族への情報

なぜ「統合失調症」という言葉を使うのですか?

統合失調症というと嫌なイメージがありがちです。マスコミはよく、凶暴性や混乱している状態を表現するときに、この言葉を不適切に、あるいは不正に用います。そのため、この診断を受けた多くの人が、この病名は不利益だと考えるのも無理はありません。この診断を受けたことによって、(そんなことは実はないのに)まるで凶暴で抑制がきかない人間だと決めつけられたかのように感じられます。

しかし、この病気の症状や症状によって起こる行動の特徴を表現するのにいい言葉が今のところ他にないため、このリーフレットではこの病名を使用しています。用語そのものは必ずしも満足がいくものでないとしても、このリーフレットの情報があなたの役に立つこと願っています。

統合失調症とは?

あなたがどのように「考え」、「感じ」、「行動する」かが影響を受ける、こころの病です。症状はよく「陽性症状」、「陰性症状」と表現されます。

「陽性」症状

統合失調症によく見られる症状で、通常では体験されないような現象です。ただ他の精神疾患の方にも起こりえます。

幻覚

何かが聞こえたり、臭いがしたり、身体のどこかに何かを感じたり、何かが見えたりするものの、実際にそれらを引き起こす物や人は存在しない場合、幻覚と言います。最もよく起こるのは幻聴(そこにはない声が聞こえること)です。
 

声(幻聴)はどのように聞こえるのですか?

声は本当に現実のもののように聞こえます。声は、他の人には聞こえませんが、たいてい 自分の外から聞こえてきます。別々の場所から聞こえたり、ある決まった場所や物から聞こえたりします。あなたに直接話しかけてきたり、複数の声があなたのことについて話したりしています。まるで他の人たちの会話がもれ聞こえてくるかのようです。内容は心地よいものであることもありますが、無礼であったり、批判してきたり、罵倒してきたり、ただ単にイライラさせるものであったりもします。

人は声にどのように反応しますか?

ただ声を無視することもあれば、返答することもあります。声が特別にうるさかったり不快なものだったりすると、どなり返したりします。声が指示することに従わなくてはいけないと感じることもありますー従ってはいけないとわかっていてもです。声が隠しマイクや拡声器、あるいは霊的世界から聞こえてくるのではないかと考えることもあります。

声はどこから来るのですか?

声は想像で聞こえているのではなく、実際に聞こえています。しかし、それはあなたの思考から生み出されたものです。声が聞こえている時の脳の画像を見ると、あなたが話したり言葉を考え出す時に活動している脳の部分とまったく同じ領域が機能しています。脳は、あなた自身の考えや「心の中で話していること」を、外から聞こえてくる声と勘違いしているのでしょう。

統合失調症を持つ人でなくても声が聞こえたりしますか?

重度のうつ病の人にも声が聞こえることがありますが、通常もっと単純で、否定的、批判的な言葉や言い回しが繰り返し聞こえてくることが多いようです。これらの場合、声は日常生活に支障をきたすことはありません。それらの声が快かったり、あまりうるさくなかったり、または時折起こるだけの場合はたいてい、治療を必要としません。

他の種類の幻覚

そこに存在しないものが見えたり、臭いがしたり、味を感じたりすることもあります。体に不快な感じや痛み、触られたり叩かれたりするような感じを経験する人もいます。

妄想

あなたが何かを絶対にそうだと確信しているにもかかわらず、他の人にとってはあなたがただ現実を勘違いしているとしか思えない時、妄想と言います。それは、まるであなたの物の見方が他の人とまったく違うかのようです。あなたはその何かを信じて疑わないのですが、他の人には、あなたの信じていることは間違っていて非現実的で奇妙なものとしか思えません。あなたが自分の考えを他者にあえて伝えようとしても、その考えは相手にとって意味を成しません。あるいは、あなたが「そうだということがわかっている」だけで、うまく説明できません。このような考えは、あなたの文化や生い立ち、信仰する宗教では説明できないものです。

妄想はどのように始まるのですか?

  • その考えは、周りで起こっていることがやっと理解できたかのように、突然浮かび上がることがあります。何かがおかしいけれどそれが何かわからないと、何週間、何ヶ月も思いあぐねたあとに起こることもあります。
  • 妄想は、幻覚の症状を説明する方法として起こることもあります。例えば、誰かがあなたのことを話しているという幻聴がある場合、スパイが自分を追跡しているという妄想で幻聴を説明しようとします。

被害妄想

被害妄想とは、誰かから迫害されたり嫌がらせをされたりしているという考えです。被害妄想は次のような現れかたをします。
  • 非日常的なこと-国の諜報機関に監視されていると感じます。近所の人が何か特別な力や装置を使ってあなたの邪魔をしようとしていると感じたりします。
  • 日常的なこと-例えばあなたのパートナーが浮気をしていると思い込み始めます。あなたがそう信じる根拠は、二人の性的関係や浮気にはまったく関係のない事柄です。他の人から見ると、浮気が真実だとは到底思えない状況です。
  • 悲しいこと-迫害されていると感じることは明らかにあなたにとって苦しいことです。それはまた、迫害の加害者と思われている相手にとってもつらいことです。それが家族のような近い周りにいる人間だとすればなおのことです。

奇妙な関連付けをすること(関係妄想)

あなたはなんでもない日常的なことに特別な意味づけをはじめます。まるで物事があなたに特別に関連付けられているように感じられるのです。ラジオやテレビ番組があなたのことを話題にしていたり、誰かが奇妙な方法(例えば、道を通り過ぎる車の色を通じて)を使って、あなたに何かを告げようとしていると考えたりします。

妄想との付き合いかた

  • 妄想はあなたの行動に影響することもあれば、しないこともあります。
  • 妄想について他の人に話すのは難しいことです。あなたは他の人がそれを理解してくれないと気づきます。
  • もし他の人に傷つけられたり嫌がらせをされると思ったら、あなたはその考えを自分のうちに秘めておくでしょう。
  • もし脅かされていると感じたら、あなたはその人に何らかの形で仕返しをしようとするかもしれません。
  • あなたは迫害されているという感覚から逃れるために、あちこちへ引越しを繰り返すかもしれません。

考えがまとまらない(「思考障害」)

何かに集中することが難しくなります。例えば、こんなことが特に難しくなっていきます。
  • 新聞記事を読み終えることやテレビ番組を最後まで見ること
  • 学校での授業についていくこと
  • 仕事に集中すること
あなたは思考をうまくまとめることができなくなります。何かを考えている最中に、明らかなつながりがないようなことに考えが飛びます。次の瞬間、実は何を考えようとしていたか思い出せなくなります。人によってはこの状態を「霧がかかっている」とか「靄がかかっている」と表現します。思考がこのようにつながりを失うと、他の人は、あなたの言っていることを理解することが難しくなります。

誰かに操られているという感覚

あなたは次のように感じます。
  • 考えが、まるで誰かに抜き取られたかのように、突然なくなります。
  • まるで他の人の考えが挿入されたかのように、自分の思考が自分のものでないように感じます。
  • 体が誰かに乗っ取られたり、操り人形やロボットのように誰かに動かされているように感じます。
こういった体験をラジオや、テレビ、レーザー光線のせいだと考えたり、体の中に機械が埋め込まれているせいだと考える人もいます。また、魔女や呪い、神や悪魔の仕業と考える人もいます。

「陰性」症状

  • 健常な思考状態、感情、何かをしようとする意欲を失います。
  • 人生への興味がなくなります。活力や感情、「毎日朝起きて生活する」気持ちがなくなっていきます。何かについてわくわくしたり、熱中したりすることが難しくなります。
  • 集中できなくなります。
  • 朝起きたり、外出するのが億劫になります。
  • 洗濯や掃除、身だしなみを整えることをやめます。
  • 人と一緒にいることを快く感じられなくなります。
陰性症状はただの「怠け」ではなく実際の病状であるということを理解するのは、一般の人には難しいでしょう。そのため、あなたにとっても家族にとっても辛い状況になります。家族は、あなたがただしっかりとすればいいだけだと思ってしまいます。あなたは、ただとにかくできないのであって、うまく説明できません。陰性症状は、陽性症状ほど際立った症状ではないものの、生活を困難にすることには変わりはありません。

すべての統合失調症の人がこれら全部の症状が見られるのですか?

いいえ。幻聴や陰性症状があっても、妄想のない人もいます。妄想のみ経験する人の中には陰性症状がほとんどない人もいます。思考障害と陰性症状だけが見られる場合、それらは長い間症状と気がつかれないこともあります。

「病識」の欠如

「病識」がない場合、あなたは、自分以外のすべての人が間違っていて、他の人はあなたがわかっていることをなぜか理解できないだけなのだと思います。そして、問題はあなたの中にあるのではなく、自分以外にあるのだと感じます。

うつ状態

  • 統合失調症を初めて発症した人のほぼ半数が、統合失調症の明らかな症状が始まる前に、抑うつ気分を経験します。
  • 統合失調症の症状が継続してみられる7人のうち1人がうつ状態になります。これは陰性症状と間違えられることもあります。
  • 以前は抗精神病薬によってうつ状態が引き起こされると考えられていましたが、研究によると、抗精神病薬は統合失調症の人のうつ状態を改善させることが示されています。
  • もしあなたが統合失調症で気分の落ち込みも感じている場合、誰かに話して深刻に受け止めてもらいましょう。

統合失調症はどれくらいの割合で発症するのですか?

約100人に1人が、一生のうちにどこかで発症します。

どんな人が統合失調症になるのですか?

男女とも同じ割合で発症します。都市に住む人や少数民族に多いと言われています。15歳未満で始まることは少なく、15歳以上ではどの年齢にでも発症する可能性があります。最も多いのは15歳から35歳までの年代です。

統合失調症の原因は何ですか?

確かな原因はまだわかっていません。人それぞれ、異なる原因が組み合わさって発症すると考えられています。

遺伝

統合失調症は100人に1人の割合で発症すると言われていますが、その中の10人に1人は両親のどちらかが統合失調症に罹っています。

双生児

一卵性双生児の双子は、最小の個体であるDNAに至るまで同一の遺伝子を持っています。片方の一卵性双生児が統合失調症の場合、もう一方の双生児は50パーセントの割合で統合失調症を発症します。

二卵性双生児はお互いに違った遺伝子を持っています。一方の二卵性双生児が統合失調症の場合、もう一方が発症する確率は、双子ではない兄弟・姉妹が発症する可能性よりやや高くなるだけです。双生児が養子に出されそれぞれ違う環境で育っても、これらの確率はほぼ同じです。
統合失調症の家族統合失調症を発症する可能性
なし100人に1人
両親のどちらか10人に1人
一卵性双生児の一方(まったく同一の遺伝子)2人に1人
二卵性双生児の一方(異なる遺伝子)8人に1人

脳の機能障害

脳画像を見ると、統合失調症の人では、脳に他の人と違いがあることも、違いがないこともあります。違いが見られる場合は、脳のある部分が正常に発達しなかったためと思われます。理由としては次のようなことが挙げられます。
  • 出産の際、酸素が新生児の脳に十分に供給されなかった
  • 母親の妊娠初期に胎内でウィルス感染した

麻薬とアルコール

麻薬(違法薬物)が統合失調症の原因になる場合もあります。

アンフェタミン系の薬物が精神病症状を起こすこともありますが、たいてい、使用を止めると症状もなくなります。アンフェタミン系薬物そのものが長期にわたる症状を招く原因なのかまだわかっていませんが、発症しやすい性質をもつ人にとってはその原因となりえます。統合失調症の症状と折り合っていくために麻薬やアルコールを使い始める人もいますが、これらは症状を悪化させるだけです。

大麻

  • 大麻を過度に摂取すると、統合失調症の発症の危険を倍増させるようです。最近の研究では、スカンクなどの強力な種類の大麻はその危険性をさらに高めることがわかっています。
  • 大麻を吸い始める年齢が十代初めである場合、統合失調症を発症する可能性は高まります。
  • 十代に頻繁に(50回以上)大麻を吸うとその影響はさらに大きくなり、そうでない人と較べて発症の確率が6倍になります。

ストレス

症状が悪化する直前にはよく、人生において困難な出来事が起こっています。自動車事故のような突然の出来事や、親しい人との死別や引越しなどです。また、仕事や勉学といった日常の問題であることもあります。家族関係が張り詰めているなどの長期に渡るストレスも症状を悪化させます。

家族問題

一時、家族間のコミュニケーション不全が統合失調症の原因と考えらていました。これは本当ではないようです。しかし統合失調症をすでに発症している場合、家族関係が張りつめていると、確かに症状が悪化することがあります。

困難な幼少期

他の精神疾患と同じく、統合失調症は、幼少時に恵まれず、身体的・性的虐待を受けた人に発症しやすくなります。

統合失調症の人の暴力について

統合失調症の人の一部は確かに暴力的になります。自分を傷つける行為に及ぶことが大抵ですが、他人に暴力を振るうこともあります。他人から迫害されているという考えや、誰かを傷つけるよう命令してくる幻聴が原因で、妄想や幻覚の組み合わせで起こることが多いです。また、麻薬やアルコールが関係している場合は、暴力的になる可能性がずっと高くなります。

経過の見通し

近年は、統合失調症の人の多くは入院する必要がありません。落ち着いた生活を送り、仕事を持ち、長期に渡る人間関係を保つことができます。


5人の統合失調症の人がいれば、おおよそ次のようなことが言えます。
  • 1人は最初の症状が見られてから5年以内に回復します。
  • 3人は回復しますが、その後また再発する時期がきます。
  • 1人は治りにくい症状が長く続きます。

治療を受けないとどうなりますか?

もし幻聴があるだけでそれが気にならなかったり、生活に支障を来すことがなければ、取り立てて助けを求める必要はないかもしれません。しかし、幻聴がひどくなったり不快なものになった場合(あるいは他の症状も併発している場合)、医師に相談しましょう。

自殺は、統合失調症の人にはそうでない人よりも多くみられます。特に統合失調症の症状がある、うつ症状を併発している、治療を受けていない、以前よりも受ける援助が減ったという場合に多いようです。

統合失調症は、初期に治療を受ければ次のような結果が出るという科学的根拠が確立してきています。
  • 入院の必要性が減ります。
  • 自宅で密度の高い支援を受けなくてはならない可能性が低くなります。
  • 万が一入院が必要な場合、入院期間が短くなります。
  • 仕事を持ち自立した生活を営むことができる可能性が高くなります。

治療

統合失調症の症状が初めて現れた場合、できるだけ早く服薬を始めるべきです。

入院する必要はありませんが、精神科医や地域精神保健医療チームのスタッフの診察を受ける必要があるでしょう。あなたが自宅にいながら治療を受けられるような計画を立ててくれます。たとえ入院しなくてはならないとしても、それはあなたが自宅で療養できるまでに回復するまでの期間だけです。

薬物治療

薬は最も苦痛の大きい症状を改善しますが、すべてに対する解決策ではありません。薬物治療は、他の治療を始められるまでに回復するには重要な治療段階です。薬物治療以外に回復に大切なのは、家族や友人の支援や対話療法、さらに支援付き住宅やデイ・ケア、就労支援プログラムといった福祉サービスの利用といったことです。

どうして服薬が必要なのですか?

薬は症状が日常生活へ与える影響を少なくします。服薬を続けると、次のような変化が見られます。
  • 妄想や幻覚は、数週間のうちにだんだんと弱くなります。
  • はっきりと考えられるようになります。
  • 意欲が高まり、身の回りのことが自分でできるようになります。ただし薬の量が多すぎたり、合わない薬を服用すると、逆効果になることもあります。

どうやって服用するのですか?

  • 薬には錠剤、カプセル、シロップがあります。一日に何回も薬を忘れずに飲むのは誰にとっても難しいことです。そのため、現在では一日に一回だけ服薬すればよい薬もあります。
  • もし毎日薬をのむことが難しければ、数週間(2、3、あるいは4週間おきに)に一回、抗精神病薬の注射を受けるほうが便利かもしれません。こればデポ剤というもので、看護師が注射をおこないます。

薬にはどれくらい効果がありますか?

  • 統合失調症の人5人のうち4人に効果があります。薬は症状を抑制しますが、完治させるものではありません。症状の再発を妨ぐためには服薬を続ける必要があります。
  • たとえ薬を飲んでいても、症状が再発することはあります。ただし、症状がよくなってからも薬を飲み続けていれば、再発する可能性はずっと低くなります。

どのくらい薬を飲み続けなければならないのですか?

  • ほとんどの精神科医は長期間にわたって薬を飲むように勧めます。
  • もし薬の量を減らしたり飲むのをやめたい場合は、医師に相談しましょう。
  • 薬の量は少しずつ減らしましょう。そうすると症状が再発しても、さらに悪化する前に気づくことができます。

 

薬を飲むのをやめたらどうなりますか?

多くの場合、症状が再発します。すぐにではありませんが、たいてい3ヶ月から6ヶ月のうちに再発します。

抗精神薬についてもっと知りたい場合、こちらのページをご参照ください。

普段の生活に戻るには?

統合失調症に罹ると日常生活を送るのが困難になります。症状のせいであったり、そうではなかったりします。時にはただ単に身の回りのことをする習慣がなくなってしまうこともあります。洗濯、来客に応じること、買い物や電話をかけること、友人とおしゃべりすることなどの普通の習慣を取り戻すのが困難になることもあります。

対話療法(心理療法)

認知行動療法(Cognitive Behavioural Therapy; CBT)

認知行動療法は、臨床心理士、精神科医、資格を得た看護師によって行われます。次のようなことに効果があります。
  • あなたが一番大変だと思っている問題に集中して治療します。これは思考、幻覚、迫害されているという思いなどです。
  • これらのことをどう考えているかに注目しますー考え方の癖です。
  • これらについてどのように反応するかを考えますー行動の仕方の癖です。
  • 考え方や行動の仕方の癖がどのようにあなたに影響するかを見ていきます。
  • あなたの考え方や行動の仕方が果たして非現実的なものか、役に立たないものかどうかを考えます。
  • もっと有効な考え方、行動の仕方があるかどうか考えます。
  • これまでと違った考え方、行動の仕方を試してみます。
  • 新しいやり方がうまくいくかどうか見ます。もしうまくいけば、新しいやり方を常に使えるように援助します。もしうまくいかなければ、あなたに合うもっとよい方法を考えていきます。
認知行動療法は、あなたが自信を得て、これまでと違った方法で問題を解決できるようになることを目指します。認知行動療法は、問題である妄想や幻覚を軽くするのに役立つことがわかっています。治療は通常8~20回にわたり、1回の治療は約1時間くらいです。統合失調症の症状を改善するために、「復習コース」を折に触れて受けたほうがいいでしょう。

カウンセリングと支持的心理療法

これらの治療は次のようなことに役立ちます。
  • 悩みを打ち明けられるようになります。
  • 悩みについてもっと深く話せるようになります。
  • 日常生活の問題について自分から助けを求められるようになるます。

家族ミーティング

あなたとあなたの家族が状況にもっとうまく対処できるよう援助します。統合失調症についての情報や、どのようにしたら統合失調症の人を最もうまく支えることできるのか、思いもよらず持ち上がる問題をどのように解決するのかなどを話し合う機会を作ります。およそ10回のミーティングが約6ヶ月にわたって持たれます。

地域精神保健医療チームまたは早期介入サービスからの支援
  • あなたの地域チームのスタッフ(ケア・コーディネーター)と定期的に面談します。
  • 地域精神科専門看護師と面談し、薬物治療に関する問題が解決できるよう支援を受けます。
  • 作業療法士は次のようなことをします。
  • あなたにどのような特技があって、何ができるのかはっきりさせます。
  • あなたの不得意とすることを上達させる方法を教えます。
  • 身の回りのことがもっとできるようになる方法を考えます。
  • あなたの社会交流(他の人と付き合う方法)を上達させる手助けをします。
  • チームが一定期間に渡って家族と定期的に話し合いをするという支援があります。家族がもっと病気や治療について学び、日常生活の実用的な問題を解決するのを助けます。
  • 精神科医は通常あなたの薬物治療を担当し、また、あなたに対するケア全体の責任を持ちます。
  • ケア・コーディネーターは、あなたが必要とするケアが確実に受けられるように手配する責任があります。
  • 社会復帰のためのリハビリテーション施設やその支援をする人たちは、あなたの復職、復学、あなたがやりがいのあると思う活動に戻るのを助けます。

治療方法を比較すると

  • クロザピンを除いて、抗精神病薬どうしの効果に違いはあまりないようです。副作用の可能性を考えながらどの抗精神病薬を初めに服薬するのがいいのか、医師と十分に話し合う必要があるでしょう。
  • どの抗精神病薬があなたにとってよく効くか、前もって予想することはできません。まず、ある抗精神病薬を試してみて様子をみます。効果がなかったり副作用が強いようであれば、別の抗精神病薬に変更するか医師と話し合いましょう。
  • 人によってはクロザピンが他の抗精神病薬より効果があります。しかしクロザピンには重い副作用が生じる可能性があるため、他の薬が効かなかったときにのみ、精神科専門医によって処方されます。1種類の「定型的」抗精神病薬と 1種類の「非定型的」抗精神病薬をそれぞれ8週間服用しても効果がなかった場合、クロザピンを試してみる価値があります。
  • 認知行動療法は服薬している人に効果があるようですが、服薬していない人にどれくらい効果があるのかはわかっていません。初期の統合失調症の人には特に効果があるようです。
  • 治療についてより詳しい情報は、英国国立医療技術評価機構(NICE;National Institute for Health and Care Excellence)の治療指針を参照してください。
  • 治療について満足がいかない場合は、他の精神科医の意見(セカンドオピニオン)を乞うこともできます。

社会福祉面での援助

デイ・ケアセンター

あなたは現在働いていないか、復職できないでいるかもしれません。たとえそうであっても毎日外出して何かをすることはいいことです。

多くの人は定期的に、デイ・ホスピタル、デイ・センター、あるいは地域精神保健センターに行きます。そこではさまざまな活動が提供されています。スポーツ、絵画や陶器作りなどの創造的活動、教育や復職に向けての職業訓練などです。また活動的になり、他の人と時間をともに過ごせます。

地域によっては、このような精神保健サービスを受けている人に限定された施設を運営していないこともあります。こころの健康に問題があるなしにかかわらず、万人を対象とした活動に参加してもらうことを主眼に置いているためでしょう。

就労支援プロジェクト

これは職業につくための技術の向上を援助します。通常、地域の雇用主とつながりがあり、あなたが仕事に戻る際に援助を受けられます。もし長い期間病状が悪いようであれば、専門のリハビリテーション・サービスが必要かもしれません。

芸術療法

芸術活動を通して、次のようなことができるように援助します。
  • 違った方法で他の人と一緒にいることができるようになります。
  • 言葉で伝えられない感情を表現し、理解することができます。
  • 何かを創造することに喜びを覚えます。
これらはたいていグループでおこなわれます。

支援付き住宅

日々の問題について援助するスタッフが常駐する住居のことです。集団住宅の中にある個室や、単身型住居があります。

ケア・プログラム・アプローチ(イングランドおよびウェールズのみ)

これは、統合失調症の人が適切な援助や治療を受けられるようにする仕組みのことを指し、以下のように機能します。
  • ケア・コーディネーターはあなたが受ける様々なケアや治療を取りまとめる役割を担います。
  • 3ヶ月から6ヶ月おきに定期的ミーティングが開かれ、ケア・コーディネーター、精神科医、あなたの治療や援助に関わるその他の人たち(家族や介護者を含む)が参加します。
  • ケア・プランは上記の定期ミーティングで点検されます。ケア・プランはそのたびに更新され、あなたが内容を確認して変更が必要なのか決められるよう、ケア・プランのコピーを渡されます。
  • もしあなたがまた具合が悪くなったり、問題に直面した時にどうしたらいいか、ミーティングであなたとともに計画を立てます。
あなたの介護者のニーズについても、毎年評価されます。

自分でできること

具合が悪くなり始めた時の早期の兆候に気づけるようにします。例えば、次のようなことです。
  • 食事をしない、不安になる、眠れないといった日常的なこと。
  • あなたが着替えや掃除、料理をしなくなるといったことに周りの人が気づくこと。
  • 軽い症状の表れ。少し疑い深くなったり怖くなったり、他人の思惑について勘ぐったりしはじめます。幻聴が始まって小さな声で時々出てきたり、集中するのが難しくなったりします。
具合を悪くさせるようなことは避けるようにしましょう。例えば、次のようなことです。
  • あまりにも長い時間、人と一緒に過ごすというような、あなたにとってストレスになる状況。(もっとも、人といることが助けになるということもあります。以下を参照ください。)
  • 麻薬(違法薬物)やアルコールの乱用。
  • 生活費についてひとりで悩んだり、人からの援助やアドバイスを受けない。(負債とこころの健康についてはこちらのリーフレットを参照ください。)
  • 家族や友人、近所の人たちと言い争う。                  
リラックスする方法を学びましょう。

 
定期的に何か楽しめることをしましょう

幻聴(声)とうまくやっていく方法を見つけましょう
  • 他の人と時間を過ごす。
  • いろいろなことをして過ごしましょう。
  • 個人用ステレオで音楽などを聴きましょう。(テレビやラジオでもいいですが、家族や近所の人の迷惑になることがあります。)
  • 幻聴はあなたに危害を加えないということを思い出しましょう。
  • 幻聴はあなたがしたくないことをさせる力はないことを覚えておきましょう。
あなたと同じような経験を持つ人のための自助グループに参加しましょう。(以下参照)

あなたの具合がまた悪くなりつつある時に教えてくれるような、信用できる人を近くに見つけておきましょう

統合失調症と薬物療法について学びましょう
  • 看護師や、メンタルヘルスワーカー、精神科医、統合失調法をもつ他の人たちと薬物療法について話し合いましょう。
  • あなたの診断や薬物療法について、書面での情報をもらいましょう。
  • もし薬が効かない場合、他の薬について尋ねてみましょう。
健康に気を配りましょう
  • 新鮮な野菜や果物をたくさん食べ、バランスのとれた食事を心がけましょう。
  • 煙草は吸わないことです。煙草はあなたの肺や、心臓、循環器や胃によくありません。
  • 毎日ほんの20分の散歩でもいいので、定期的な運動をしましょう。もっと激しい運動を定期的にすると(心拍数が通常の2倍になるようなものを20分間、週3回)、気分の向上に役立ちます。

もしラジオやテレビで統合失調症に関して間違っている情報提供していたり、悪意のある内容の番組があれば、気落ちせずに行動を起こしましょう。手紙やEメールを送るか、電話をしてそれらは間違っていることを伝えましょう。効果があるものです。

麻薬などの薬物は使用しないようにしましょう。

ご家族に

自分の息子や娘、夫や妻、きょうだいが統合失調症にかかっている時、目の前で何が起ここっているか理解するのは難しいでしょう。時には何が悪いのか誰にもわからないということもあります。

家族が対面しえる状況とは?

家族の一員が不可解な行動をとったり、近寄りがたくなったり、以前と別人になってしまったかのようになります。人との付き合いを拒み、活動的でなくなります。もし妄想があれば、そのことについて話すこともあれば黙っていることもあります。もし幻聴があると、突然よそ見をして、まるでそこにはいない誰かの話を聞いているかのような態度を取るかもしれません。あなたが話しかけてもほとんど何も言わないか、理解に苦しむことを言うかもしれません。睡眠のパターンがかわり、昼夜逆転することもあります。

これらの言動はただの反抗的態度かと思うかもしれません。このような変化は徐々に起こるので、あとで振り返ってみて初めて、あの時から初期の兆候があったということに気がつきます。特にただでも変化するのが当たり前の十代には、その変化に気がつくことは難しいでしょう。

私のせい?

家族の一員として「発症したのは私のせいではないか?」と思い悩み、自分を責めるようになるかもしれません。他の家族も同じ病気にかかるのだろうか、将来どうなるのか、どのようにしたら当人にとって一番よい助けになるのかと、考えを巡らせるでしょう。

地域精神保健医療チームに相談できますか?

以前は個人情報の守秘義務のため、家族が話し合いに参加できないことがしばしばありました。しかし現在は違います。統合失調症の人の多くは家族と同居したり、家族から支援を受けながら暮らしています。そのため家族は、最適な方法で本人を支えられるような情報を持っているべきです。本人が家族に関わってほしくないと希望したとしても、家族は本人が現在どのような状態なのか、地域精神保健医療チームに伝えることはできます。

家族は、必要な援助や情報を得る権利があります。地域精神保健医療チームは、家族の心配や気掛かりなことに耳を傾ける必要があります。

統合失調症関連の慈善団体も、役に立つ情報や援助を提供しています(下記のリストをご覧ください)。

家族には何ができますか?

家族へのアドバイスとして、統合失調症の人はストレスに過敏になります。口論は避け、落ち着いて振る舞いましょう。言うのは簡単なのですが!

これまで言われてきた誤った社会通念

統合失調症は精神が分裂しているという意味ですか?

いいえ。多くの人は、統合失調症とは、普通に見えた人が一瞬にして人格が変わることだと思っています。これは事実ではありません。

統合失調症という言葉は、二通りに間違って使われていることがあります。
  • 混乱した、あるいは相反する感情を持つこと。これは普通の人間性の一部です。「相矛盾する」という表現のほうがふさわしいかもしれません。
  • 場面ごとに異なる振る舞いをする人のこと。これも人間の性質の一面です。

 

統合失調症になると凶暴になるのではないですか?

統合失調症を患っているからといって、必ずしも凶暴なわけではありません。凶暴な振る舞いは通常麻薬やアルコールによってももたらされます。これは統合失調症でない人にも起こることです。

統合失調症になると暴力的な振る舞いをする確率が高くなりますが、社会での麻薬やアルコールによる暴力の割合に比べれば、わずかです。統合失調症の人は、加害者になるよりも、他者から危害を加えられることのほうがずっと多いのです。

統合失調症は絶対に治らない病気である

4-5人にひとりの統合失調症の人は完治し、5人のうち3人は治療を必要とするものの、改善します。

他の役に立つ団体の連絡先

Paranoid thoughts
他者に対して感じる根拠のない、あるいは極端な恐れについてのウェブサイトです。

Rethink Mental Illnes
アドバイスのための電話ライン: 0300 5000 927
全国的な慈善団体で、深刻な精神疾患を持つ人とその家族や介護者をサポートしています。

Support in Mind Scotland(スコットランド)
電話番号: 0131 662 4359; ファックス番号: 0131 662 2289; Eメール: info@supportinmindscotland.org.uk
大変な精神疾患によって影響を受けている人たちの福利や生活の質の向上のために活動しています。精神疾患を持つ人の家族や介護者、支援をしている人たちも含まれます。
 
Mind
マインド情報ライン: 0300 123 3392; Eメール: info@mind.org.uk
こころの健康に関するすべての分野について、広範な印刷物を発行しています。
 
Saneline
ヘルプライン: 0845 767 8000 (午後1時〜午後11時、年中無休)
精神疾患をもつ人、その家族や介護者、および精神保健に関わる専門家への心理的サポートや実践的な情報を提供しています。
 
Shine: supporting people with mental illness(アイルランド)
 

参考図書

Fast Facts: Schizophrenia. S Lewis and RW Buchanan
Living with schizophrenia. N Burton and P Davison


参考文献

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このリーフレットは、NICE(英国国立医療技術評価機構;National Institute for Health and Care Excellence)の診療指針に基づいています。

Translated by Akiko Suzuki, Kayoko Hosaka and Dr Nozomi Akanuma. May 2013

 

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